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限界加奈子、渋谷にて

 ハロウィンで賑わう渋谷の街に突如としてゾンビが現れ、渋谷中がゾンビパニックに陥り始めた頃、渋谷のとある一般企業に勤めるある女性もまた、奇妙な運命に惹かれ始めていた。

 もう夜にも関わらずオフィスにカタカタと響くタイピング音、世間ではハロウィンだのと街中でお祭り騒ぎだがオフィスでは上司の怒号や電話対応やタイピング音で毎日がワッショイワッショイお祭り騒ぎだ。


 そんな色々と賑やかな商社にこの年から営業部にて新卒入社で働いている女性社員がいた。



 志那内しなない 加奈子かなこ、23歳。



 それなりの大学を出て荒波のような就活の航海を終え、やっとこさで新卒での就職を手にして安心したのも束の間、完全に入る会社を間違えた。

 新卒で入った8人の同期は2週間で2人になった。残っているもう1人は鬱病で治療中だそうだ。新人の内は研修期間やらで優しいモンだと思っていた。優しかったのは最初の3カ月だけだった。まさかこんなにも早く社会の荒波にまた放り込まれるとも思っても見なかった。


(ああ……早く辞めたい……)


 加奈子は毎日、いや毎時間毎分のように口にしている。心の底から辞めたかった。辞めたい意思は過去に幾度も伝えている。しかし引き留められたり逆に怒られたり引き継ぎの話も気づいたら流れてて無かったことになっている始末。


 窓の外を見れば仮装した若者達がどんちゃん騒ぎしているのを死んだ目で眺めながら愚痴をこぼす。


「なんだよあいつらどんな人生送ったらあんな事できる暇あるんだよ…何がゾンビだの幽霊だの仮装だよ。私のほうがよっぽど死人じゃねぇか……へへ……」


 下らないことを呟きながら自分のデスクに戻る。すると外が窓越しでも聞こえるくらい騒がしくなり、それを察したのか社内の残業戦士達も何事かとざわざわし始める。


「わ、私、外で何が起こってるのか見てきます!」


 これは休憩チャンスだと思い率先して外の確認しに外へ出る。


 外に出ると秋の夜風が心地よく感じる。それだけで気分が浸りそうだが、一応何が起きているのか確認する。

 外ではまるでゾンビパニックのように白い目をした人が人々を襲っていた。そして渋谷を包むようにドーム状の光が頭上に光っていた。


「ウ……ウァァ……」


 そんな中、近くにいたゾンビ?と目が合ってしまう。果たして見えているのか分からないが恐らく認識されているのだろう一目散に襲いかかってきた。


「わ、わわっ! なんでぇぇ!?」


 加奈子は急いで社内に逃げ込む。

 焦って中に逃げてしまった為、ドアも開けっ放しで中にゾンビを連れてきてしまった。

 急いでエレベーターに乗り込みドアを閉める。ドア越しにドンドンと音が聞こえるが間一髪助かりオフィスの階へと逃げ込む。


 オフィスに戻ると上司から何があったか聞かれ、下で起こった事を報告しようとするが、上司が退勤しようとしている事に気付くと、ゾワッと黒い感情が背から湧き上がってくるのを感じた。


「そうだ……いいこと考えた……」


 加奈子はボソッと呟いた。

 その後、加奈子は上司へと報告する。


「いや? 特に何もありませんでしたよ? 今日はハロウィンですからねー。多分盛り上がってただけじゃないですか?」


 何食わぬ顔で嘘をついた。

 下の階にはゾンビがいる――がその事を伝えず何も無かったと報告した理由は明白だった。


(くたばれクソ上司)


 心の中で中指を立てる加奈子はそのままエレベーターに乗り退勤していく上司を見送る。


 きっとこの後現実のエレベーターに乗って下の階に降りた後、すぐさま天へのエレベーターを昇っていくだろうと考えるとニヤけが止まらなかった。

 我ながら天才だと自分を褒めたくなる。

 ――エライぞ加奈子!


 そこで加奈子はさらに恐ろしい計画を考えつく。そしてソレを実行するまでに時間は掛からなかった。きっと天啓だ、天は加奈子を見捨てていなかった。そう信じて疑わなかった加奈子は、早速自分のデスクに戻り、自分の私物を全てバッグに詰めていつでも退勤出来るように準備を進める。荷物はデスクに置き、そのまま階段を使って下へ降りる。


 一瞬上司に止められはしたが加奈子は上司の制止を振り切り階段を降りていく。


「はいは〜い♪ 鬼さんこ〜ちら〜♪ 手〜の鳴〜る方へ〜♪」


 加奈子は下の階からゾンビ達を連れて階段を登り、オフィスまでゾンビを連れてきた。

 オフィスの社員達は何事だとまじまじと見つめる。


「ワーナニコノヒトータスケテー」


 露骨な棒読みでオフィスに逃げ込んだ加奈子は自分のデスクまで逃げ込む。

 社員は今日がハロウィンというのと外の状況を知らない事も相まってゾンビを仮装だと疑っていた。


「なんだ? 仮装か? 勝手にオフィスに入ってたらダメじゃないか」


 注意をしようと近づいた社員はゾンビに襲われ、首筋を食い散らかされる。オフィスに血飛沫を撒き散らし、目の前で惨殺された事で、始めて仮装ではなく本物であると気付いた社員達はパニックに陥り、騒然とする。

