FINAL 苦しみの果てに
愛ゆえの憎悪、愛ゆえの復讐、愛ゆえの禁忌
超常的現象・知識に魅了され、成瀬白那という女性にも魅了された哀れな男、白鳥蓮。
醜くも一途な愛の野望は彼女の命のように一発の銃弾によって打ち砕かれた。
だが白鳥蓮は死してなどいなかった。頭を銃弾で撃ち抜かれようと、意志の力か屍人の力かその驚異的な生命力で残り僅かな力を振り絞り、彼女のいる「あの場所」を目指し歩き始めた。
――あぁ、最期に……君に会いたい。
ふらふらとおぼつかない足取りで研究所を目指し、渋谷の街を歩く男、その髪は白く、前髪は中心だけ黒髪が残りその目は海のような美しい蒼い瞳を持つ美男子と呼べるにふさわしい整った顔立ちをしている。
その男の名は白鳥蓮。
かつて成瀬白那という女性に恋心を抱き、彼女を失った事で復讐と狂気にその身を燃やし、多くの命を犠牲に彼女の復活を目論み渋谷の街を混沌の闇へと落とし込んだ元凶。
彼の計画は特異現象捜査部と2人の若者の女性によって阻止され、代々木公園にて頭を撃ち抜かれ射殺された――筈だった。
試作品「屍人の王」の力により驚異的な生命力で最後の力を振り絞り、今にも尽きようかという命で彼女の肉体の眠る研究所最深部を目指す。
裏口に到着し階段を降りて鋼鉄のゲートにパスコードを打ち込みゲートを開ける。ここで白鳥で通過した所で何かに足を引っ掛け転倒してしまう。
その転倒した衝撃でポケットから完成品「屍人の王」の入った容器が転がる。
白鳥は何に足を引っ掛けたのかと振り返るとそこにら若い女性の姿、白鳥計画を阻止した人間の一人、志那内加奈子であった。
加奈子の額には咬み跡の傷があり、顔半分にまで感染による皮膚の侵食が進んでいる。
「彼女は……ここで力尽きていたのか……」
加奈子を気の毒に思いながら白鳥は立ち上がろうとするも白鳥の身体にはもうそんな力は残っていなかった。
(ああ……私は……もう死ぬのか? 彼女の場所にも辿りつけぬまま……ここで)
間もなくしてくる死を悟り無念さに打ちひしがれていると、ある事に気が付いた。
(彼女……まだ息がある?)
加奈子はまだ死んでいなかった。
感染こそ進んでいるがその心臓はまだ鼓動を打っていた。
白鳥はふと床に転がっている完成品「屍人の王」の容器に目をやる。
「屍人の王」を加奈子に使えば超常的生命力を手に入れ助かるかも知れない、しかしそれは成瀬の復活の可能性をゼロにしてしまう行為であった。
目の前の命を助けるのか? それとも愛する恋人の復活の為に迫りくる死に抗うか?
心の中で葛藤しながら白鳥は這いずり「屍人の王」を手に取ると天井を見上げた。
「成瀬……私は……」
◇ ◆ ◇ ◆
外では三日三晩と渋谷の街を飛び回った冒涜的な神話生物は姿を消し、数週間に渡る自衛隊による救助活動及び安全確認作業の後、渋谷の街は人間の立ち入りが許可され復興へ向け動き始めた。
この一件による死者数は24万人以上にものぼり、生存者は確認しているだけでもたったの20人ほどであった。これは世界的に見ても最も多くの死者を出した大規模テロ事件として名を残す事となった。
数少ない生存者の一人、荒谷杏奈は自衛隊によって保護され、病院にて健康状態と精神の回復を目的とする入院生活の後、極秘重要参考人として特異現象捜査部本部にて聴取を受けていた。
事件当時の状況や生存記録、実行犯である白鳥蓮について知っている内容は全て話すこととなった。
「聴取はこれで終わりです。ご協力に感謝致します。ここからは捜査員にお知り合いがおられると言うことで面会となります。このまま楽にしてお待ちください」
