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FINAL 理不尽な世界に生きる

 葉月によってリビング連れられた久美、それは久美の念願でもあった「神に一矢報いる」チャンスでもあったのだがそれは久美の思い描いていたものとは大きく違っていた。

 神の存在は想像よりも遥かに大きく人、更には呪力を持った幽霊であっても太刀打ちできるものではなかった。

 そんな強大な力を前にした久美の末路とは……

 心陽達に代わり、久美と対峙する葉月、その圧倒的な力によって久美を瞬く間にねじ伏せてしまう。リビングに久美を連れてきた葉月は、久美の待ち望んだ「神への復讐」の機会を与えるのだった。


「どうするの? やるの? やらないの?」


「そりゃ当然やるに決まってる! 私はその為に神様の気を引こうと今まで人を殺してしてきたんだ!」


 久美の紫色の瞳が禍々しい光を放ち身体中から黒い呪力が大量に溢れ出す。

 やがて部屋中を覆い久美がその霧のように立ち込める呪力に紛れ姿を消す。


「ほう、大した呪力だね。恐らく今まで見た中でもトップクラスだよ」


 尚ソファに深く腰掛けたまま葉月動く気配は全くと言っていいほど無い。

 久美は背後から現れ、切断された部位は再生しており、呪力によって具現化された刃物で斬りかかる。


「でも残念だなぁ。世界って残酷だよねぇ」


 葉月がそう呟くと、見えない斬撃の様なもので瞬く間に久美は四肢が切断され、胴体と首だけになった久美が優しく抱きとめられる。


「あ……あぁ……」


 瞬時に四肢を切断された事に痛みも忘れ、圧倒的な力の差に久美は言葉も失ってしまう。

 もはや抵抗もできず葉月に抱かれ頭を撫でられるしかなかった。


「悔しいね……こんなに頑張ってきて、力もつけて、やっと念願叶って神様に復讐のチャンスが来たのに……神様に手も足も出ないなんて……辛いね……哀しいね……」


 葉月は優しく久美を撫で続け静かに語り始める。


「あのね? この世界にはどう足掻いても覆すことが出来ない《《真理》》っていうのがあってね? 元が人である幽霊も同じなんだけど、『人は神には勝てない』んだよ」


「人は神を殺せない。神殺しは《《神同士》》でしか存在しないんだよ。よく神話や伝承では人が神に対抗したりする話があると思うけどそれらは所詮人が抱いた幻想なんだよ。神ってのは人の手が届く場所にはいないんだ」


 葉月の口から語られる真実に久美は悔しさから涙を流す事しか出来なかった。


「そんなの……そんなの理不尽じゃんか……! 私…ずっと我慢して……死んでも我慢して……そうしてやっと神様に一矢報いるチャンスが来たと思ったら手も足も出ずに残念だったねなんて……酷いよ……無茶苦茶だよ……」


 久美の涙の訴えに葉月は黙って同情するように優しく抱きしめる。


「神様は人の事なんて何とも思っちゃいないよ。死のうが生きようが関係ない。残念だけど生きとし生けるもの全てが報われなきゃいけないなんてのは人間の考えであって神様が定めたものでも何でもないんだよ。だからこの世の生命は理不尽に見舞われた時は、納得しようがしまいがそれを受け入れる事しか出来ないんだ……それが力無きものの《《宿命》》だよ」


 そう言って葉月は優しく抱き上げた久美を床に仰向けに寝かせ、立ち上がる。


「え……? 何? なにするの……?」


 自分が今から何をされるのか不安感に駆られ、冷や汗と涙を流す久美を哀れみの視線で見下ろす葉月。


「それぞれ神様にも役割があってね?お姉さんの様な死神は死した魂を正しく幽世に導くのが仕事なんだ。君のような死して尚、現世に留まる魂はあっちゃいけないんだ。だからお姉さんは君を幽世に連れて行かなくちゃいけない」


