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2人分かつ扉

ついに「箱」の破壊に成功し外部から渋谷への突入が可能になり希望の光が見えてきた。同時に黒幕との戦いも最終局面へ、沢渡と協力し黒幕を追い詰めるが、黒幕はとうとう最終兵器を投入する。

 杏奈と加奈子によって渋谷を覆う不可視の障壁、「揺り籠」の発生源である「箱」の破壊に成功し、ついに揺り籠の解除に成功した事で地上では特異現象捜査部が地上制圧に動き始める。しかし地下では尚、世界をゾンビで埋め尽くしそれらに保管した魂を使って死者の復活を目論む男との戦いが続いていた。


「箱」を破壊された男は憎悪に満ちた表情で杏奈と加奈子の2人を睨みつけると、顔半分にまで割れていたヒビが更に一気に広がり顔全体を覆い、恐らく上半身全体に至っているであろう指先にまでヒビ割れが広がる。


 すると広間の壁を突き破り、4〜5m程の人型の異形の怪物が現れた。その身体は筋肉質な大男のような体付きに無数の触手が伸び、顔は原形をとどめていない程に歪み、長く伸びた腕の先に人の腕程の長さはあろうか大きな爪で床を削りながら怪物が歩いてくる。


 怪物はドロドロとした粘液を口から垂らしながら男の側まで来ると男は怪物を指しながら語る。


「これが屍人ゾンビの成れの果ての姿、やがて異形の怪物となりもはや人の形を忘れてしまうほどに変貌を遂げ、人の力を超越した究極の生物兵器となるのだ。もはや人の手に負えるものではない、私の最終兵器とも言えようか」


 男は少し名残り惜しそうながらも軽い尊敬の意も籠もったような優しい笑みで2人に語りかける。


「まさか私がこうして追い込まれてしまうとはね? ここまでやってくれた人間は君達が初めてだよ。敬意を表して是非君達の名を聞かせてほしいな。恐らくこの先君達程に私を手こずらせる人間は出てこないだろう。せっかくだ、私の記憶に留めておきたい」


 男がそう言うと2人は「はぁ?」と言うと2人並んで持っていた警棒とバットを男へ向けた。


「何でアタシらがアンタに負ける前提な訳? ウケる」


「寝言は寝て言えってんだオォン!? 今からお前をぶっ倒す私たちの名前を耳かっぽじってよぉく聞きやがれ!」


 そして2人はもう片方の手の親指で自身を指して堂々と名乗りを上げる。


荒谷杏奈あらたにあんな


志那内加奈子しなないかなこ


「「お前を倒して世界を救う者の名だ覚えとけこの野郎!!」」


 杏奈と加奈子は怪物に向かって真っ向から走り出す。顔のヒビが限界を超え一部皮膚が剥がれ落ちた姿の男は「これが最後だ」と2人を指差す。それに合わせて怪物が2人に大きな両腕を振り下ろした。


 2人は難なくそれを躱し、バットと警棒を振るうが分厚く変異した皮膚はビクともせず背中から伸びた触手が襲いかかる。

 杏奈は間一髪回避すると転がりながら着地し一旦距離を取る……が加奈子の姿が見当たらない。

 怪物の方に目をやると加奈子が触手に左肩を貫かれ、そのまま吊られていた。


「カナちゃん!」


「ぐ……うぅ……!」


 怪物は加奈子をまるでどうしてやろうかという風にまじまじと見つめる。

 思考の読み取れない真っ白い目に加奈子は恐怖する。


「やめろぉ!」


 杏奈はナイフを手に触手を切り落とそうとするが怪物の腕に薙ぎ払われ壁に叩きつけられて気絶してしまう。そして加奈子に向き直り、怪物は人の頭部ほどに及ぶの大きな口を開けた。


