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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第22話 農業革命

「次は、農業を完成させる」


レオナのその一言から、すべては始まった。


畑は、すでに整っていた。


魔導農具。


効率化された耕作。


規則的な区画。


だが――


レオナは首を横に振る。


「まだ足りない」


セラが呆れたように言う。


「これ以上ですか?」


「ええ」


当然のように。


レオナは土を手に取る。


指で崩す。


匂いを確かめる。


「栄養が偏ってる」


短い分析。


村人たちは首を傾げる。


「土に……栄養?」


聞き慣れない概念。


レオナは淡々と説明する。


「同じ作物を作り続けると、土が弱る」


「だから、順番に変える」


セラが目を細める。


「作物を……ローテーションするんですか?」


「そう」


――輪作。


新しい概念だった。


「この区画は穀物」


「次は豆」


「その次は別の作物」


指で図を描くように示す。


「土が回復する」


シンプルな理屈。


だが、誰もやってこなかった方法。


さらに。


「肥料も変える」


レオナは別の袋を開ける。


加工された有機物。


「これで土壌を補強する」


村人たちがざわめく。


「そんなことまで……」


だが、それだけでは終わらない。


「農具も改良する」


魔導農具に手を加える。


魔石の出力調整。


耕す深さの均一化。


「人の感覚に頼らない」


「全部、再現可能にする」


その言葉に、セラが小さく息を吐く。


「……徹底してますね」


「当然」


レオナは迷わない。


「安定しないのが一番非効率」


すべてを“仕組み”にする。


個人の技術ではなく。


誰でもできる形へ。


作業は一気に進んだ。


区画ごとに作物を分ける。


肥料を投入する。


魔導農具で均一に耕す。


村人たちは最初こそ戸惑ったが、すぐに慣れた。


なぜなら――


「楽だ……」


誰かが呟く。


重労働が減っている。


なのに。


成長は、明らかに違っていた。


数日後。


芽の出方が違う。


揃っている。


無駄がない。


さらに数日。


成長速度が早い。


目に見えて。


「これ……前より速くないか?」


「倍はあるぞ……」


村人たちがざわつく。


そして、収穫期。


畑一面に広がる作物。


その量は――


「……多すぎる」


誰かが、呆然と呟いた。


刈り取っても、減らない。


積み上げても、まだある。


数えていくうちに、誰もが理解した。


「三倍……いや、それ以上だ」


収穫量が、常識を超えている。


村人たちは言葉を失う。


そして、次の瞬間。


笑いが漏れた。


「食いきれねえ……!」


「こんなにあってどうするんだ!」


それは、今まで一度もなかった悩み。


“余る”。


飢えるどころか。


余る。


セラが静かに言う。


「……変わりましたね」


レオナは頷く。


「当然」


その目は、畑ではなく――全体を見ている。


「これで供給は安定した」


村人の一人が、ぽつりと呟く。


「もう……飢えないな」


誰も否定しない。


実感として理解している。


この町では――


飢えという概念が、消えた。


だが。


レオナは、そこで止まらない。


「次」


その一言に、セラが反応する。


「……まだありますよね」


レオナは短く答える。


「ある」


そして、視線を街へ向ける。


人が増えている。


食料は足りている。


だが――


「最近、体調崩す人が増えてる」


セラが報告する。


レオナはすぐに理解する。


「環境の問題ね」


食料は解決した。


だが、別の問題が浮かび上がる。


水。


衛生。


病気。


生きることはできる。


だが、健康ではない。


レオナは静かに言った。


「次は医療」


風が吹く。


豊かに実った畑が揺れる。


その裏で。


新しい課題が、すでに現れていた。

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