ジャケット姿の刑事らしき男性が立ち上がり、部屋を後にする。少し間を置いて扉が開き、一人の男性が入ってくる。それは渋谷の街に助けに来ていた男であった。何故か彼は杏奈の名前を知っており、当時は顔をよく見られなかったのだが、改めて顔をみた瞬間、杏奈はその男がよく知る人物である事に気が付いた。
「心陽……兄ちゃん?」
「久しぶりだね、杏奈ちゃん」
部屋に入った男は特異現象捜査部に所属する捜査官、和泉心陽であった。彼は優しく微笑むと先程まで刑事の座っていた向かいの席に座る。
「まずは杏奈ちゃん、君が生きてて良かった。辛く、怖い思いを沢山しただろう。忘れろと言うのは難しいかも知れないが時間が経てば心もきっと回復するだろう。今はゆっくり休んで欲しい」
「あの……助けに来てくれてあリがとう、心陽兄ちゃん。それで……心陽兄ちゃんはあの後……」
「ああ、杏奈ちゃんのお友達が中にまだ残っていたんだろう? 勿論捜索はしたんだけどね……」
しかし心陽は少し躊躇うような姿勢を見せる。それを見て杏奈は良いニュースは聞けないことを察した。
俯く杏奈を見て同情するもしっかり伝えなければと心陽は決心して口を開いた。
「結論から言うと君のお友達は見つからなかった。あまり変な期待はさせないように言っておくべきだと思うから正直に言うよ。恐らくゾンビになって駆除された可能性が高い。そうなった場合詳しく話すことはできないが身元の確認が難しいんだ。あまりこんな事は言いたくはなかったのだけど……友達の事は諦めたほうがいい」
心陽の口から告げられ、杏奈は口元を押さえ、胃の奥からこみ上げてくる吐き気を抑える。心陽は椅子から立ち上がり杏奈の横へ周ると背中を優しく擦る。
しばらくして落ち着いた頃、杏奈は溢れる涙を拭い、心陽に向き直ると俯きながら話し始める。
「心陽兄ちゃんも精一杯捜してくれたんだよね。だったら仕方ないよ……ニュースでも言ってた。20人ちょっとしか助からなかったんでしょ? 渋谷の人口の大半が犠牲になったんだよね。生きてる可能性が低いのは当然だよ」
「ああ……すまない」
実際には数十秒しか経っていないのだが体感では数分にも数十分にも思える沈黙が流れた後、ドアのノック音が響く。
心陽が「来たか」と呟くとドアに向かって歩き出す。
心陽はドアノブを握ると杏奈に振り返る。
「杏奈ちゃん、これから会う人間には覚悟をしておいた方がいいかも知れないね」
「え? それってどういう……」
心陽はドアを開けると一人の男が入ってくる。心陽が入れ替わる様に出ていこうとするとその男は心陽を共に部屋に残るように呼び止め、こっそり耳打ちすると心陽はため息を吐いた後、「分かった」と部屋に残った。
部屋に入ってきた男の顔を見た瞬間、杏奈は思わず口が開いたまま塞がらなくなる。目の前に立っていたのは右目を眼帯で隠した杏奈の実兄、荒谷和真であった。
「お兄……?」
「久し振りだな、杏奈」
和真は向かいの席に座り、鉄仮面のように真顔で杏奈に向かって話し始めた。
「心陽から聞いたよ。辛かったな。でも良く生き延びてくれた。兄ちゃん安心したよ、本当に良かった」
「聞いたって……そうだ! お兄は他の人の救助とか捜索で忙しかったんだよね? これだけの大きな事件だもん仕方ないよね! 心陽兄ちゃんが見つけてくれただけでも奇跡みたいなもんだもんね? だから……」
「いや、俺は現場にはいない」
「へ?」
和真の返答に杏奈は固まる。
和真は一切表情を変えず淡々と自身が当時何をしていたのか語り始める。
「俺は今回の事件に一切関わっていない。杏奈の言う救助も生存者の捜索も俺は一切やっていない」
一瞬時が止まったように沈黙が流れる。身体の奥底から憤怒の感情が噴火のように湧き出てくる。あまりの怒りに身体が震える、殺意まで芽生えてくる。
(妹が死にそうな時に? 家にも連絡を寄越さず? 家族から連絡は来ている筈……それでも助けに来なかった?)
