第25話 獣人移住
門の外に、列ができていた。
前回とは違う。
数人ではない。
十数人。
いや、それ以上。
耳。
尾。
人とは違う特徴を持つ者たち。
――獣人。
門番が困ったように振り返る。
「……どうします?」
セラも一瞬だけ言葉に詰まる。
増えている。
明らかに。
噂が広がっている証拠。
視線が、自然と一人に集まる。
レオナは、いつも通りだった。
「仕事は?」
それだけを聞く。
獣人たちは一瞬、戸惑う。
だがすぐに答えが返ってくる。
「運搬ができる」
「狩りが得意だ」
「手先は器用だ」
短い言葉。
だが、要点は十分。
レオナは頷く。
「なら入っていい」
あまりにも簡単な許可。
門が開く。
獣人たちは、慎重に足を踏み入れる。
警戒している。
周囲を見渡す。
人間の街。
だが――
「おはよう」
通りすがりの商人が、普通に声をかける。
獣人が、固まる。
「……あ?」
「荷物運べるなら、あとで頼む」
それだけ言って去っていく。
敵意はない。
恐れもない。
ただの会話。
獣人たちは顔を見合わせる。
理解が追いつかない。
市場。
一人の獣人が、恐る恐る店に近づく。
「……これ、いくらだ」
店主が顔を上げる。
一瞬だけ、視線が耳と尾に向く。
だが、それだけ。
「三だ」
普通に答える。
値段は変わらない。
態度も変わらない。
獣人は戸惑いながら金を出す。
取引が成立する。
何も起きない。
「……いいのか?」
思わず聞く。
店主は首を傾げる。
「何がだ?」
本気で分かっていない。
その反応に、獣人は言葉を失う。
別の場所。
運搬作業。
重い荷物。
人間が二人で持っていたものを、一人の獣人が軽々と持ち上げる。
「おお……」
周囲が感心する。
称賛。
それだけ。
羨望はあるが、嫉妬はない。
仕事として評価される。
その日の終わり。
報酬が渡される。
同じ量。
同じ基準。
獣人はそれを見て、目を見開く。
「……同じなのか」
隣で受け取った人間と、変わらない。
セラが答える。
「仕事の量で決まります」
簡単な説明。
「種族は関係ありません」
その言葉は、静かに響いた。
夜。
広場。
火を囲む人々。
人間、獣人、混ざっている。
誰かが肉を焼く。
別の誰かがパンを配る。
自然な流れ。
ぎこちなさは、最初だけだった。
「その耳、どうやって動かしてるんだ?」
子供が無邪気に聞く。
獣人が少しだけ笑う。
「こうだ」
ぴくりと動かす。
子供が笑う。
周囲もつられて笑う。
それだけで、距離は消える。
セラはその光景を見ていた。
静かに。
そして、隣のレオナに言う。
「……本当に、普通に混ざりますね」
レオナは頷く。
「条件が同じなら当然」
「能力で評価する」
「それだけ」
簡単な理屈。
だが、この世界では異常だった。
セラは少し考える。
「差別がない理由って……それなんですね」
「無駄だから」
即答。
レオナは続ける。
「分類しても利益にならない」
「ならしない」
感情ではない。
合理。
だが、その結果は――理想に近い。
数日後。
街の様子は、さらに変わる。
運搬効率が上がる。
狩猟による供給が増える。
新しい技術も持ち込まれる。
獣人たちが持っていた知識。
それが加わる。
「……流れが変わってる」
セラが呟く。
明らかに、活気が違う。
人が増えただけではない。
“回り始めている”。
レオナはそれを見て言う。
「当然」
そして、少しだけ視線を遠くに向ける。
「供給が増えた」
「流通もある」
一瞬の間。
「なら、次は――」
セラが嫌な予感で聞く。
「……何ですか」
レオナは答えた。
「商業を拡張する」
その言葉と同時に。
市場の声が、さらに大きくなる。
売る声。
買う声。
人の流れ。
すべてが加速していく。
この街は、ただ豊かなだけではない。
“動いている”。
そして、その動きは――
次の段階へ進む。