 そしてキッチンの中を漁り始め、食用油を取り出す。


「おっあるじゃ〜ん♪ さて、始めようか。これから君は除霊される……死神による除霊は霊体の魂の刈り取り、つまり君は私にもう一度殺される。だから覚悟してね?」


 そういうや否や油を部屋中に撒き、最後に久美に油を注ぐ。

 葉月が装束からライターを取り出した瞬間、久美は全てを察した。


「私達死神ってね?触れたもの見たもの全部君みたいな幽霊に物理的接触を可能に出来るんだよ。実はコレ、火とかにも付与できたりするんだよね」


 これから起こる恐ろしいことに久美は顔面蒼白になりジタバタと暴れ始めるが四肢を切断されている為、それは陸地で魚が跳ねているようなものであった。


「お願い! やめて! 神様! 助けてよ! 理不尽があるのは分かったからこんな酷いことやめてよ!」


 必死に命乞いをする久美をみる葉月の眼は先程まであった哀れみの色は一切無く、凍りつくような冷徹な視線のみであった。


「君は自分の人生を理不尽に思っていたんだよね? なんで自分だけって……君はそう思っていたんだよね?」


 すると葉月は空間を裂き、その中に手を入れとある物を取り出す。それは久美が生前、宝のように大事にしていた《《蠱毒》》の瓶であった。


「そ、それは……!」


「そう、君が大事にしていたものでこれが呪力を増幅させる役割を担っていたものだよ。

 さて、改めて聞くけど本当に理不尽を押し付けられていたのは本当に《《君だけ》》だったのかな?」


 葉月の質問にハッとさせられる。その言葉の真意に気付くのに苦労することはなかった。それは全て、自身の行いにあったのだから。思わず久美は言葉が出せなくなる。


「君は生物学の研究が趣味だったんだよね? その為には数々の生き物の命を犠牲にしたはずだ。今まで犠牲になった命達が君に命を奪われたことに対して理不尽じゃないと言えるのかな? ここで殺した人々は君に抵抗する事も出来ずに一方的に殺されたんじゃなかったのかな? それは君が理不尽を押し付けてきたからじゃないのかな?」


 自身の行いに既に気づいている久美は、自身を弁解する余地もなく口をぱくぱくとさせていた。


「君に殺された命達は思ったはずだよ? どうして殺されなきゃいけないの? ってさ。誰も望んで君に殺された訳じゃないはずなのに……もう君は気付いてるんでしょ?」


 久美は耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいであったが久美に塞ぐ手は存在しなかった。

 そしてとうとう葉月は久美の最も恐れていた真実を口にする。


「君はずぅ〜っと『なんで私ばかり?』と理不尽を押し付けられる事を怨み、憎悪しながらそれでおいて君は生物に対して理不尽を押し付けていたんだよ」


「あ……あぁ……」


 核心を突かれ、目を見開き涙を流す久美に葉月はもう同情する事は無かった。


「そ……そんな……私……そんなつもりじゃ……」


 ぼそぼそと泣きながら呟く久美を余所に葉月はライターに火を点ける。

 それを見た久美は再び冷や汗と鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔で再び葉月泣きついた。


「わかったから! 反省してるから! やめて! 神様お願い! そんな酷いことしないで!」


「『人を呪わば穴二つ』ってことわざ知ってるかな? 君は文字通りその呪力をもって人を殺したんだ……報いは当然受けるべきじゃないかい? 君たち人の常識ならばね? 私は死神だから君達『人の常識』は通用しないけど。神が人を殺すのは何となく蟻を潰して殺すようなものだから」



「それに気になってたんだ」





「幽霊って焼いたらどうなるんだろう?」





 その言葉と共に油が広がる床にライターを落とす。火は瞬く間に広がっていき、やがて久美の体も炎に包まれる。



「熱い! 熱い! あ゛つ゛い゛ぃ゛ぃ゛!ごめんなさい! 助けて! やだぁぁぁ! お父さん! お゛か゛ぁ゛さ゛ぁ゛ぁ゛」


 助けを乞う相手はもはや誰でもよかった。この苦痛から逃れる為に必死に訴え続けた。しかし誰も助けに来ない。死神の《《理不尽な力》》の前に、力の無い久美は只々それを受け入れるしかなかった。

 葉月は久美の体が焼き尽くされ、やがて消えていく様を見届け、家を後にした。


(あの子は、恐らく少年の霊能力と同等……もしくはそれ以上の呪力の才能があった。もしもあの力を完全に使いこなしていたら……恐らく本当に『神に一矢報いていた』かも知れないね)



 ◇ ◆ ◇ ◆



「これは……一体……?」


 心陽達が結界の外へ出ると、唐突に気温の高さに驚愕する。結界内では夕暮れであったが、外に出てみれば燦々と照りつける太陽にセミが鳴いている。唐突に町中に血塗れの高校生と小学生男児が現れた事で、当然その場では騒ぎが起こってしまう。


