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屍人の王

 とうとう見つけた障壁の出所となる奇妙な立方体は青白い輝きを放ち、それが空まで伸びている。

 これを破壊すれば渋谷の街からの脱出の悲願が目の前にあった。

 しかし杏奈と加奈子達に箱の破壊をそう許してくれる筈も無く背後に影が忍び寄っていた。

 渋谷を覆うドーム状の障壁、その中心に位置する光の柱の出現地点である東京特殊医療科学研究所内の隠し扉から続く地下フロアに渋谷の街を地獄へと変えた元凶の一つをとうとう発見する。


 真っ白な箱は神秘的な青白い光を放ち台座の上に置かれている。杏奈は加奈子と目を合わせ頷いた後、加奈子は背中に背負っていた金属バットを取り出し箱を破壊しようと振りかぶったその時――



「おやおや、地下室のロックが外れていると思えばどうやらネズミが2匹迷い込んでいた様だ」



 背後から声がした事に驚き2人は振り返る。そこに立っていたのは真ん中に黒髪を残した白髪で蒼い瞳、顔にはヒビが入った美男子だった。

 杏奈と加奈子は両方その特徴に見覚えがあり、杏奈が「あの時の……!」と言いかけた所で加奈子が「あー! あの時の!」と大声で指差しながら被せる。

 男は「やぁ」と手を上げゆっくりと近づく。

 それに合わせるように杏奈と加奈子は身構える。


「そんなに警戒しないで欲しいなぁ……怖がらせるつもりは無いんだからさ」


「あなた結局生きてたんだ……じゃなくって! あなたが黒幕なんでしょ! 騙されないんだから!」


 金属バットを構える加奈子に男は「相変わらずだな」と苦笑いを浮かべ足を止める。そして胸に手を当て目を閉じ優しく答えた。


「そうだよ。私が渋谷を屍人ゾンビで埋め尽くした黒幕だよ。だがこれらの全ては私の計画の《《始まり》》に過ぎないのだがね」


「計画って?」


 杏奈は計画の始まりという言葉に疑問を抱いた。この男にはまだこの先があるという事が気掛かりで仕方なかった。そもそも渋谷をゾンビで埋め尽くして何がしたいのかさっぱり分からなかった。


 すると男は光の柱を見上げた後、少し口角を上げたと思えばゆっくりと語り始める。


「私も人殺しになりたいわけじゃないんだ。だから私は私の意思に従順な下僕しもべを欲しているのだよ。そうだ、君達には此処にたどり着いたご褒美に教えてあげてもいいのかも知れないね。ついてくるといい」


 そう言うと2人を手招きする。2人は顔を見合わせながらとりあえず追ってみることにした。

 台座の裏へぐるりと回った所にさらに奥へと続く部屋の扉があった。男は電子ロックにパスコードを打ち込むと扉が開く。その奥には想像を絶する光景が広がっていた。



「なに……これ……?」



 部屋の中には様々な実験道具や見たこともない文字で書かれた書物、謎の数式が書かれた紙などが散乱しており、注射器や薬物とも思えるものまであった。だがそんな事はどうでもよかった。

 部屋の中心に位置する大きなカプセル、液体で満たされたその内部には、一人の白髪の女性が保管されていた。


 男は恍惚とした表情で彼女を見上げ、カプセルに手を添え小さな声で呟く。


「もう少しだ……必ず君を迎えに行くよ」


 男は振り返ると机に散乱する資料を手に取りながら話し始めた。


「街はゾンビに溢れているが厳密に言えば彼らは『死んではいない』のだよ。生命及び魂は保管され、別の生き物へと変貌を遂げているのだ。そしてそれらは私の意思に従順に従うように造られている」


 男は液体の入った試験管を揺らしながら続ける。


「このウイルスは効果の割に非常にデリケートでね、空気感染させる事が出来ない。唯一出来るのが傷口などから接触による感染でないと広がらない。だから彼らには感染すると本能的に他の人間に攻撃的になる症状を持たせてある。そうしてゾンビパニックが完成するわけだ」


「アンタに従順なゾンビをいっぱい作って何がしたいの? 世界征服?」


 杏奈は男を睨みつけながら杏奈は男に問いかける。男は首を横に振り、謎の数式や魔法陣のようなものが書かれた紙を指なぞりながらその問いかけに答える。


「私はとある研究をしていてね。今こそその研究成果を実現する計画の実行段階なんだけど、私はその為に科学的な知識から非科学的な魔術の知識まで様々な知識をありとあらゆる手段を持って身に付けた。知識を得る為には神話生物に研究員達を生贄に捧げる事も厭わなかったね。そしてそれらを元に創り上げた私の計画の最終地点こそが……」