 その頃、沢渡は目の前で敵うはずのない強大な敵に立ち向かう2人を見つめながら、本部からの撤退命令と作戦の強行に揺れていた。


(確実に任務を遂行するならばここは撤退命令に従い体制を整えるべきだが今俺がここで撤退すればこの二人は確実に死ぬ……それに……)


 沢渡は杏奈へと視線を向ける。


(荒谷杏奈……か……《《アイツ》》と同じ苗字で何処となく似ていると思っていたが……そういう事か……)


「ここで逃げて見殺しにしたら……どの道《《アイツ》》に殺されてしまうな」


 沢渡は軽く笑うとスナイパーライフルを取り出し、弾を込めスコープを覗き込む。怪物の頭部に照準を定めると引き金に指をかける。


「どの道死ぬのは御免だぜ。俺の《《使命》》を果たすまではな」


 怪物の大きな口が加奈子のすぐそこまで近づき、加奈子も死を覚悟した瞬間、広間中に響く大きな銃声と共に銃弾が怪物の頭部を貫き動きが止まる。

 怪物が音がした方に振り向くと沢渡がスナイパーライフルを構えていた。


 沢渡はすぐさま弾を装填し再度構え、頭を撃ち抜く。怪物がよろめいた隙にナイフに切り替え接近する。


 怪物が両腕を振り回し暴れ回るがそれを躱し、両腕を踏み台にして加奈子の肩を貫く触手へと飛び、ナイフでそれを切り落とした。


 落下する加奈子を受け止め距離を取ると加奈子に刺さっている触手を確認する。触手は切り落とされても尚うねうねと動き回り加奈子の傷口を抉っている。加奈子も苦しそうなうめき声と発汗が酷くなっている。

 沢渡は触手を掴み引き抜こうとするが中々抜けない事に気付く。


「こいつ、返しのようになっている……本来こういった類のものは傷口を広げない為に抜かない方が良いが生き物のように動いて傷口を抉るようなら抜くしかないか……」


 するとポケットから布を取り出し加奈子へ渡す。加奈子は渡された布をどうすれば良いか分からず疑問の顔を浮かべていた。


「時間が無い、それを貸してやるから俺がコイツを引き抜くタイミングで全力で食いしばれ。先に言っておくが死ぬほど痛いぞ、我慢しろ」


 そう言われ触手をガシッと掴む沢渡。覚悟が決まりきらず慌てる加奈子に急ぐ沢渡は加奈子の手を取り布を口へと運び咥えさせた。

 涙目で顔を左右にブンブンと振る加奈子を余所に触手の刺さる左肩を足で押さえ「せーの!」という掛け声と共に一気に触手を引き抜く。


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」


 ブチブチと肉が裂かれる音と共に触手が肩から引き抜かれる。沢渡の推測通り返しが何本も突き出た触手はビチビチと動いている。

 加奈子は布を力いっぱい食いしばりあまりの激痛に涙を流して蹲っている。

 引き抜いた触手はすぐさま遠くへ放り投げ処理する。


 そんな中、怪物は待ってくれる事も無く沢渡と加奈子へ向かって歩み寄ってくる。

 沢渡はそれに気づくとナイフと拳銃を取り出し加奈子へ告げる。


「コイツは俺が引き受ける。お前達は先に脱出しろ! 俺もコイツに勝てるとは限らん。だからといってお前達がいてもハッキリ言って足手まといだ。コイツには勝てないと思ったほうが賢明だ、分かったらさっさと逃げろ!」


 加奈子は怪物を見て察したのか「うん」と頷き、壁際で気絶している杏奈の方へ肩を押さえながら急ぐ。加奈子を追おうとする怪物に発砲し沢渡が注意を引き遠くの方へと誘導する。


(よし! 上手く注意を引くことができた。あの2人が逃げたタイミングで俺も猟犬を使ってコイツから逃げ切れば完璧だ。あとは……)


 沢渡は周囲を見渡す。広間にはいつの間にか男の姿が消えていた。

 だが沢渡は考えがあるのか冷静であった。


(逃げたつもりか……その程度でこの俺から逃げられると思うなよ?)