 その後、3人は病院に運ばれ、治療を受けしばらくの入院生活の後、心陽は家族と面会し、衝撃の事実が告げられる。


「え? 今って8月?」


 空き家に入ったのが6月14日だったのに対し、現在が8月14日。心陽達は2カ月もの間、空き家にいた事になる。どうやら結界内と外の時間の進み方にはズレがあったようだ。


 親との面会後、和真が隣のベッドで会話の内容を聞いていたようでカーテンを開ける。


「おい2カ月経ってるってホントかよ? 俺達そんな長い間いたのかよ?」


「あぁ、ホントみたいだ。外はセミも鳴いてるし、部屋にクーラーも効いて……」


 心陽は和真の顔を見て固まってしまう。入院中和真は意識が戻るのに少し時間がかかってしまったが故に今まで和真の顔見ることは無かったのだが、今心陽の目の前にいる和真の右眼は、今まで通りの澄んだ瞳でハッキリとした黒目ではなく、それはその機能を失った事を告げるように……まるで燃え尽きた炭のような灰色になっていた。


「和真……右眼……どうしたんだ……?」


「あぁ……これか? お前を助け出すための細やかな代償だよ…もう、俺の右眼は何も見えなくなっちまった」


 頬を掻きながら答える和真に責任感に駆られた心陽は思わず涙を流す。


「そんな……ごめん……俺の為に……右眼を犠牲にさせて……本当にごめん」


「いいって泣くなよ〜お前は悪くねぇからよ! それによ? 俺達生きて帰ってこれたんだぜ? あんなの普通だったら死んでるって! 今は生きている事を喜ぼうぜ!」


 泣き出す心陽を和真はにこやかになだめる。

 どこまでも明るい和真に心陽は励まされ、涙を拭い固い握手を交わした。


 その後、神奈川県警の事情聴取を可能な範囲で入院生活と並行して行われた。


 現実離れした内容も多かった為、「何言ってんだこいつ?」 みたいな顔を終始されていたが無事、事情聴取も終え、ついに退院の日を迎えた。


「ふぅ〜俺達もついに晴れて退院だな! どうだ? この眼帯、カッコいいだろ?」


「かっこいいってただの医療用の眼帯だろ? それとも和真、葉月さんに会ってから厨二病ってやつに目覚めたか?」


 そんな他愛もない会話をしながら病院の外に出ると、車が一台とポロシャツ姿の30代前後くらいの男性が待っていた。


「やぁ。君達が今回の事件の生存者、和泉心陽いずみしんようくんと荒谷和真あらたにかずまくんだね? 私はこういう者だ」


 そう言うと男性は警察手帳の様なものだがそこには警察の代紋は無く、タコを上から見たような姿をしたデザインの代紋がそこにあった。

 和真はその代紋に見覚えがあり、上部の顔写真と階級欄を確認する。そこには和真が想像するものがあった。


 特異現象捜査部 新橋しんばし 凪助なぎすけ


「君達2人に聞きたいことがあってね。少し時間を頂きたい」


 そう言うと新橋という男は車の後部座席のドアを開ける。


「和真、この人は明らかに怪しい……そもそも特異現象捜査部ってなんだ? そんなもの聞いたことないぞ?」


「以前久美も言ってたろ? お前以外にも霊能力者がいたって。その人は特異現象捜査部の刑事さんだったんだ。脱出用の札もその人が作ったものだから恐らく悪い人じゃない。多分聞きたい事も空き家の一件だろう……多分普通の警察官と違ってこっちが本命かも知れない」


 そう言うと和真は後部座席へと歩み寄る。心陽も渋々車に乗り込んだ。

 車移動は神奈川を離れ、東京都の警視庁本部に到着する。

 入口を抜けてエレベーターによって地下へと降りていき、またそこからしばらく進みスキャナーようなものに手帳の代紋を読み込ませ、扉が開く。すると入口が開くと天井から「特異現象捜査部」その下には英語で「Special Phenomena Investigation Division」と大きく書かれた案内板が顔をのぞかせた。