 男は女性のカプセルの前に立ち、両手に持っていた数式や魔法陣の書かれた紙を両手を広げると同時にバラ撒き誇らしげに宣言した。


「死者の蘇生だ! 死した人間の魂を再び器へと呼び戻す! コレが私の目指す場所だ!」


 男は目を見開き、その瞳には完全に「狂気」に満ちていた。死者の蘇生を目論む男が蘇生したいと考えている人間は間違いなくカプセルに保管されている女性である事を推測するには容易かった。


「死者の魂を呼び戻すには依り代となる肉体と生者の魂を必要とする。生前の記憶、人格をそのまま復元するには数億、数十億の生者の魂が必要だ。『死した魂は戻らない』というこの世界の理を歪めようとするにはそれだけの代償が必要なのだよ」


 さらに男はカプセルの手前の制御装置の上に置かれている小瓶に手に取り杏奈達に見せる。小瓶には透明な液体が入っており、瓶には「屍人の王」と書かれていた。


「そしてこれは私の研究の肝となる代物、屍人ゾンビ達を操る力を持つ薬だ。屍人と同じ力を持つだけでなく彼らの本能的に組み込まれた力を持つ主に仕える習性によって意のままに操る事が出来る。こうして何億もの屍人を使って彼女の魂を呼び戻す儀式を行い、私はもう一度彼女を復活させる。全ては彼女への私の『愛』によるものだよ」


 自身を誇らしげに語る男に杏奈は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。意中の相手との再会のために世界を巻き込むとは一見漫画のようで憧れを抱くのかも知れないがこうした形で実現させようとするのは間違っているとしか思えなかった。初めに人殺しになりたくないとは言っていたが、これでは殺しているのと変わらないと思えた。そして何よりも――


(コイツの勝手な願望の為にユッコは……!)


 友人のゾンビとなって死んでしまった原因がこの男の願望であることが許せなかった。


 杏奈は袖に隠していた警棒を出し、男に向かい走り出す。素早く間合いを詰め、警棒を振りかぶる……が不思議な力によって直前で攻撃は逸れ、勢い余って転倒してしまう。


「あぅ!」


「無駄だよ、君達では私に触れる事は出来ない。私は渋谷や覆う揺り籠と同じ壁で守られているからね」


 男は杏奈は見下ろしながらそばに歩み寄り、腹部を蹴り上げる。細身の体格に似合わぬ人間離れした威力に杏奈の体は宙を舞い壁に叩きつけられる。


「がはっ!?」


「アンちゃん!?」


 杏奈はあまりの激痛に思わず悶える。

 すぐさま加奈子は金属バットを構え殴りかかるが同じく軌道が逸れ、加奈子も首を掴まれ、男はそのまま加奈子を首を掴んだまま持ち上げてしまう。


「君達は此処までたどり着いた事は褒めてあげるけど私にとっては邪魔である事は変わらないからね。すまないがここで死んでもらうよ」


 そう言い「まずは君からだ」と加奈子の首を掴む手に力を入れようとしたその瞬間


 足下の紙の角の部分が青黒い煙のようなものが立ち込める。

 辺りに刺激臭が漂い始めたかと思えば煙が人と犬の様な怪物の形へと変化し、ティンダロスの猟犬と沢渡が姿を現した。


「何!?」


 ティンダロスの猟犬の舌が男に襲いかかり、男は慌てて加奈子から手を離す。

 間一髪で身を躱し、向かい合う。

 沢渡は杏奈と加奈子を見つけると意外そうな顔をしていた。


「民間人……? なぜここに? それにコイツは……」


「君も中々しつこいねぇ? いい加減に諦めてくれないかなぁ?」


 再び現れる沢渡に男は苛立ちを隠せない表情で怒気の籠もった声で睨む。

 すると男の顔に入ったヒビが僅かに大きくなったかと思えば男は突然叫びだした。


「来い!」


 男の大声に応えるように箱のあった部屋の方から大量のガラスが割れる音が響いた。その瞬間杏奈は直感する。


(あっちの部屋にあったのは……まさか!?)


