第1話 公開断罪
王城の大広間は、煌びやかな光に満ちていた。
シャンデリアの魔導灯が白い光を落とし、磨き上げられた大理石の床には貴族たちの姿が映り込んでいる。楽団の奏でる優雅な旋律に合わせ、華やかな衣装をまとった男女が舞い踊っていた。
王国でもっとも華やかな夜会。
王子主催の舞踏会である。
その中心で、突然声が響いた。
「──悪役令嬢、レオナ・グレイウッド!」
音楽が止まった。
ざわり、と貴族たちの間に波のようなざわめきが広がる。
踊っていた男女も足を止め、視線が一斉に一人の少女へ向けられた。
レオナ・グレイウッド。
銀に近い淡い金髪を背に流し、深紅のドレスを纏った公爵令嬢。
この国で最も格式ある家の一つ、グレイウッド家の令嬢であり、そして――
第一王子の婚約者。
そのレオナは、呼ばれても驚く様子はなかった。
静かにグラスをテーブルへ置き、ゆっくりと振り向く。
視線の先に立っているのは、王国第一王子――エドワード・レインハルト。
その隣には、一人の少女が寄り添っていた。
平民出身の少女、リリア・フェルナ。
王子が最近やたらと側に置いていると噂の人物だ。
王子は一歩前に出ると、広間中に聞こえる声で言い放った。
「レオナ・グレイウッド! お前の悪行は、もはや見過ごせない!」
ざわめきが一段と強くなる。
貴族たちの顔には、興奮と好奇心が浮かんでいた。
誰もが理解している。
これは――断罪劇だ。
王子は紙を取り出し、高らかに読み上げた。
「まず一つ。平民に対する圧力。貴族の権力を使い、平民を脅した!」
周囲から「おお……」と声が上がる。
「二つ。傲慢な振る舞い! 貴族であることを理由に、他者を見下した!」
視線が一斉にレオナへ向く。
「そして三つ!」
王子は隣の少女の肩を抱いた。
「リリアへの嫌がらせだ!」
リリアは怯えたように王子の腕にしがみつく。
涙を浮かべ、今にも崩れそうな姿。
その光景に、何人かの貴族が小さく頷いた。
「やはり……」
「噂は本当だったのか」
王子は勝ち誇ったように言い放つ。
「これらの行為は、未来の王妃として許されるものではない!」
広間の視線はすべて、レオナへ集まっていた。
普通なら。
ここで顔を青くし、弁明し、涙を流す。
だが。
レオナは、ただ静かに王子を見ていた。
そして心の中で思う。
(……非効率ね)
告発内容。
証拠なし。
論理構造なし。
ただ感情だけ。
(準備不足)
王子はさらに言葉を続けた。
「お前のような悪役令嬢は――」
その時。
レオナが口を開いた。
「で」
王子の言葉が止まる。
広間が静まり返った。
レオナは首を少し傾け、淡々と言った。
「結論は?」
空気が凍りついた。
王子の顔が固まる。
貴族たちも呆然とする。
誰も予想していなかった反応だった。
普通なら怯える。
弁明する。
泣き出す。
だがレオナは、まるで会議の議題を確認するように聞いたのだ。
「罪状は理解しました」
落ち着いた声。
「ですが、結論が提示されていません」
一歩だけ前に出る。
ドレスの裾が床を滑る。
「処罰ですか?」
王子の顔が赤く染まる。
「それとも」
レオナは静かに続けた。
「単なる感情表明でしょうか」
一瞬の沈黙。
そして。
王子の怒りが爆発した。
「貴様ッ!!!」