 沢渡は襲い来る怪物の攻撃を躱しながら加奈子達とは別の方向へ広間の外へと出ていった。


 加奈子は左肩を布でキツく縛り、小さい体で杏奈をおんぶして脱出ルートを探す。来た道を戻ろうと広間を出て研究室の廊下を進んでいると、入り口の鉄の扉の向こうから大量のうめき声が聞こえてくる。嫌な予感を察した加奈子はすぐさまUターンし広間へと戻る。間もなくして鉄の扉の方角から大きな物音が響き、大人数の足音が近づいてくる。

 咄嗟に奥の部屋へと逃げ込み、女性が保管される部屋の中で大量の資料が散乱する部屋の中で脱出口に繋がるものがないか必死に探す。


 カプセル前の制御装置に目をやると操作メニューに緊急脱出コード記載されたメニューがある事に気が付いた。そしてその近くに男の計画に関する資料を見つけた。

 その計画資料のタイトルには「SHIRONA計画」と記載されていた。


 内容は「成瀬白那なるせしろな」という人物を復活させるという内容であった。

 そこまで時間も残されておらず、詳しく読み進めることは出来なかったが、目次欄の最後尾に緊急脱出コードに関する記載があることが分かった。



 緊急脱出コード 「SHIRONA」



 加奈子はすかさず制御装置の前に立つ。ふとカプセルの内部を見上げると依然として女性が液体で満たされたカプセルの中に保管されていた。


「この人が成瀬白那さん……綺麗な人だなぁ……」


 カプセルの中の女性は長い白髪に整った顔立ちで思わずその美しく同時に神秘的な雰囲気さえ感じさせる体で一種の芸術作品でも見ているかのような感覚を覚え、思わず魅了されてしまうほどの美貌の持ち主であった。

 加奈子は一瞬見惚れてしまったものの、すぐに我に返り緊急脱出コードの入力欄にコードを入力する。


 すると右手の壁が上に開いていき、隠し通路が現れた。加奈子は杏奈を運びながら隠し通路を進んでいく。後ろからは地下フロアにまで押し寄せてきた地上のゾンビ達が地下を埋め尽くす勢いで加奈子達の後を追ってくる。


「うえぇ!? もう来たの!?」


 加奈子は急いで杏奈を担ぎ通路を進んでいく。ゾンビ達を引き連れながら通路を進むとある地点で杏奈が目を覚ます。


「ん……あれ? アタシ……気を失って……てカナちゃん!? ゾンビが追ってきてる!」


「あ、アンちゃん起きた? 走って! 逃げるよ!」



 加奈子は杏奈を降ろすと、杏奈は自力で走り出す。出口を求め走っていると、天井の通気口から四足歩行の異形のゾンビが杏奈の頭上に落ちてきた。


「アンちゃん危ない!」


 杏奈は思わぬ奇襲に反応することができなかったが、加奈子は咄嗟に杏奈を突き飛ばし、杏奈はゾンビの奇襲を回避した……が


「うっ……」


 加奈子はゾンビの下敷きになってしまい、ゾンビ加奈子に覆いかぶさる様に着地するとそのまま喉元に向かって歯を突き立てる。

 加奈子は咬まれないように頭を掴み堪えている。


「カナちゃん!? 離れろこの野郎!」


 杏奈は立ち上がるとナイフをホームセンター前で警官から拝借した拳銃を手に外さぬよう0距離で発砲し頭を撃ち抜いた。

 四足歩行のゾンビは活動をやめ、加奈子は立ち上がる。杏奈は再び走り出そうとするが加奈子は左手を額の左側を押さえながら動かない。杏奈には見えていないがその手の内側は赤く染まり、額からは血を流していた。