「あっ……! ゲホッゲホッ!」


 蹴られた腹部のダメージは大きく思うように声が出ない。しかし杏奈には分かっていた。

 「箱」の部屋でカプセルに保管されていたものが一体何だったのかを。


 部屋のドアを勢いよく破壊され、箱の部屋から異形のゾンビ達が押し寄せてきた。


「な、何だ!?」


 突如として現れた異形の怪物達に沢渡はすかさず小銃を取り出し乱射する。

 男はゾンビの群れの中に消えていき、部屋から出てしまった。


 沢渡は後を追おうとするもゾンビの大群を相手取るのに手一杯で追おうに追えない。

 沢渡は杏奈に目をつけると杏奈に向かって拳銃を放り投げた。


「そんなところで見てないでお前も戦え!俺一人でお前等を護りきれるとも限らん! このままでは全員死ぬぞ、嫌ならさっさと動け!」


 沢渡の言葉にハッとした様に拳銃を手に取りゾンビに向けて発砲する。2人でゾンビを撃ち倒し、最後の一体を倒し部屋から脱出する。


 脱出した先では、男が台座の方へと歩いており、台座では加奈子が見えない何かに締め上げられている様であった。


「カナちゃん!」


 杏奈は男に向けて銃を構え、引き金を引く。

 しかしその銃からは弾丸が発射される事は無かった。カチカチと乾いた音を立て、無情にも弾切れを知らせるものだった。


「そんな……!?」


「退け!」


 絶望する杏奈を押し退け、沢渡が小銃を発砲する。男はそれに気が付くと台座から離れ、電子機器の裏へと隠れる。加奈子の拘束は解かれ、加奈子は床に倒れ伏す。

 急いで杏奈は加奈子に駆け寄り、沢渡も後ろから杏奈達を護るように男の隠れた方向に銃を向ける。


「カナちゃん! 大丈夫!?」


「えへへ……混乱に乗じてこっそり箱みたいなの壊そうと思ったんだけどバレちゃった」


 特に負傷した訳でも無く加奈子はゆっくりと立ち上がると、「そうだ!」と後ろを振り返り台座へと目を向ける。台座には「箱」が青白い光を放ちながら鎮座している。


「兵隊さん! アイツ抑えといて! 今のうちにこの箱壊すよ!」


 そう言うと加奈子は金属バットを握り箱を破壊しようと振りかぶる。


「させるものか!」


 その瞬間どこからともなく四足歩行の異形のゾンビが現れ箱を持って行ってしまう。

 男は顔のヒビを更に広げると部屋のありとあらゆる場所からゾンビがワラワラと現れ杏奈達を取り囲む。


 四足歩行のゾンビが壁を伝い、男の元へ戻ると男は箱を手に取る。

 杏奈達は各々が持つ武器を手にゾンビ達を率いる男と向かい合う。


「君達は本当に邪魔な存在だよ……私は彼女をもう一度復活させる、決して計画を阻止などさせてたまるものか!」


 地下の台座を中心とする広い空間に杏奈、加奈子、沢渡の3人を取り囲むようにゾンビの大群を率いる男、渋谷を覆う障壁、揺り籠の中心で人類の生き残りを懸けた退路なき戦いが繰り広げられようとしていた。



ミニコーナー企画!


「あのコをどう思ってる? 直接聞いてみた!」


はいは〜い前回に引き続き司会・進行を務めるよ、特異現象捜査部本部長 這月ニアだよ〜。


今回はね、登場人物であるあのコはあのコの事をどう思っているのか、お題に沿って直接聞いてみる企画だよ。


今回のゲストはこの子!


File1  「人を喰らう家」にて怪異として登場しました、中野久美です……


というわけで今回は中野久美さんに登場してもらったよ! でも君、あの時とは随分と様子が違うようだけど……


あ、あの時は霊にもなって色々心のブレーキというか……そういうのがなかったので。こっちの方が私の本来の人格というか性格というか……


そうだったんだ。まぁお勉強しかしてこなくてお友達も居なかったみたいだしそれもそうなのかもね?


あなた、自然にとんでもなく失礼な事言いますね……事実なので否定はしませんが。


あぁなんかゴメンね? まぁここらで本題に移っておこうか。さて、今日彼女に答えてもらうお題はこれだ!


和泉心陽の初見時はどう思いましたか?


う〜んお兄さんを初めて見た時ですかぁ……

初めて見た時は家の窓から見た時なんですけどいつも通り新しい人を家に引き込もうとしてた時、本来は相手の精神に干渉して引き込むんですけど彼の場合ハッキリと視認していましたからね。

正直普通じゃないって思いました。


案の定お兄さんは凄い力を持ってました。

でももし異能力も無しに「普通の人」として出会えたら、その時はお友達になってみたいって思いました。

あの人は……きっとすごく優しい人だから。


んん~わかるよ。彼には悪い人のオーラを全くと言っていいほどに感じられない本当に光の人間だからね。


っということで中野久美さんから見た和泉心陽とはどうだったのか? というお題でした〜


今日はここまで! 皆またね〜



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