 施設内を進みとある部屋へ案内される。どうやら取り調べ室の様な場所に案内される。

 心陽から先に1人ずつ入れられる。

 そこで心陽と和真は各々空き家で起こった事を全て話した。


 中野久美、及び中野一家の家庭環境

 呪力による結界

 福原 武の殉職


 その後に問われたもののそこまでは2人にも分からなかった。どうやらその後、空き家は原因不明の火事によって全焼したようだ。


「最後に1つ、君達はあの空き家からどうやって生き残ったのかな?」


 新橋からの最後の質問は自身の能力についてだった。


 心陽も和真も葉月との関係性は隠しておくべきと判断し、同じ回答を返す。


「「霊能力は偶然目覚めたものです」」


 心陽は元より霊感があった事を補足して説明した。


 一通りの取り調べを終え、和真が部屋出てきた所で新橋に連れられ本部長の部屋に案内される。


「ここから先は私の入室は許可されていない。君達2人でこの先に行ってくれ。本部長がさ君達を呼んでいる」


 恐る恐る扉の前に立つと電子ロックが解除され、扉が開く。


 部屋は少し広く、資料が入っているであろう棚や机は綺麗に整頓され清潔感があり、正面の大きなデスクに座る1人の男がいた。

 藍色でボサボサの長髪を後ろに束ね、眼鏡をかけた20代前半程の若々しい男性がお菓子を貪っていた。


「ああ、いらっしゃい。君達が例の2人だね?待っていたよ。立っているのも辛いだろう、適当な所座っていいよ」


 そう言うと本部長と思わしき男はソファを指差す。2人は言われるがままソファに腰を掛けた。


「えぇ〜とまずは自己紹介だね。ボクは特異現象捜査部本部長、這月このつきニア。2人ともよろしくね?」


「は、はぁ……」


 朗らかな表情でどこかだらしない雰囲気の漂う這月という男に拍子抜けする。


「まぁ君たちも折角退院してお家に帰りたいだろうし手短に済ませようか。早速だが君達、特異現象捜査部に興味は無いかい?」


 そう言うと机の中から資料を取り出し2人に配る。その資料には、「特異現象捜査部捜査部隊養成機関」と書かれてあった。


「君達のような霊能力者であったり魔術師、陰陽師や契約者などと言った非科学的能力を持った人間っていうのは実は非常に希少な存在なんだ。そりゃそうだよね、学校とかで魔術つかえまーすなんて子いないでしょ?」


「でも世界では非科学的能力、存在によって事件が起きている。場合によっては国家転覆、世界滅亡レベルの事件が起きる可能性だってあり得る。しかしそれらは同じ力を持ったものでしか治める事は出来ないんだ。その為に我々がいる」


「君達はその目、肌で感じたはずだ。もしそれが世の中に出てしまっていたら……とても恐ろしい事が起きると思わないかい?」


 心陽と和真はもし久美があの家から外に出てしまっていたらと想像する。それは対抗する術の無い一方的な虐殺が起きる事を想像するのは容易かった。


「それらに対抗する素質を持った人間達を我々は現場で生存する力を育成する機関を立ち上げた。簡単に言えば警察学校のようなものだ。そこに君達を迎え入れたいと考えている」


 資料を手に取り中を確認する。

 中には4年制の養成施設で全寮制であり衣食住全て機関が負担し、卒業後は、特異現象捜査部に配属、警察官として巡査の階級が与えられる。と記載されている。


「つまりここを出て特異現象捜査部に配属されると同時に警察官として働く事になるということでしょうか」


「そうだね。元より特異現象捜査部として働く事はそう多くないからね。基本的には警察官として働く事が多くなると思うよ。あと養成施設の入学は君達が高校を卒業してからになるから安心して高校生活を満喫してからで大丈夫だよ」


 心陽が質問すると這月はニッコリと笑いながらお菓子の袋を開けながら答えた。


 一見素晴らしい待遇に見えるがどうしても裏があるようにしか見えない心陽は疑いの念がどうしても晴らせずにいた。


「どうしてここまでの待遇が用意出来るんですか? 何か裏があるのではないですか?」


「キミ疑い深いねぇ……まぁ無理もないか。我々がここまでする理由は単純だよ。君達はそれだけ希少価値が高いんだよ。世界規模でほんの一握りでしか存在しない人間の1人なんだよ君達は。しかもその力で世界の命運を左右する可能性を秘めているという点においてもね」


 心陽はそう言われ納得せざるを得なかった。

 確かに特異現象に対抗できるものは世界中探してもそうそういないだろう。であればもしこの誘いを断れば久美のような惨劇が繰り返される危険性が高まる事を意味している。


 心陽は和真を見る。和真は既に自分の中で答えが出ているようで目が合った瞬間小さく頷いた。決意が固まっている事を確認すると、

 2人で席を立つ。


「わかりました。僕たちは特異現象捜査部養成機関、是非前向きに話を進めさせてください」


「君達からその言葉が聞けて嬉しいよ。君達とこの世界の平穏に貢献できる日を楽しみに待っているよ。捜査部から面談の機会を設けるからその時に聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ。では、君達は残りの高校生活を存分に楽しんでくれたまえ」


