表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/60

第21話 都市生活

朝。


グレイウッドは、すでに動いていた。


日が昇る前から、パンの香りが広がる。


焼きたての匂いに誘われるように、人が集まる。


市場の通り。


整然と並んだ店。


野菜、穀物、肉、布、道具。


すべてが揃っている。


「今朝の分、安くするぞ!」


「こっちは昨日より質がいい!」


声が飛び交う。


活気がある。


だが、騒がしいだけではない。


流れがある。


無駄がない。


「これ、いくら?」


「三でいい」


短いやり取り。


すぐに成立する取引。


迷いがない。


一人の獣人が荷物を運び、その横を人間の商人が通り過ぎる。


軽く手を上げる。


「おはよう」


「おう」


それだけ。


特別な意味はない。


だが、それが普通だった。


角のある魔族が、店主と値段交渉をしている。


「少し高い」


「質は保証する」


数秒後、成立。


誰も気にしない。


種族は関係ない。


できるかどうか。


それだけ。


――グレイウッドでは、それが常識だった。


少し離れた場所。


学校では、すでに授業が始まっている。


子供たちが机に向かう。


「これは“水”って書くんだ」


教師が板に文字を書く。


子供たちが真似する。


人間。


獣人。


小さな角を持つ子供。


同じ机で、同じことを学ぶ。


笑い声が混ざる。


間違えても、誰も怒らない。


ただ、直す。


それだけ。


外では、水が流れている。


水道。


誰かが桶を満たし、そのまま家へ戻る。


運ぶ距離は短い。


重労働ではない。


通りには、魔導灯が残っている。


昨夜の光の名残。


まだ消えていないものもある。


夜が終わっても、機能は残る。


そのすべてが、当たり前のように存在している。


――整った生活。


そして、その中心から少し外れた場所。


畑。


風がゆっくりと作物を揺らす。


規則的に並んだ畝。


無駄のない配置。


レオナはそこにいた。


いつも通り。


土を触る。


状態を確認する。


少しだけ手を加える。


それだけ。


派手なことは何もしていない。


だが、その結果が、街を支えている。


セラがやってくる。


書類を手に。


「報告です」


レオナは顔も上げずに答える。


「言って」


「人口、また増えてます」


「予想内」


「あと、商人の数も増加」


「当然」


淡々としたやり取り。


セラは少しだけ間を置いた。


そして、視線を街へ向ける。


人が動いている。


絶え間なく。


「……すごいですね」


ぽつりと呟く。


「ここまで来るとは」


レオナは手を止めない。


「まだ足りない」


即答だった。


セラが振り返る。


「え?」


レオナは立ち上がる。


畑を一度見渡す。


その視線は、作物だけではなく――街全体を捉えている。


「食料は安定した」


「流通もある」


「水も、光もある」


一つ一つ確認するように言う。


セラは頷く。


どれも事実。


なら――十分ではないのか。


レオナは静かに続ける。


「でも、それだけ」


その言葉に、セラの表情がわずかに変わる。


「……それだけ?」


「ええ」


レオナはあっさりと言う。


「生きることはできる」


「でも――」


一瞬の間。


風が吹く。


畑の葉が揺れる。


「それだけじゃ足りない」


セラは黙る。


その意味を考える。


そして、ゆっくりと理解する。


これは“完成”ではない。


ただの“基盤”。


レオナは歩き出す。


畑から街へ向かって。


「次に行く」


セラが小さくため息をつく。


「……今度は何ですか」


レオナは振り返らずに答えた。


「価値を作る」


その一言だけ。


だが、それが何を意味するのか――


まだ誰も知らない。


風が街を抜ける。


人々は笑い、働き、暮らしている。


理想のような日常。


だが、その裏で。


さらに大きな変化が、すでに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