「……ざけんなよ」
「……すまなかったな」
「お兄……お前ェェェ!!」
本当に謝る気があるのか分からない謝罪の言葉が等々引き金となり、杏奈は感情が抑えきれず体が動いた。
和真の胸ぐらに掴み掛かり、そのままの勢いで押し倒し殴り掛かる。
心陽が止めようと動こうとするが和真はそれを手で制止しその間も杏奈に殴られ続けた。
「お前! ロクに連絡も寄越さないで! 助けにも来ないで! 一体何処で何してやがった! アタシ! お兄がきっと助けに来てくれるって! 信じて……なのに……」
怒りに震える両腕を振り上げボロボロと涙を流しながら和真の顔面めがけて両拳を振り下ろす。
和真はされるがまま杏奈の拳を受け続け鼻血と痣でボロボロになりながらも表情1つ変えず真っすぐ杏奈を見つめたまま一度も視線を逸らさなかった。
「ユッコも……カナちゃんも……皆死んだんだ……アタシ、辛かった……怖かったんだよぉ」
「……そっか、兄ちゃん行けなくてゴメンな」
杏奈が泣き止むまでの数分間、聴取室には杏奈の泣く声だけが響いた。
和真はただ杏奈の泣き顔を自身の目に焼き付けるかの様に真剣な顔で向き合い、心陽は二人の様子をただ見守り続けた。
その後は杏奈も落ち着きを取り戻し、暗い顔で聴取室を後にした。
和真の心陽は聴取室で二人残り、和真はゆっくりと体を起こす。
「本当に良かったのか?」
「ああ、良いさ。肝心な時に居てやれなかった無力な兄には妹に会わせてやれる顔なんて何処にもねぇよ」
「今回の事件、真っ先に行くと聞かなかったのは和真だろ? 京都で修行していたと聞いてたけど一晩で帰ってきてボスに直談判に行ったのは正直驚いたな。心配故の行動だろ? それだけでも十分立派な兄ちゃんやってたんじゃないのか?」
「あの時大人しく引き下がれたのはお前のおかげだよ心陽。お前なら任せてもいいって思えたんだ。そしてお前は杏奈を救ってくれた。あリがとうな」
「その礼なら一番言うべきはコイツなんじゃないのか? ほら、居るんだろ?」
心陽が扉の方に目をやると扉を開けて沢渡が入ってきた。沢渡は腕を組んだまま壁にもたれて2人の話を気だるげに聞いている。
「ほんとだな。あリがとう、沢渡。お前が居なけりゃ杏奈はとっくに死んでいた……お前は命の恩人だよ」
「うっせぇ……仕事だから仕方なくだな。これでもし死なせて後でお前の恨まれでもしたら面倒だしな。それに……」
「兄妹を守りたいって気持ちも……分からなくもないからな……」
照れくさそうに顔を背け沢渡はボソッと呟く。心陽と和真はお互い顔を見合わせるとフッと笑った。
場が軽く和んだ所で心陽は立ち上がり背伸びをする。それに合わせて和真も立ち上がった。
「よし、俺達はこの後ボスの所に報酬を受け取りに行くからさ、報酬金でどっか飯でも行こうぜ? 和真は派手に殴られたんだから病院で診てもらえよ? 飯と治療費は俺が出してやるから」
「いや飯はともかく治療費までは流石に悪いぜ心陽」
遠慮する和真に「いいんだよ」と手をヒラヒラさせる心陽は沢渡と共に部屋を出る準備をする。部屋を出る直前に心陽は振り返り親指を立てた。
「今回のヤマはデケェからよ。多分報酬もたんまりだぜ? だから今回は俺に甘えとけ。将来和真が担当持った時に飯でも連れてって返してくれればいいからさ」
そう言って心陽は部屋を出ていく。
和真は自分以外誰も居なくなった部屋で天井を見上げぽつりと呟いた。
「俺も頑張らなくちゃな」
◇ ◆ ◇ ◆
特異現象捜査部本部を後にした杏奈は、そのまま真っすぐ神奈川へと帰った。約一週間ぶりに帰ってきた地元の街は不思議と懐かしく感じた。
駅の改札を通り出口を前にした時、そこには両親が出迎えてくれていた。
両親は杏奈を見つけると目に涙を浮かべて杏奈を呼ぶ。
「杏奈……無事で良かった……本当に……本当に良かった……」
うまく言葉にできずただ嬉しさに涙を流す両親に杏奈も釣られて涙が溢れてきた。
たまらず杏奈は両親の元へ走り出し抱擁を交わした。
「パパ! ママ! ただいま! 私怖かった! 一緒に生き延びようって約束した友達も皆死んで私も死ぬのかなって何度も思った! 辛かった! 苦しかった! ずっと会いたかった!」
両親は優しく杏奈を包み込む。杏奈は暖かい両親の胸の中で人目もくれずひたすらに泣き続けた。
父親の運転する帰りの車の中ではすっかり泣きつかれた杏奈が子供のように横になって寝ている。
家に帰ると、その日の夕飯は杏奈の好物が沢山並べられた。