 加奈子はそれに乗じてカバンを手に非常階段から脱出した。


「〜♪ 〜♪」


 加奈子はウキウキで非常階段を鼻歌混じりで下りていく。


「ゾンビさんもういっそ会社潰しちゃってくれないかな? そしたら私この会社辞めれるのにな〜」


 既に8徹目の加奈子にまともな思考など存在しなかった。もはや善悪の区別もつかず、人の命と会社を辞めたい気持ちをかける天秤すらそこには存在しなかった。


 街中をゾンビや逃げ惑う人々で混沌とした渋谷の街をスキップしながら携帯でSNSを開く。そこで現在、渋谷はドーム状の壁で幽閉されている事を知り、スキップしていた足は止まる。SNSの書き込みを何度も確認する。


「え? 嘘? 帰れないの?」


 加奈子は電車通勤である為、渋谷から出られない事実を突きつけられ、加奈子は「終わったー」と天を仰ぐ。今、正常な思考を持ち合わせていない加奈子はすぐに向き直る。


(どうせなら死んでも後悔しないようにやれる事は全部やろう)


 そう決めると、加奈子はアパレルショップを転々とし、店舗が機能していないのを良いことに衣服や靴を盗んでは1人でファッションショーをしたり、ビジネスバッグを捨ててリュックサックに変え、コンビニやスーパーから食料をありったけ盗んでこの混迷した渋谷の街を満喫していた。無敵人間と化した加奈子は盗んだバイクで走り出しやりたい放題であった。


「ヒャッハー! どけどけー! 加奈子様のお通りじゃ〜い!」


 街中を爆走する加奈子は相手がゾンビだろうがお構い無しにたまたま寄ったスポーツ用品店で盗ったキャンパーの様な衣装にスポーツサングラスと金属バットを身につけバットを振り回し頭を潰していく。その姿はまさしく《《狂人》》だった。


 散々街中で暴れ回り、夜景でも観ながら休憩しようと高層ビルの屋上へ登ると、そこにはフード付きの衣服を纏った白髪に真ん中に黒髪が残った20代前半かと思われる若い男性が街を見下ろしていた。


「あら〜先客がいましたか〜」


 ササーっとその場を後にしようとした加奈子に気付いた男は金属バット片手のサングラスキャンパーという明らか異質な姿をした女性、加奈子に少々戸惑いつつも声を掛ける。


「ちょっと君、少しいいかい?」


「はい? なんでしょ?」


 男は中々の美形で海のような蒼い瞳に頬には痛々しげなヒビが入っている様に見えた。その男は神秘的な容姿をしていながらその内側にはこの世界に対して絶望しているような空っぽな印象を感じた。

 男は加奈子に対し、質問を投げかけた。


「君は今、この惨劇の始まりを目の当たりにしてどう思う?」


「ん〜会社抜け出す良いきっかけかなって。会社辞めたかったし」


 思わぬ能天気な回答に男は少々驚いたような顔を見せる。話しかけた相手が狂人だった時ってこんな感じなのだろうか……

 男はフッと笑い何か満たされるような顔をした。


「君のような人が居るだなんてね……服装や立ち振る舞い、言動……全部イカれてる。能天気なのか狂ってるのか分からないけど……質問を変えよう。この街は結界ゆりかごの中で屍人ゾンビに満たされ、やがて揺り籠の外へ、日本全土を、世界をゾンビで埋め尽くす。君はこの結末をどう思う?」


「私が生きてたら何でもいいかな。まだ死にたくないし……まぁ私だけ生きてても退屈かな〜って思うけどそれでも生きることに飽きるまでは死にたくないって思う」


「すごいな君は……なぜだか人と話してる気がしないな……。しかし揺り籠は規模の大きさもさることながらこれだけ目立てば奴等も動き出すのにそう時間は掛からない筈だ。私の計画は邪魔などはさせない……」


 男は1人そう呟くと何か満たされた様な表情で加奈子を見つめる。風が雪のような白髪をなびかせ、夜の闇の中でもハッキリと見える海のような美しい蒼い瞳の美男は、心做しかこの世への未練が全て無くなったかのように見えた。


「なんか……これから死ぬ奴みたいな顔してるね」


「かも知れないな。だがもしもまた会うことがあったら……その時はちゃんとゆっくり話してみたいな」


 男はそう言うとここがビルの屋上であるにも関わらず男の体はふわりと宙に踊り、背中からゆっくりと……やがて重力に引かれるように落下していった。

 目の前でまさか飛び降りをすると思っていなかった加奈子は急いでビルの下を見下ろす。しかし不思議と男の姿は無かった。


「なんだったんだろ……それに……ゾンビの事とか壁の事とか結構知ってそうだったよね……あっ」


 今更ながらまともに働かない頭を精一杯働かせて加奈子はようやく答えにたどり着いた。


「もしかして……アイツめっちゃ怪しくね?」


 限界社畜の志那内 加奈子は混沌とするゾンビ世界を生き抜いていく。




ミニコーナー企画!


「次回予告をやってみよう!」


はい、今回次回予告をやらせてもらいます。

File1 「 人を喰らう家」に登場しました。心陽お兄ちゃん、和真お兄ちゃんと一緒に幽霊のいる空き家に入った小学生、井上大輝です。


本編中では中々活躍の機会が無かったけど次回予告くらいは頑張ってやってみようかなって思います!


ではやってみます! 次回予告!


渋谷がゾンビに溢れて大変な時に、謎の光の壁まで現れて警察や自衛隊も動けない中、ついに特異現象捜査部が動き始める。しかも今回派遣されるのは捜査部の中でも特殊部隊なんだって!?

その頃、杏奈とユッコはゾンビと逃げながら脱出の策を考え脱出の方法を探しに渋谷の街を駆け巡る!


次回、 隠殺の猟犬 次回更新をお楽しみに!


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