第36話 魔導通信
工房。
中央。
例の装置が、ついに完成していた。
円形の台座。
その上に埋め込まれた魔石。
複雑に絡み合う回路。
そして――
細い光が、ゆっくりと流れている。
セラが息を呑む。
「……これが?」
レオナは頷く。
「通信装置」
短い説明。
周囲には研究者たち。
静かに見守っている。
誰も軽口を叩かない。
全員が理解している。
これは――
今までとは違う。
「準備」
レオナの一言。
別の建物。
離れた場所。
そこにも同じ装置が設置されている。
距離はある。
歩けば時間がかかる。
だが――
「開始」
レオナが魔石に触れる。
微かな光。
回路が反応する。
そして。
「……聞こえるか」
レオナの声。
それが、装置の中へ吸い込まれる。
沈黙。
一瞬。
次の瞬間。
装置から声が返る。
『……こちら、聞こえます』
セラが目を見開く。
研究者たちがざわめく。
「成功」
レオナの一言。
それだけで十分だった。
セラが装置に近づく。
恐る恐る触れる。
「本当に……?」
レオナが言う。
「距離は関係ない」
事実。
それだけ。
実験が続く。
別地点。
農業区画。
「水量を増やせ」
装置越しに指示。
『了解、今やる!』
即座に返事。
そして、実行。
時間差がない。
セラが呟く。
「早すぎる……」
今までなら。
人が走る。
伝える。
確認する。
時間がかかる。
だが今は違う。
「即時」
レオナの言葉。
それが全て。
別の場所。
治安隊。
「北区画、異常なし」
報告が入る。
すぐに中央へ届く。
判断も即座。
「巡回継続」
遅れがない。
無駄がない。
さらに。
商業区。
「在庫不足だ!」
『補充を回す』
別の倉庫へ。
指示が飛ぶ。
動く。
止まらない。
セラが静かに言う。
「……都市が一つになったみたいです」
点ではない。
線でもない。
網。
すべてが繋がっている。
レオナは否定しない。
「そう」
一言。
「情報が遅いと、全部が遅れる」
だから変えた。
根本から。
工房。
研究者が興奮気味に言う。
「これを増やせば……!」
レオナが即答。
「増やす」
すでに決定事項。
「各区画に配置」
「外にも伸ばす」
都市の外。
村。
街道。
さらに遠く。
距離の制限は――
ない。
セラが少し考える。
「これ、他国にも……?」
レオナは答える。
「いずれ」
短く。
だが確実に。
外。
都市全体。
見えない線が張り巡らされる。
声が行き交う。
情報が流れる。
誰も気づかないうちに――
世界が変わっていく。
「距離は意味を失う」
レオナの言葉。
その通りだった。
遠いという概念が、薄れていく。
セラが空を見上げる。
「なんだか……怖いですね」
正直な感想。
レオナは少しだけ考える。
そして。
「便利」
それだけ。
工房の装置が光る。
静かに。
だが確実に。
その光は。
都市の中へ。
そして外へ。
広がっていく。
すべてを繋ぐ。
すべてを加速させる。
その始まり。
レオナが最後に言う。
「次は移動」
セラが振り向く。
「……やっぱり」
予想通り。
情報は繋がった。
次は――
人と物。
遠く。
街道。
まだ遅い流れ。
だが、それももうすぐ変わる。
革命は止まらない。
次の段階へ。