渋谷での記憶や救助に来なかった和真の事など嫌な記憶は思い返さ無いように、その日からの数日は沢山両親に甘えて過ごした。
そうして杏奈はまさしく地獄のような数日間を生き延び、少しずつ穏やかな日常を取り戻していくのであった。
◇ ◆ ◇ ◆
渋谷を混沌の闇へと落とした一大テロ事件、「渋谷ゾンビテロ事件」は表向きでは自衛隊と警察の協力によって鎮圧されたとされた。
生存者の証言の中には渋谷の空を舞う未確認生命体がいたと言う話があったが混乱による幻覚作用であろうというということで調査はされなかった。
特異現象捜査部の調査記録ではその後、捜査員によって東京特殊医療科学研究所の調査に入り、白鳥の非科学的研究による産物が次々と露わとなった。
最深部ではどういう訳か代々木公園で射殺された筈となっていた白鳥蓮、そして成瀬白那の遺体が2人抱き合い眠る様な形で見つかった。成瀬白那を保管していたのであろうカプセルは何らかの方法で破壊された後があり、何者の仕業かは不明なのだと言う。
2020年 12月 東京都 渋谷区
「……へっくしょん!! うぅ〜寒いぃ〜……もうすっかり冬だもんな〜。この辺人少ないからから暫く住んでたけどこの顔隠しながらじゃあ働くの難しいよね……とうとうこのホームレス生活も炊き出しとやらに頼る時が来てしまったのかもしれない……ならば尚更ここは住みにくいし新天地目指しますかぁ。それと……」
「あの2人……お天で会えたのかな? あの人達、死んだ後くらいは幸せになってほしいもんだよね」
12月に入り季節は冬、渋谷区は一部市民の立ち入りが解禁されるも、中々居住者も来ず、かつて観光客などで栄えた街も今となっては人気を感じない寂れた街と化している。
街頭も灯らぬ静かな街の夜空は、多くの人々で賑わっていたあの頃では見られなかった美しい星々が肉眼で観測できるほどに輝いていた。
2020年 12月12日
特異現象捜査部調査記録
「Cradle of infection」
fin.
ミニコーナー企画!
第4回! 「気になる!? あの子のプロフィール!」
どうもー! 皆大好き! 幽世のアイドル葉月お姉さんだよー!
今回の企画はね! この世界の登場人物に関する情報を公開していっちゃうよ!
さぁ今回のゲストはコイツだ!!
イェーイ! File2 「Cradle of infection」から志那内加奈子登場!
というわけで今回は加奈子ちゃんに来てもらったよ! ところで加奈子ちゃん? 君の最後の登場シーンだけどなんだか意味深な最後だったね? 結局君は生きてるのかな?
あ〜……それは……読者のご想像にお任せ……じゃ駄目かな?
あっそういう感じ……まぁ良いんじゃない? どうせ生きてりゃどっかのシナリオで答え合わせするでしょ?
ちょっとメタいのヤメなよ……ってえぇ!? 生きてたらもっかい出なきゃダメなの? 私もうお腹いっぱいなんだけど!?
まぁそこは作s……神様の匙加減だよね。
とまぁメタ話もここまでにしてプロフィール紹介行くよ!
デデンッ!!
名前 志那内加奈子 誕生日 2月14日
年齢 22歳 血液型 B型
身長 143m 体重 38kg
好きな食べ物 ラーメン
嫌いな食べ物 大豆
親友 荒谷杏奈 苦手な人 昭和っぽい性格の人
異能力 無能力
好きなこと 衝動に任せて動く
嫌いなこと 仕事
ここだけの話
実は中々の大食い。高校時代は週5で一郎系ラーメンに通い必ず全マシマシを食していた。しかし体質からか一度も太った経験が無い。
社会人となり「安くお腹いっぱい食べたい」とサイデリアでお腹いっぱい食べた結果、会計が1万を超えたこともある。
あのぉ~ちょっと恥ずかしいんですけど……
加奈子ちゃんすごいねぇ〜。大食いなのは意外だけどそれだけ食べてその体型維持できるんでしょ?羨ましい限りだよ。
いや〜体質といいますかなんというかどれだけ食べても体重増えないんスよねぇ。
ナチュラルに女の敵だね加奈子ちゃん……
でも体型同様にお胸も大っきくならないのが悩みで……特にアンタみたいな立派なモンお持ちの人を見ると捥いでやりたくなるんだよなぁ!
ちょ! 急に何!? ひゃんっ/// ちょっと……あまり強く握らないで……いやっ///
テメェ!! 色っぺぇ声出してんじゃねぇ自慢してんのかオォン!?
ちょっと! スタッフ止めて! このままじゃ放送できなくなっちゃう!
〜しばらくお待ち下さい〜
コホンッさて、今日はここまで! 以上、志那内加奈子ちゃんでした! 次回は後日談 「あのあと」シリーズをお楽しみに!!




