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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第18話 水道建設

問題は、突然ではなかった。


ゆっくりと――だが確実に、表面に出てきた。


「水が足りない」


誰かが言った。


最初は小さな違和感。


井戸に並ぶ列が長くなる。


汲み上げる回数が増える。


水が濁ることもある。


人口が増えた。


当然の結果だった。


セラが報告書を持ってくる。


「使用量、限界に近いです」


「予測通りね」


レオナは即答する。


驚きはない。


むしろ、遅いくらい。


「井戸は分散型だけど、効率が悪い」


「人力もかかる」


セラは頷く。


「確かに……」


汲む。


運ぶ。


それだけで時間が消える。


無駄が多い。


レオナは立ち上がる。


「作る」


短い一言。


セラが嫌な予感で顔を上げる。


「……何をですか?」


レオナは当然のように答えた。


「水道」


一拍。


「……はい?」


理解が追いつかない。


だが、レオナはすでに動いている。


図面を広げる。


線が走る。


町全体を巡るように。


「水源はあそこ」


少し離れた川を指す。


「そこから引く」


「引くって……どうやって……?」


セラの問いに、レオナは別の図を示す。


円形の構造。


内部に魔石。


「魔導ポンプ」


「水を押し上げる」


シンプルな説明。


だがやっていることは、常識外れだった。


「人力じゃないんですか……?」


「非効率」


一言で切る。


「魔力で動かす」


レオナは淡々と続ける。


「配管を通して各区画に分配」


「必要な場所に、必要な量」


セラは図面を見つめる。


道の下。


建物の横。


見えない場所を、水が流れる設計。


「……そんなことができるんですか」


「できるからやる」


いつもの答え。


そして、実行された。


工事が始まる。


地面を掘る。


管を埋める。


最初は村人たちも半信半疑だった。


「本当に水が来るのか……?」


だが、数日後。


魔導ポンプが起動する。


低い振動音。


水が押し上げられる。


そして――


「出た……!」


一人の男が叫ぶ。


設置された口から、水が流れ出る。


止まらない。


安定した流れ。


井戸ではない。


汲まなくていい。


ただ――そこにある。


「水が……来てる……」


村人たちが集まる。


手を差し出す。


水に触れる。


冷たい。


清潔。


その場で顔を洗う者もいる。


笑い声が上がる。


「運ばなくていい……!」


「並ばなくていい……!」


その変化は、一瞬で広がった。


各区画に水が届く。


家の近くに。


市場に。


作業場に。


水がある。


それだけで、生活が変わる。


セラはその様子を見て、静かに言う。


「……楽になりましたね」


「当然」


レオナは頷く。


だが、目的はそれだけではない。


「重要なのは衛生」


その言葉に、セラが顔を上げる。


「汚れた水は病気を生む」


「清潔な水は、それを防ぐ」


実際に変化は現れ始めていた。


「最近、熱出すやつ減ったな」


村人の声。


以前は当たり前だった体調不良。


それが減っている。


水が変わるだけで。


生活が整うだけで。


「……すごいですね」


セラが素直に言う。


レオナは否定しない。


「環境を整えれば、結果はついてくる」


原因を潰す。


それだけ。


町はさらに安定する。


食料がある。


光がある。


水がある。


最低限どころか、それ以上。


人が生きるための基盤が整っていく。


レオナは一度、町全体を見渡した。


人が動いている。


迷いなく。


それぞれの場所で。


(次ね)


思考は止まらない。


生きる環境は整った。


なら――


「教育」


ぽつりと呟く。


セラが振り返る。


「……今度は何ですか」


レオナは短く答えた。


「人を育てる」


風が吹く。


水の流れる音が、どこかで静かに響く。


この町は、ただの集まりではない。


形を持ち始めている。


そして次に変わるのは――人そのもの。

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