「さあ行こうカナちゃん! ――カナちゃん?」


 「え? あ、あぁゴメン、行こう!」


 加奈子は額を拭い、杏奈に見えないように前髪で傷口を隠して走り出す。

 そこからはゾンビから順調に逃げ、上へと続く階段を発見する。その手前には鋼鉄のゲートのような物が既に開いた状態であり、手前には開閉の為であろうか作動装置の様な物がある。


「あった! アレだ! アンちゃん、私が閉めるからアンちゃんは先に!」


 加奈子は杏奈を先行させると、加奈子はポケットから取り出した計画資料の緊急脱出コードのページを開きながら作動装置のコードが隠し扉のコードど同じである事を確認し、装置のパスコード欄を開き、緊急脱出コード「SHIRONA」を打ち込み、作動ボタンを押す。


 扉は機械音と共に上部から分厚い鋼鉄の壁がゆっくりと降りてくる。

 ゲートの閉鎖を確認した杏奈は、少し階段を上がった所からゲートの向こう側から加奈子を呼んだ。



 ――しかし加奈子は動かなかった。



「何してるの? 早く!閉まっちゃうよカナちゃん!」


「……」


 そうしている内もゲートの閉鎖は進んでいき、加奈子は黙ったまま閉まっていくゲート眺めている。

 そして杏奈の視点から加奈子の顔の辺りまでゲートが閉まってくると加奈子は心配する杏奈の顔を見て優しく微笑みぽつりと呟いた。



「アンちゃん、ごめんね」






ミニコーナー企画!


第1回! 「パラアカ本音トーーク!」


ここはとある1室……そこでは生者も死者も関係なく奇妙な運命の導きによって誘われる。


そんな空間でこの世界を生きる、あるいは生きた者達が交わされる本音とは……


それは養成所に入って半年ほど経った頃だった。

夢を見ていた気がする……知らない扉の前に立っていた夢……俺はその時、扉の向こうに足を踏み入れた……。


ガチャッ


ここは……


あ、ども。


お前は!? 中野久美!!


はい、中野久美です。和泉心陽さんですよね? 改めてお久しぶりです。


あ、あぁお久しぶりです……


立ち話もなんですし席についてください。


分かった、それじゃ失礼して……


あの、何ていうか……和泉さんは以前よりなんだか逞しくなられましたね。


そ、そうかな? 今警察学校みたいな所で結構鍛えてもらってるんだ。まさか君にそんな風に言ってもらえるなんてね。それを言うなら中野さんも以前より随分と大人しい雰囲気だけど……


私はむしろこれが普通なんです。色々あって気分も昂ぶっていたものであんな姿を見せてしまいました。ごめんなさい。


そう落ち込まないで。誰だって限界を超えたらどうにでもなれって気持ちにもなるものさ。


そうでしょうか? それならばよかったです。ところでお1つお伺いしたいのですが私の事、今でも恨んでいますか?


恨む? どういうこと? 俺は中野さんの事を一度も恨んだことなどないよ?


どうして? 私あんなに酷い事したのに?


そりゃ君がそれだけ大変な思いを生前にしていた事を知っていたからさ。君のしたことは確かに悪だけど俺は君を恨んだりしない。君の辛さも全て受け止めてあげるべきだって思っていたからね。


中野さんがこの先、成仏して生まれ変わった時、もし生きていたらもう一度会ってみたいって思うんだ。


それは難しいですね。現世と幽世では時の進み方が違うので……でも輪廻転生の輪に沿えばきっとあなたの来世には私の来世と同じ時を過ごせるかもしれません。そうなったら私と会ってくれますか?


あぁ、勿論。絶対に会いに行く、そしたら友達になろう。


――ッッッ!? 


そ、そうですね。そうなれたら嬉しいです……///


では、約束ですよ? 来世では私のお友達になってくださいね?


約束だ。来世でまた会おう。


こうして部屋の扉は開き、和泉心陽は部屋を後にした。振り返る頃には扉は無く、何処からともなく響くアラームの音で意識は戻され、朝焼けが照らす寮の1室からまた1日が始まるのであった。


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