第38話 魔導馬車
街道。
新しく整備された道の上。
一台の馬車が止まっていた。
だが――
馬がいない。
御者が戸惑う。
「……馬は?」
その問いに、セラが小さく笑う。
「いりません」
横に立つレオナ。
静かに装置を確認している。
車体の下部。
組み込まれた魔石。
回路。
そして――
駆動機構。
「動力は魔力」
レオナが言う。
短い説明。
御者が眉をひそめる。
「そんなもので動くのか……?」
レオナは答えない。
ただ。
「起動」
魔石が淡く光る。
低い振動。
空気がわずかに震える。
次の瞬間。
馬車が――
滑るように動いた。
「……っ!?」
御者が声を失う。
揺れが少ない。
音も静か。
だが確実に進んでいる。
加速。
じわりと。
そして――
一気に速度が上がる。
セラが目を細める。
「速い……」
馬とは違う。
限界がない。
一定の出力。
安定。
「制御できる」
レオナの声。
速度も。
停止も。
思いのまま。
荷台。
大量の荷物。
通常の倍以上。
だが問題ない。
「出力余裕あり」
淡々とした報告。
都市へ向かう。
街道を滑るように進む。
他の馬車を追い抜く。
御者たちが驚く。
「なんだあれ!?」
「馬が……いない!?」
一瞬で噂になる。
見たことのない移動手段。
都市到着。
時間は――
さらに短縮。
商人が駆け寄る。
「それ……いくらだ!?」
レオナは一言。
「量産する」
その日から。
魔導馬車は増えた。
街道。
走る。
止まらない。
昼も夜も関係ない。
物流が変わる。
農作物。
即日輸送。
鮮度維持。
廃棄ゼロに近づく。
工房製品。
遠方へ。
即座に届く。
需要に即応。
商人が笑う。
「金が回る……!」
流れが加速する。
滞らない。
市場。
物が溢れる。
選択肢が増える。
価格が安定する。
セラが呟く。
「……経済が、変わってます」
レオナは頷く。
「当然」
「遅い輸送は無駄」
それを消しただけ。
さらに。
人の移動。
乗客用の魔導馬車。
快適。
速い。
安全。
「こんなに楽に……」
旅人が驚く。
疲れない。
時間もかからない。
都市間の距離が縮まる。
心理的にも。
物理的にも。
治安隊。
即応性向上。
どこでもすぐに駆けつける。
医療。
患者搬送。
時間短縮。
救える命が増える。
すべてが繋がる。
すべてが速くなる。
夕方。
丘の上。
レオナとセラ。
街道を見下ろす。
魔導馬車が行き交う。
止まらない流れ。
光る軌跡。
セラが静かに言う。
「もう……元には戻れませんね」
レオナは即答。
「戻る必要がない」
少しの沈黙。
風が吹く。
セラがふと聞く。
「これで完成ですか?」
レオナは首を横に振る。
「まだ」
一言。
「限界がある」
魔導馬車。
確かに速い。
だが――
道路に依存する。
渋滞。
容量。
物理的制約。
「もっと運べる」
「もっと速く」
セラが苦笑する。
「ですよね」
レオナは遠くを見る。
街道のさらに先。
その先の先。
「次は線で繋ぐ」
点でも面でもない。
もっと強固なもの。
セラが小さく息を吐く。
「……嫌な予感しかしません」
レオナは淡々と答える。
「効率化」
その一言で十分だった。
魔導馬車が走る。
だがそれは――
通過点。
本当の輸送革命は。
まだ始まったばかり。
レオナが最後に言う。
「次は鉄道」




