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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第12話 商人来訪

土煙を上げながら、馬車が村へと入ってくる。


見慣れない光景に、村人たちがざわめいた。


「本当に商人だ……」


「こんなところに……?」


辺境の、名もない村。


これまで訪れる者などほとんどいなかった場所に――


外の人間が来た。


馬車が止まる。


中から降りてきたのは、整った身なりの男。


鋭い目をしている。


周囲を一瞥し、すぐに状況を把握する視線。


商人だった。


「ここが噂の村か」


低く呟く。


その一言に、村人たちが顔を見合わせる。


「噂……?」


ざわめきが広がる。


男はゆっくりと歩きながら、畑の方へ視線を向けた。


そして。


足を止める。


「……なるほど」


短く言う。


そこにあったのは――明らかに異常な量の作物。


整備された畑。


均一な成長。


辺境の村とは思えない光景。


商人の目が細くなる。


価値を測る目。


「話が早い」


そう言って、振り返った。


「誰が責任者だ?」


村人たちが一斉にレオナを見る。


その視線の先で、レオナは一歩前に出た。


「私よ」


簡潔な名乗り。


商人は一瞬だけ驚いた表情を見せる。


若い。


しかも令嬢風の身なり。


だが、すぐに表情を戻した。


「……あんたか」


疑いはある。


だが、目の前の結果がそれを否定している。


商人は本題に入った。


「目的は単純だ」


指で畑を示す。


「その作物だ」


村人たちがざわつく。


「やっぱり……」


「本当に買いに来たのか……」


不安と期待が入り混じる声。


商人は続ける。


「量があるなら、まとめて引き取る」


その言葉に、村人たちの呼吸が止まる。


まとめて。


つまり――


全部売れる?


「売れるのか……?」


誰かが思わず口にした。


それは、この村にとって初めての問いだった。


これまで、自分たちの作物が“商品”になることなどなかった。


だが。


レオナは迷いなく答える。


「売れる」


即答だった。


商人の目がわずかに細くなる。


「自信があるな」


「品質と量があるものは売れる」


当たり前のように言う。


「問題は価格だけ」


その言葉に、商人がわずかに笑った。


「いいね。話が分かる」


空気が変わる。


交渉の空気。


「で、いくらで売る?」


商人が問う。


村人たちが固唾を呑む。


誰も経験がない。


いくらが適正なのか、分からない。


だが。


レオナは違った。


「市場価格の八割」


即答。


商人の眉が動く。


「……強気だな」


「輸送費はそちら持ち」


さらに条件を重ねる。


村人たちが息を呑む。


強すぎる。


そう思う。


だが。


商人はすぐには否定しなかった。


むしろ、考えている。


視線が畑へ戻る。


量。


品質。


継続性。


頭の中で計算が走る。


そして。


「七割だ」


値切る。


当然の動き。


レオナは首を振る。


「八割」


一歩も引かない。


沈黙。


数秒。


やがて、商人が息を吐いた。


「……いいだろう」


決着。


村人たちが一斉にざわめく。


「決まった……?」


「本当に……売れるのか……?」


信じられない。


だが現実だ。


商人は懐から袋を取り出した。


中には――硬貨。


金属の音が鳴る。


「前金だ」


袋を差し出す。


レオナはそれを受け取る。


重さを確かめる。


問題ない。


そのまま、村長へと渡した。


「管理して」


村長の手が震える。


袋を受け取る。


開ける。


中を見る。


そして――


言葉を失った。


「……金だ……」


かすれた声。


それは、この村にとって初めての“現金収入”だった。


村人たちがざわめく。


「本当に……」


「売れた……」


現実が追いつかない。


作るだけだった。


生きるためだけだった。


それが今――価値になった。


セラが小さく微笑む。


「一歩ですね」


「ええ」


レオナは頷く。


「これで循環が始まる」


生産。


そして販売。


次に来るのは――


レオナは商人を見る。


「定期的に来なさい」


命令のような口調。


だが商人は笑った。


「望むところだ」


利益がある。


なら来る理由は十分。


馬車の準備が始まる。


積み込みが行われる。


村人たちはまだどこか夢の中のような顔で、それを見ていた。


だが確実に変わっている。


この村はもう――


閉じた場所ではない。


外と繋がった。


風が吹く。


積み上げられた作物が、馬車へと運ばれていく。


それは、この村の未来が動き出した証だった。

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