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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第29話 竜族来訪

門の前。


空気が、重く沈む。


誰もが感じていた。


言葉にしなくても分かる。


“格が違う”。


ゆっくりと現れた影。


人の形をしている。


だが――違う。


長い角。


揺れる瞳。


その一歩ごとに、地面がわずかに軋むような錯覚。


「……あれが」


誰かが呟く。


「竜族……」


ざわめきが広がる。


獣人ですら、無意識に距離を取る。


本能が告げている。


逆らうな、と。


先頭の竜族が、門の内側を見渡す。


視線だけで、空気が張り詰める。


「……ここか」


低い声。


響く。


威圧が乗っている。


門番が一瞬、言葉を失う。


だが、その前に――


「用件は?」


レオナが歩み出る。


変わらない。


いつも通りの声。


竜族の視線が、彼女に向く。


一瞬。


沈黙。


「……ほう」


興味。


わずかに混じる。


「人間が前に出るか」


周囲が息を呑む。


普通なら、下がる。


だがレオナは動かない。


「視察だろう」


先に言う。


無駄を省く。


竜族の眉がわずかに動く。


「話が早いな」


「無駄が嫌いなだけ」


短いやり取り。


だが、その中で――


力の均衡が揺れない。


周囲がざわつく。


「……平然としてる」


「相手、竜族だぞ……」


だがレオナにとっては同じだった。


“話が通じるかどうか”。


それだけ。


竜族が一歩、街へ踏み込む。


その瞬間。


空気がさらに重くなる。


周囲の人々が、無意識に息を潜める。


だが――


「いらっしゃい」


通りすがりの商人が、普通に声をかけた。


竜族が、わずかに視線を向ける。


「……何だ」


「見てくんだろ? 市場ならあっちだ」


指をさす。


それだけ。


恐れていない。


媚びてもいない。


ただの案内。


竜族は一瞬、言葉を失う。


そして――小さく笑った。


「面白い」


市場。


竜族が歩く。


そのたびに、人が道を空ける。


だが、逃げるわけではない。


距離を保つだけ。


「……品は揃っているな」


店を一つ見る。


野菜。


肉。


加工品。


量も質もある。


「買うのか?」


店主が聞く。


自然に。


竜族は少しだけ目を細める。


「我に売るのか」


「客だろ?」


即答。


迷いなし。


一瞬の静寂。


そして――


「……良い」


竜族は金を出す。


取引が成立する。


その光景に、周囲がざわめく。


「……普通に売ったぞ」


「相手、竜族だぞ……」


だが、ここでは違う。


客は客。


それだけ。


視察は続く。


水道。


街道。


診療所。


どれも、説明される。


レオナが簡潔に。


「効率化してる」


「無駄を削減してる」


それだけ。


だが、竜族の目は徐々に変わっていく。


「……人間にしては、やるな」


上からの評価。


当然のように。


だが――


レオナは反応しない。


「当然」


ただそれだけ。


一切の揺らぎがない。


竜族が立ち止まる。


レオナを見る。


「貴様、自分が何をしているか分かっているのか」


問い。


試すような視線。


レオナは即答する。


「最適化」


短い。


だが、明確。


竜族の口元がわずかに歪む。


「……それが、この規模か」


周囲の空気が張り詰める。


二人の間に、見えない圧が走る。


価値観が違う。


明らかに。


片方は“力”。


片方は“効率”。


どちらが上か。


まだ決まっていない。


やがて。


竜族は街を一通り見終える。


振り返る。


人々。


動き続ける都市。


そして、レオナ。


「……想定外だ」


低く呟く。


それは評価か、警戒か。


まだ分からない。


だが、確実に――


“ただの人間の街”ではないと認識した。


レオナは淡々と聞く。


「結論は?」


竜族がゆっくりと笑う。


「まだ出さぬ」


一瞬の間。


「だが――」


空気が揺れる。


「面白い」


その言葉が落ちる。


評価。


そして同時に――


“観察対象”。


風が吹く。


重かった空気が、少しだけ動く。


だが。


完全には消えない。


価値観は、まだぶつかっていない。


表面だけ。


次に来るのは――


本当の判断。

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