第28話 治安隊
「次は、治安」
レオナの一言で、方針は決まった。
広場。
人が集まる。
商人、農民、職人。
そして、最近増えた移住者たち。
セラが前に立つ。
「最近、小さな衝突が増えています」
ざわめき。
誰もが心当たりがある。
物が増えた。
人が増えた。
だから、ぶつかる。
それは自然な流れだった。
「そこで――」
セラは一呼吸置く。
「治安隊を作ります」
その言葉に、さらにざわめきが広がる。
「兵士か?」
「取り締まるのか?」
不安と警戒。
だが、レオナは首を横に振る。
「違う」
短い否定。
「市民でやる」
一瞬、沈黙。
「……は?」
理解が追いつかない。
レオナは続ける。
「専属じゃない」
「持ち回り」
「時間ごとに担当する」
セラが補足する。
「誰か一部に任せるのではなく、全体で維持します」
それが、この街のやり方。
特別な権力は作らない。
責任を分散する。
最初の巡回。
三人一組。
人間、獣人、魔族。
混ざっている。
通りを歩く。
見る。
声をかける。
「何かあったか?」
「いや、問題ない」
短いやり取り。
それだけでいい。
存在があるだけで、抑止になる。
だが、それだけでは終わらない。
セラが小さな装置を掲げる。
「これを使います」
手のひらサイズの魔導具。
淡く光る。
「連絡用です」
一人が話す。
「南通り、問題なし」
少し離れた場所。
別の装置が光る。
「了解」
声が届く。
距離は関係ない。
「……すぐ繋がるのか」
驚きの声。
レオナが答える。
「魔導通信」
それだけ。
だが、その効果は大きい。
異常があれば、すぐ共有。
対応も早い。
無駄がない。
数日後。
変化は明確だった。
「最近、静かだな」
誰かが言う。
衝突が減った。
争いが起きない。
起きても――
「やめろ」
巡回の一言で終わる。
エスカレートしない。
大事にならない。
「……ほぼないな」
犯罪。
その言葉自体が、遠くなる。
理由は単純。
見られている。
すぐ伝わる。
すぐ来る。
やる意味がない。
レオナはそれを当然のように言った。
「抑止できれば十分」
捕まえる必要すらない。
起こらなければいい。
それが最も効率的。
セラは街を見渡す。
人が動く。
笑う。
働く。
不安がない。
「……ここ、本当にすごいですね」
思わず漏れる。
食料がある。
水がある。
医療がある。
そして――
安全がある。
生活の基盤が、すべて揃っている。
レオナは短く答える。
「まだ途中」
セラは苦笑する。
「どこまで行くんですか」
レオナは少しだけ視線を遠くに向ける。
その時。
門の方が、ざわついた。
巡回の一人が通信で伝える。
「外部から来訪者あり」
セラが顔を上げる。
「……誰ですか?」
一瞬の間。
返答が来る。
「……大きい」
ざわめきが広がる。
門の向こう。
ゆっくりと近づいてくる影。
人ではない。
明らかに。
空気が変わる。
重くなる。
レオナはそれを見て、静かに言った。
「次ね」
風が止まる。
そして――
新たな存在が、境界を越えようとしていた。




