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第二十三話:新衣装です。かっこいいです

着替えを終えたはじめの姿を見て、猫型のメイドたちは一瞬だけ呼吸を忘れたように呆然と立ち尽くした。 

だが、すぐにプロの顔に戻ると、一人が恭しく廊下の奥にある重厚な扉を指し示した。


「はじめ様、客室の正門から出るのではなく、こちらの奥の扉をお使いください」


「えっ? みんなと一緒に会場に行くんじゃないの?」


「はい。そちらの扉を出て道なりに進んでいただきますと、大きなカーテンがございます。その前でお待ちくださいませ。お名前をお呼びいたしますので、その合図に合わせてご登場いただければと……」


「え、えぇ……? なんだか、すごく大袈裟じゃないかな……?」


はじめは困惑し、何度も自分の胸元(露わになった胸板)を隠そうと服を引っ張ったが、計算され尽くした「獣の正装」は、そんな抵抗を嘲笑うかのように、動くたびにはじめの「雄」としての輪郭を強調した。


「……ま、いいか。この国流の、歓迎の儀式なんだろうしね」


はじめは、親友である森羅万象が自分を悪いようにはしないだろうという、純粋すぎる信頼(と、致命的なまでの天然)を胸に、言われた通り奥の扉を抜けた。

ひんやりとした石造りの長い廊下。

そこには、獣の国特有の、野性的で芳醇な香りのするお香が焚きしめられていた。


自分の足音だけが響く中、はじめは道なりに進む。

やがて、突き当たりに豪華な真紅のカーテンが現れた。


カーテンの向こうからは、大勢の獣人たちの喧騒と、賑やかな音楽、そして芳しい料理の香りが漏れ聞こえてくる。


(……あぁ、やっぱりここが宴会場の入り口なんだね。よし、名前を呼ばれたら、普通に入っていけばいいんだよね。……普通に……)


はじめは、自分の着ている「エッチな獣服」が、これから起こる大惨事の引き金になるとも知らず、神妙な顔をして、カーテンの前でその時を待った。


カーテンの前で固まっているはじめの耳に、突如として会場内から、空気を切り裂くような激しいドラムロールが鳴り響いた。


「——レディース・アンド・ジェントルマァァァーンッ!! 獣国の夜を焦がす熱き魂の共演!! 今宵、我が国を滅亡の淵から救い上げた真の英雄たちを、このランウェイにお迎えいたしましょうッ!!」


司会を務めるのは、タキシードをビシッと着こなしたカラス顔の獣人。その口調は、まるで往年の名実況者のように、マシンガンの如き速射砲で言葉を叩きつけていく。


「まずはお一人目だぁぁッ!! 虫国の誇り、蜜蜂領が生んだ孤高の戦士!! 黒と黄色のバイカラーをこれほどまでにシックに、これほどまでにエレガントに纏える男が他にいるでしょうかぁぁッ!!」


パァァァンッ!! と、はじめが立っているのとは対角線上、右奥のカーテンに強烈なスポットライトが浴びせられた。


「見るご婦人をことごとく射抜く、漆黒のフォーマル・スーツ!! しかしその裏地には、蜜蜂領の情熱を象徴するイエローが忍ばされているッ!! モダンとクラシックの融合、その名も『ハニー・ハント・タキシード』!! ゼノ様の登場だぁぁぁーーーッ!!」


観客の獣人たちから、割れんばかりの拍手と黄色い声援が上がる。

カーテンを割り、渋い顔を隠すように悠然と(あるいは、ヤケクソで)歩き出したゼノ。普段の冒険者風のボロ布とは打って変わり、仕立ての良すぎるスーツを纏った彼の姿は、まさに「大人の色気」を体現していた。


(……えっ、ゼノさん!? なにあのカッコいい服、ずるいよ!)


カーテンの影でそれを見たはじめは、自分の「胸元ガバ開き・獣毛まみれ」の姿を、思わず両手で隠した。


「(……あんなにフォーマルで、カッコいい服があるなら、僕にもそれを回して欲しかったなぁ……)」


だが、はじめはまだ知らない。

ゼノの「フォーマル」は、これから始まる「地獄のグラデーション」の、単なる導入(前座)に過ぎないということを……!!


