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蠱毒の中の孤独

 空き家にて始まってしまった殺人幽霊との命懸けの鬼ごっこ。逃げ惑う心陽達はそれぞれバラバラとなってしまう。

 そんな中、和真が大輝をトイレに隠し、和真が囮となって幽霊を引きつけた事で幽霊をやり過ごした大輝は、1人友人救出に向けて動き出そうとしていた。

 静かな夕陽が薄暗く照らす家の中、行方不明となった友達を探す為に、最後の目撃情報となった空き家へと足を踏み入れた小学5年生、井上大輝は1人トイレに隠れて囮となった和真を心配していた。


「和真お兄ちゃん、大丈夫かな? うまく逃げたかな?」


 すっかり物音がしなくなった頃、扉をゆっくりと開け周囲を見渡し霊が居ない事を確認する。その後、クローゼットのある左側の部屋に和真の言いつけ通り隠れて待っていようかと考えたがふと脳裏に浮かぶ友達、ゆうたの顔。大輝はクローゼットに手を掛けようとした手を引っ込めて拳を握った。「ダメだ……僕がゆうた君を助けなきゃ。じゃ無いとお兄ちゃん達に無理言って付いてきた意味が無いじゃないか……僕がやらなきゃ」


 大輝はクローゼットではなく部屋のドアに手を掛けその扉を開く。いつ何処から殺人霊が出るか分からない家の中を1人歩き始めるのだった。


 一階へ降りた大輝はもう一度玄関へ向かい玄関から探索を始める。部屋の変化パターンには玄関も対象になっているようで自分達が入った時とは少し違っていた。

 靴箱の棚に立ててあった家族写真、自分達が入った時に見たのは少女の顔のみ穴が空いており顔が見えなかったのだが今見ている写真には少女の顔が写っていた。両端には笑顔の両親がいるにも関わらず少女のその顔には一切の笑顔は無かった。

 まるで人形かのように無表情でただ前を向く少女にはこの世の全てに絶望しているかのようにも見えた。写真立てを裏返すと紙が挟まっていた。



こんなはずじゃなかった。

私は大企業に入社して昇進し結婚もして娘も産まれて幸せな人生を送るはずだったんだ。

あの子が産まれてから全てが狂ったんだ。


初めはあの子が勉強に熱心になったと思ってたくさん勉強して何か夢でもできたんじゃないかと嬉しかった。

だが異変を感じたのは小学校に入学してからだ。あの子の口から学校の話は一切してこなかった。心做しかあの子の表情はずっと暗かった。

学校で上手くいっていないのかなと少し不安になってある日、あの子に話を聞いた時、全てを聞かされた時は思考が停止した。

勉強はやりたいと言って始めた事ではなかった事、学校ではクラスの子と話してはいけないと言われた事、言いつけを守らなかった時には虐待を受けていた事。

そういえば小学校に入ってから長袖を着るようになった。あれは虐待で受けた傷を隠すためだった。


妻が自分の欲求の為に私と結婚し、子供を産んだ事が分かった途端私の人生の歯車は狂ってしまった。

周りへ自慢の為に大企業で勤務している私と結婚し、自分の娘さえも自身の承認欲求の道具にした。


私には到底耐えられるものでは無かった。

なんとかしてあの子を救ってやりたかった。

離婚の話を切り出した時、妻が怒り狂って包丁を持ち出して家族全員皆殺しにして私も死んでやると叫びだした。

私にはそれ以上踏み込む勇気がなかった。

私は父親失格だ。

どうせ私もあの子も幸せになれないのなら……全てを終わりにしてしまってもいいのかも知れない。許してくれ久美くみ



 紙には父親と思われる人物が娘に向けた謝罪文のような内容が書かれていた。

 どうやら幽霊の名前は久美くみと言うようだ。複雑な家庭環境で生き続けた久美と父親の葛藤に気の毒に感じながら大輝は探索を続ける。


 大輝は再び一階を一通り探索するも、特に目ぼしいものは見つからず2階へ上がる事にした。2階の左側、以前女性の遺体があった場所の部屋の扉を開ける。すると先程は何も無い部屋に女性の遺体があったのだが今回は遺体は無く、右側の部屋と全く同じ様な家具の配置で一瞬部屋を間違えたかと錯覚するほどそっくりだった。机の上には相変わらずノートが1冊、だがそのノートには「中野久美なかのくみ」と名前が書いてあった。そして裏側には何も書かれていない。

