第10話 村人驚愕
収穫の日が来た。
朝。
まだ空気は冷たい。
だが村人たちはすでに畑に集まっていた。
誰もが落ち着かない様子で、畑を見つめている。
そこにあるのは――
明らかに、これまでとは違う光景だった。
作物が、実っている。
しっかりと。
力強く。
背丈は揃い、葉は濃く、実は重そうに垂れている。
「……こんな……」
誰かが呟く。
手が震えている。
信じられない。
何度も見たはずの畑なのに、まるで別物だった。
セラは小さく息を吸う。
「ここまでとは……」
予想以上だった。
レオナは静かに頷く。
「問題ないわね」
その一言で、村人たちが一斉に動き出した。
収穫が始まる。
鎌を手に取り、作物を刈る。
ざくり。
ざくり。
音が響く。
そのたびに、手応えがある。
軽くない。
しっかりとした重み。
実が詰まっている証拠。
「重い……!」
一人の男が驚きの声を上げる。
「こんなに……」
別の者も声を漏らす。
収穫は続く。
束ねる。
運ぶ。
積み上げる。
そして――
やがて、量が見えてくる。
村人たちは立ち止まった。
誰もが同じ場所を見ている。
積み上げられた作物。
その量は。
明らかに――異常だった。
「……三倍……」
誰かが呟く。
去年の記憶と比べる。
いや、例年と比べてもいい。
それでも答えは同じ。
三倍。
圧倒的な差。
沈黙。
次の瞬間。
一人の女性が、その場に崩れ落ちた。
「……よかった……」
ぽろりと涙がこぼれる。
それが合図だった。
別の誰かも。
また別の誰かも。
次々に涙を流し始める。
「もう……飢えなくていい……」
「子供に食べさせられる……」
嗚咽が広がる。
声を上げて泣く者。
黙って涙を流す者。
誰もが同じ思いだった。
――生き延びられる。
セラはその光景を見て、目を細めた。
「……よかったですね」
小さく言う。
レオナはその隣で、変わらず畑を見ていた。
表情は大きく変わらない。
だが。
ほんのわずかに、肩の力が抜けていた。
「そうね」
短い返事。
それだけで十分だった。
しばらくして。
村長がレオナの前に来た。
深く、深く頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
震える声。
だが、しっかりとした言葉。
レオナはそれを聞いて、軽く首を振る。
「まだよ」
「え……?」
顔を上げる村長。
レオナは畑を指さした。
「これは一回分」
淡々とした指摘。
「継続できなければ意味がない」
村長が息を呑む。
レオナは続ける。
「だから――」
一拍。
そして。
「次は畑を増やす」
静かに、そう言った。
その言葉に。
村人たちが一斉に固まる。
「……え?」
誰かが間の抜けた声を出す。
「増やす……?」
今の収穫だけでも奇跡のような結果。
それを、さらに?
理解が追いつかない。
だがレオナは当然のように言う。
「土地は余っている」
視線が周囲の荒野へ向く。
「使わない理由がない」
正論だった。
あまりにも。
村人たちは顔を見合わせる。
さっきまで涙を流していた者たちが、今度は困惑している。
だが。
その困惑の中に――
ほんのわずかな期待が混じっていた。
もし。
もしそれが本当にできるなら。
この村は。
ただ生き延びるだけでなく――
変わる。
レオナはすでに歩き出していた。
次の土地を確認するために。
止まる理由はない。
収穫は、終わりではない。
ただの通過点。
風が吹く。
積み上げられた作物が揺れる。
それは、未来の重さだった。