ゼノが放つ「大人のフォーマル」の余韻が冷めやらぬ中、司会のカラス獣人がさらに喉を震わせ、マイクを叩きつけるような咆哮を上げた!!


「さあさあ、熱狂はまだ入り口だぁぁッ!! 続いてお迎えするのは、甘露村が生んだ奇跡の光!! アラクネという種族の概念を、その圧倒的な可憐さで書き換えてしまった美少女の登場だぁぁーーーッ!!」


パァァァンッ!!

ゼノが立っているすぐ隣のカーテンに、眩いばかりの純白のスポットライトが突き刺さった!!


「見てください、この白を基調とした神聖なるドレス!! しかし、ただの白ではないッ!! 蜘蛛の巣を模した繊細なレース地の間からは、瑞々しい肌が、あぁ、なんということでしょう!! ところどころ、エロティックに、そして背徳的に透けて見えているではありませんかぁぁッ!!」


観客席からは、もはや悲鳴に近い怒号が上がる。


「可憐と妖艶のデッドヒート!! 清楚なフリをして、その実、獲物を逃さない死のレース!! 彼女になら、骨までしゃぶられる餌になりたい、そう願う者が会場に溢れかえっているッ!! 甘露村の無敵ヒーラー、りり様の登場だぁぁぁーーーッ!!」


ゆっくりとカーテンが開き、恥ずかしそうに、だがはじめを探すように視線を彷徨わせながら、りりが歩み出た。

少し短めの裾から伸びる脚、そして肩口の「透け」が、会場の視線を釘付けにする。


(……え、えぇぇ!? りりちゃんまで、あんなに可愛くて、ちょっと……その、ドキドキする格好させられてるの!?)


はじめは、カーテンの隙間から見えるりりの「透け感」に、58歳の理性が激しく揺さぶられるのを感じた。


(……待って。ゼノさんはカッコよくて、りりちゃんはあんなに可愛らしくて……。……じゃあ、僕のこの『獣まる出し』な服は、一体どういう立ち位置なんだ!?)


はじめの背筋を、嫌な予感(と、上様への不信感w)が駆け抜けた。

次は、琥珀か。それとも……!?


りりの放った「可憐な色香」に、会場のオスたちが魂を抜かれたようになっているその時!! 司会のカラス獣人が、今度は天を突くようなハイトーンで叫んだ!!


「さあ、お次は、この会場の『母性』と『父性』をすべて、根こそぎ奪い去るこの少女だぁぁッ!! 白い毛並み、ふさふさのシルエット!! 動きやすさを極限まで追求した結果、導き出されたのは……なんということでしょう、この大胆不敵な斬新デザインだぁぁーッ!!」


パァァァンッ!!

りりの隣、三番目のカーテンに、目が眩むような黄金のスポットライトが降り注いだ!!


「見てください、あの眩いばかりの腹部!! かわいいおへそは、まさにデンジャラス・ゾーンッ!! 触れたら最後、一生その愛らしさの虜になることは確定だぁッ!! 七歳という無垢なる輝き!! だが、油断するなかれッ!! その体には伝説の『白虎』の血が、熱く、激しく、脈打っているのだぁぁーーーッ!!」


会場からは、もはや怒号のような「かわいいぃぃぃ!!」という悲鳴が地鳴りとなって響き渡る!!


「白虎村、唯一の生き残り!! キュートな牙を剥く白銀の戦士!! 琥珀ちゃんの登場だぁぁぁーーーッ!!」


タッタッタッと、元気よくカーテンから飛び出してきたのは、へそ出しルックのワイルド&キュートな琥珀だ!! 彼女は会場に溢れる豪華な料理の匂いに鼻をクンクンさせながら、「わぁぁ、お肉がいっぱいですぅぅっ!!」と満面の笑みで手を振った。


(……こ、琥珀ちゃんまで……っ!! なんだか、どんどん『露出度』というか、『上様の趣味』が剥き出しになってきてる気がする……!!)


はじめは、カーテンの影でガタガタと震え始めた。

次は、いよいよ自分だ。

ゼノは「正統派」、りりは「可憐」、琥珀は「キュート」。

そして、自分に用意されたのは——「胸元全開の、香る獣服」。


(……だ、誰か……、誰か嘘だと言ってくれ……!!)


はじめの絶望をよそに、会場のドラムロールは、かつてないほど激しく、重厚な響きへと変わっていった!!


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