 大輝はノートを開き中を確認する。するとそこには霊の生前に書いたのであろう自身の事を書き綴ったものがあった。


私は期待されてるって勘違いしてた。


お母さんはいっぱい勉強して立派なお仕事に就くのよってたくさん本を買ってくれた。

初めは嬉しかった。


いっぱい勉強して偉くなろうって思ってたく

さん勉強したの。


おかげで小学校でのテストは全て満点だった。


お母さんもお父さんも沢山褒めてくれて嬉しかった。


お勉強頑張ればもっと褒めてくれるかな?ず

っとそう思って必死に勉強したっけ。


でも学校でお友達が出来たっていったらお母さんの顔は怖くなった。


初めてお母さんに叩かれた。

馬鹿が伝染るからお友達を作っちゃダメなんだって。


それからお友達と話すことは無くなった。言いつけを守らなきゃお母さんが怒るから。

ある日にはお母さんの吸ってたタバコの火を押し付けられたりもした。

火傷の痕が見えないように長袖を着て登校する様にもなった。


私の将来の夢は生物学者になりたかった。

勉強しかして来なかったから学者や医者以外の職業はあまりピンと来なかった。


私は生物が好きで生物学の勉強は得意だった。生き物の勉強の為に色んな実験をしてきた中で色んな方法で生き物を殺した。


中でも有毒生物をいっぱい集めて瓶の中に入れたらどれが最後に生き残るのか研究した。世の中では「蠱毒」と言われている呪いの一種なんだって。呪いって本当にあるのか分からなかったしとりあえずやってみたけど結局分からなかった。あれって最後に呪いたい相手に摂取させなきゃいけないんだっけ? それじゃあ単純に毒殺か見分けつかないし呪いの定義がわからなくなっちゃうから保留したんだ。


特に好きだったのは生き物の死についての研究だった。どの程度傷をつければその生物は死ぬのか研究した。


虫の脚を千切ったり、カエルの内臓を取り出したりした。あの時は必死生きようとする姿を見て凄く胸の奥がざわざさわして楽しかった。


偶に人を殺すとどうなるんだろうなんて考える事もあったけど実際にやっちゃうと捕まっちゃうから流石にやらなかったかな。


私はお母さんをずっと不思議に思ってた。怒る時は怖いけどテストで満点とった時とかちゃんと褒めてくれる。逆にその時以外はほとんど怖い時だったんだけどね。

お父さんにはずっと怒ってるし私にもいっぱい怒るのに周りの人にお父さんの事や私の事を話す時は凄く誇らしそうに話すの。


お父さんから離婚の話を切り出されてお母さんが発狂した時はびっくりしちゃったな。

あの時は本当にお父さんの事刺しちゃうのかと思ったんだもん。


お父さんは私の事気にかけてくれてたのかいっぱいお話してくれた。

お母さんに内緒で欲しいものを買ってくれたりもした。

お父さんは私を大事に思ってくれてたんだなって思う、高校に入学するまではね。


世間では難関校とは言われてるけど私は受験に難なく合格していつも通り勉強する毎日を送っていく中である日、お父さんが蠱毒の研究に使っていた瓶を見た時、「何だこれは?」と聞いてきたの。

 私は蠱毒の事を説明したら「バカなことはするな!」と怒鳴られた。

初めてお父さんに否定された。

私がずっと好きだった生物の研究を《《バカなこと》》だって。

お父さんは私の味方だって信じてたのに……。

お父さんもお母さんも私の事なんて考えてくれていなかったんだ。


私に家族なんていなかったんだ……


 先程の父親といい久美といい小学生の大輝には難しすぎる重い内容に眉間に皺が寄ってしまう。

 他に手掛かりを求め調べ回っていると、ベッドが少し盛り上がっている事に気づく。

 恐る恐るベッドの掛け布団をめくると、そこには大輝と同じ小学生くらいの男の子が仰向けで横になっていた。だが大輝はこの男の子を知っていた。それは大輝が探していた友人、ゆうた君だった。