 2人は這月と握手を交わし、部屋を後にする。

 外では新橋が待っており外へ案内される。

 その途中、向かいから歩いてくる少し背の低い黒髪の同い年くらいの青年とすれ違う。その青年は手錠に両手をつながれ、警備らしき男が2人付いていた。


「あぁ、そういえばお前らの他にもう1人本部長が目をつけた奴が来るって言ってたな。あれが多分それだな」

 思い出した様に新橋が呟いた。

 恐らくあの青年も何かしらの能力を持っているのだろう。しかし手錠でつながれているのが気になったが、新橋もその青年に関してはあまり情報がないのだと言う。


 新橋によってそれぞれの自宅に送迎され、心陽は久々の我が家に帰った。

 母親の手料理を頬張り、自室のベッドで天井を見上げる。心陽の脳裏には久美の事がよぎる。世界には久美のような理不尽に埋もれて満足な人生を生きられなかった人間もいる。今を生きている者たちが幸せを実感する程、不幸を感じている人間がいるのかも知れない……いや、自分が今生きている何気ない瞬間も幸せの一部なのかも知れない。


「俺って……幸せ者なんだな……」


 不思議と頬を涙が伝い、その日の晩は今を生きる幸せを噛み締めて過ごした。


 数日後、9月になり学生達の間では夏休みの終わりを告げる頃、和真と共に通学する心陽は、久美の家の前を通ると、ニュースで聞いた通り全焼して無くなっていた。今は空き地となっている。


 あの日以降、警察が捜査に入るも全焼した家屋からは何も出てこず捜査は1週間も経たず打ち切りとなった。

 大輝くんも一足先に退院した後、学校への登校を再開したそうだ。

 心陽の首にかけていた月のペンダントは特異現象捜査部によって調査対象として回収、鑑識の結果5年前、原因不明の建物爆破事件によって殉職した神奈川県警巡査 黒川くろかわ 葉月はづきの物である事が判明した。

 鑑識後は和泉心陽の証言を元に新橋によって心陽の元へと返却された。


 路地を歩いていると一軒家の塀に座る黒装束の女性、葉月がいた。葉月は心陽と和真の元気そうな姿を見ると嬉しそうに手を振った。


「葉月さん?」


 心陽は呟くと和真が反応した。


「え? 死神様いた? どこ? どこ?」


 辺りを探す和真に指をさして教えようとしたが葉月は手で制止し、周りを見ろとジェスチャーした後、人差し指を口の前で立ててウィンクした。


 心陽はフッと笑うとそのまま和真と葉月の前を素通りした。


「ゴメン気の所為だった」


「は? なんだよぉ」


 辺りを見渡し葉月を探していた和真に周りからは何してんだコイツ……というような視線を浴びながら2人並んで学校に登校する。


 教室に入るや否やクラスメイト達が大騒ぎしながら出迎えてくれた。

 久美の一件で行方不明者としてニュースにもなっていたようで無理もなく、しばらく数日は学校中の注目の的となった。

 こうして少し? 霊感が強い男子高校生、和泉いずみ心陽しんようとお人好しの友人荒谷あらたに和真かずまは束の間の平穏を取り戻し、幸せの数だけ不幸が降り注ぐ世界を生きていく。


 2014年 9月9日

 特異現象捜査部調査記録 「人を喰らう家」


 fin.

作者よりご挨拶


作者のマチフクとーるです。


ついに第一章シナリオ本編完結! ……なのですがこのお話にはその後のちょっとしたミニストーリー、所謂「後日談」ストーリー「あのあと」が毎シナリオ付属しております! 後日談も忘れずお楽しみに!


そしてもう一つお知らせとしてシナリオ執筆をしておりますカクヨムでは近況ノートにてシナリオ毎に話のイメージがしやすいようキービジュアル風イラスト(※AI先生)を公開しておりますが、如何せんこちらでは活動報告欄に画像の貼り付けが出来ず、何か他に出来ないかと考えた結果、小説家になろう限定で後書き欄を使ってミニコーナーを作成します! 主に世界観設定の解説やキャラクター設定の解説、次回予告などを登場キャラクターにやってもらおうかと思います!


楽しみはいくつあってもええですからねぇ?

というわけで第一章シナリオ、File1 「人を喰らう家」はこれにて完結です。ご覧頂きありがとうございました! 次回シナリオもお楽しみに!

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