第30話 竜族評価
静寂。
竜族たちは、街の中心に立っていた。
市場の喧騒。
行き交う人々。
絶えず動く物流。
そのすべてを、黙って見ている。
「……どうだ」
一人が口を開く。
低い声。
だが、その中にわずかな迷いが混じる。
別の竜族が答える。
「異常だ」
短い評価。
否定でも肯定でもない。
ただの事実。
「人間の都市ではないな」
別の声。
周囲の空気がわずかに張る。
その言葉は、侮蔑ではなかった。
むしろ――
理解不能という意味に近い。
「効率が揃いすぎている」
視線が動く。
畑。
市場。
街道。
水道。
どれもが連動している。
無駄がない。
ズレがない。
「普通は歪む」
竜族が続ける。
「どこかが崩れる」
だが、この街は違う。
すべてが繋がっている。
均衡している。
「……一人でやったのか」
問い。
レオナに向けられる。
「設計は私」
淡々とした答え。
竜族の目が細くなる。
「設計……」
その言葉を反芻する。
力ではない。
支配でもない。
“構築”。
その概念に、わずかな興味が滲む。
市場の一角。
竜族が、荷の流れを見ている。
運ばれる。
売られる。
また運ばれる。
止まらない。
「……速い」
思わず漏れる。
一つの流れが終わる前に、次が来る。
詰まりがない。
「我らでも、この規模は難しい」
ぽつりと呟く。
それは――認めたということだった。
周囲の住民たちは、その言葉の意味を理解できない。
だが、空気で分かる。
“格上が、認めた”。
竜族の一人が、空を見上げる。
「魔力の流れも安定している」
通常なら、これだけの施設があれば乱れる。
暴走する。
だが、この街では起きていない。
制御されている。
完全に。
「……気持ちが悪いほど整っている」
その言葉に、わずかな笑いが混じる。
否定ではない。
驚き。
純粋な。
レオナはそれを聞いても、表情を変えない。
「当然」
一言だけ。
竜族が振り返る。
「何が当然だ」
試すような視線。
レオナは答える。
「無駄を削っただけ」
「必要なものを繋げた」
それだけ。
竜族は数秒、黙る。
そして――
小さく笑った。
「……簡単に言う」
だが、その裏にあるものは理解している。
これは偶然ではない。
再現可能な形で、作られている。
「危険だな」
別の竜族が呟く。
「広がれば、世界が変わる」
その言葉に、空気がわずかに冷える。
危険。
それは、敵意ではない。
影響の大きさへの評価。
しばらくの沈黙。
やがて、先頭の竜族が口を開く。
「結論だ」
周囲が息を呑む。
レオナは何も言わない。
ただ待つ。
「この都市は――」
一瞬の間。
「価値がある」
はっきりと言い切る。
ざわめき。
住民たちは意味を完全には理解できない。
だが――
“認められた”ことだけは分かる。
そして、続く言葉。
「我らは、ここに関与する」
セラが反応する。
「関与……?」
竜族は頷く。
「一部、移る」
空気が止まる。
「……移住?」
誰かが呟く。
信じられない。
竜族が、他種族の街に住む。
前例がない。
レオナは短く聞く。
「理由は?」
竜族は即答する。
「観察」
一瞬の間。
「そして、利用」
正直な答え。
隠さない。
レオナは頷く。
「問題ない」
それだけ。
拒否もしない。
歓迎もしない。
条件が合うなら受け入れる。
その姿勢に、竜族がわずかに目を細める。
「……本当に変わっているな」
だが、否定ではない。
むしろ――
興味が深まる。
風が吹く。
街を抜ける。
その中で。
新しい流れが生まれる。
人間の街に、竜族が入る。
それは、小さな変化ではない。
世界の常識が、また一つ崩れる。
そして、その先。
さらに別の存在が、この都市に目を向け始めていた。