「ゆ、ゆうた君!?」



 ◇ ◆ ◇ ◆



 あれからどれだけ経っただろうか、心陽はクローゼットの中で恐怖に震えていたが、しばらくして落ち着きを取り戻し、クローゼットから出た後、寝室の探索を始めた。


「俺だけ怖がっててもダメだ……和真も大輝くんも今この瞬間だってあの霊から逃げているはずだ。だったら俺も脱出の手立てを見つけないと……」


 タンス周りを探していると、タンスの裏に紙のような物が挟まっており、タンスを動かし紙を取り出すと1枚のメモ書きのような物を見つけた。


「キッチンの下、底が外れる場所を探せ」


 底が外れるキッチン? と一瞬疑問が浮かんだが恐らく部屋の変化を考慮しての事だろう。キッチンと言えば一階リビング、そこの下と言えば調理器具などが入っている引き出しがあったはずであり、恐らく底が外れるパターンの部屋がある様だ。


「もしかすると何か手掛かりがあるかも知れない」


 そうと決まれば心陽は部屋を出てすぐにリビングへ向かった。

 リビングにあるキッチンの下、そこには調理器具などが入った引き出しがある。

 心陽はそこを片っ端から底が外れないか確認するがどれも底が外れない。


(この部屋ではないのか?)


 心陽はリビングを後にし何度か部屋移動を繰り返した後、もう一度リビングに戻ってを繰り返す。そうする事3度目にして引き出し底がガタっと外れた。


「これだ!」


 外れた底を確認すると、その裏にはメモ書きとお札のような物が貼り付いていた。




私はこの家を調査していた霊能力者だ。

この家に関する私独自の調査で分かったことをここに書き記す。


結論から言おう、この家には出口は無い。

女子高生の姿をした幽霊からは出口はあると伝えられているかも知れないがあれは嘘だ。


霊能力、または呪力といったところか……常人では使えない非科学的な力でこの空間は構成されており、入口はあっても出口は無い。脱出手段は同じ力で空間の入口に穴を開けるしかない。


そしてこの紙と共に貼り付けてあるこの札は私が霊能力を込めた空間に穴を開けるための鍵の役割を持つ札だ。この空間の入口、つまり玄関のドアに貼り付ければ鍵が開くはずだ。いざ脱出するという時に使うといい。


私はまだ帰るわけにはいかない。この空間、そして霊の秘密を暴かねばならない。


 警察庁 特異現象捜査部 福原 武




 どうやら霊能力を持った警察が遺したメモ書きのようだ。それに札の説明もされており、ここにきて脱出の鍵を手に入れた事に希望を見出した。だがいくつか気になる点も残った。


「この家には出口が無い……霊は嘘をついていた……? それに警察でも特異現象捜査部とは……?」


 そう考えていると後頭部に鈍い痛みが走る。

 ガンッという金属が打ち付けられる打撃音と共に心陽は床に倒れ伏した。

 遅れて痛みが頭全体に広がっていき、痛みが出ている箇所から少しずつ冷たくなっていく様な感覚におそわれ、意識が朦朧とする。

 心陽は霞んでいく視界の中、恐らく自分の血であろう鮮血が床に広がっていく光景と血のついたフライパンを持ってニチャァと笑う霊の姿を見た。


 そして心陽は頭から血を流し床に倒れ込んだまま意識を手放してしまうのだった。

明かされる幽霊の過去、特異現象捜査部という謎の組織の霊能力を持った男。次々と空き家での事件の謎に関する手掛かりが集まっていく。そしてついに見つける脱出の鍵となる男のメモ書きに残された空き家を囲う結界から脱出することができる脱出用の札。

脱出に向けて動き始めたのも束の間、背後からの

幽霊の奇襲によって致命傷を与えられた心陽。果たして絶体絶命のピンチ生き延びることは出来るのか?


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