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廃屋に誘われ

――貴方は神を信じますか?



 ――貴方は魔術を信じますか?



 ――貴方は怪奇を信じますか?




 「オカルト」や「迷信」と呼ばれるこれらは人々が創り出した「妄想」だと現代では否定される。



 だがそれら「超常的」な存在や現象が実在したとしたら?


 ――人々にもたらす影響はどうなものになるのだろう……


 ――人類の味方となり救済をもたらすのか?


 ――はたまた敵となり破壊と混沌をもたらすのか?


 信仰、懐疑、様々な思想の渦巻くこの世界で語られる真実とは……


特異現象調査記録 〜ParanormalArchive〜




File1 人を喰らう家




 「神様も幽霊も存在しない」


今までずっとそんなものただの思い込みだと自分の中でそう落とし込んで生きてきた。東雲高校しののめこうこうに通う普通の男子高校2年生、和泉心陽いずみしんようはいつも通りの学生生活を送っていた。



「心陽! 一緒に帰ろうぜい」



 放課後の教室部活動に行く者や下校の準備をする者。ぞろぞろと生徒達が教室を出ていく中、友人の荒谷和真あらたにかずまが下校の準備をしていた心陽に声を掛ける。


 特に放課後予定もなかったので心陽は和真と下校をする事にし、その帰路でとある一軒家を目撃する。

 

 そこは住民が居ない空き家となっており、その前では警察が通行人達に聞き込み調査をしている。


「なんだ……あれ」


 心陽が呟くと和真が「お前知らないのか?」と呆れた顔になった。


「ココのところ行方不明になる事件が多発してるんだよ。それも行方不明者の目撃情報の多くはあの家の前が最後なんだってよ」


 和真が恐ろしそうな物言いで語るが心陽はへぇ~と空返事を返すだけだった。和真の話をよそに心陽の視線と意識は空き家に釘付けだったのだ。

 それは空き家から出るただならぬ気配を心陽は感じていたからだ。


 一見何の変哲も無い空き家なのだが、霊感のある心陽は確かに感じ取っていた。

 空き家からは禍々しい気配が漂っており、不思議と引き込まれる感覚に苛まれ、それはまるで心陽達を誘っているかのようにさえ感じた。

 

 そして心陽は小窓に視線をやると気づく。

 誰かがこちらを見て不気味に笑っている。そしてその誰かと心陽は目が合った…合ってしまった。


「今……目が合っ……」


 心陽は青ざめ声を震わせる。しかし和真は特に何も感じていないようで心配そうに心陽を見つめた。


「おいおい大丈夫か? もしかしてあれか? 霊感ってやつか?」


 和真のからかうような言葉に心陽は正気を取り戻す。

 額には冷や汗をかき心拍数は上昇している。心陽は荒くなっていた呼吸を深呼吸で整え「大丈夫」と手の平を向けた。


「お前、去年も似たような事あったよな。夏休みに肝試し連れてった時に誰か居るってよ? 結局誰も居なかったしあの後も何も無かったんだよな」


 笑いながら話す和真に心陽は苦笑いを浮かべる。確かにそうだ、考え過ぎなのかも知れない。


(これは霊感じゃない……今のもきっと気の所為だ)


そう自分に言い聞かせ、その場を後にし、気を利かせた和真は帰りにゲームセンターに寄ってしばらく遊んでから帰った。帰る頃には気分は大分と落ち着き、空き家の事も気にならないくらいになっていた。


 家に帰り、カバンを置いてリビングのソファーでくつろいで心身共にリラックスしながらテレビに目をやると偶然空き家の事件がニュースで報道されていた。内容は小学生男児が行方不明とのことだった。

 遊びに出かけた後、空き家周辺での目撃情報を最後に行方をくらませてしまったらしい。


 心陽は下校中の空き家での事を思い出す。

 小窓から感じた視線、人を引き込むような感覚、あの時の記憶が鮮明に蘇る。小学生男児はあの空き家に入ってしまったのかも知れない……考え出すと背筋が凍るような怖気が止まらなかった。せっかく忘れかけていた感覚を再び思い出し不快感に襲われる。


(そうだ……あの時……俺……目が合って……)


 心陽はおぞましい感覚に耐えきれず自身の部屋に閉じこもりベッドで震え上がる。

 一刻も早く意識を手放すか記憶を消したいがため必死に自身に言い聞かせる様に偶然を連呼していた。


「忘れろ……! 忘れろ……! 気の所為だ……大丈夫……大丈夫……」


 必死になっているうちに気が付けば眠りに落ちていたのだろう目を覚ませば午前6時。眠った感覚はまるでなかったのだが知らぬ間に眠りに落ち、いつもより少し早すぎるくらいに起きてしまった。

 

スマートフォンを開きSNSなどで登校までの時間を潰してから学校へ登校する。

 登校中、例の空き家の前では相変わらず警察が聞き込み調査をしていた。

 

空き家の方からは不思議と昨日下校中感じた禍々しい気配は感じられなかった。心陽は幽霊か何かの類だろうか?と一瞬考察するも考えるだけ無駄と空き家への内なる興味を振り払い歩みを進める。


 

 学校に着き、普段通り繰り返される平穏な日常、午前の授業を受け終わり昼休み、和真と学食を食べていると和真は思い切ったように口にした。


「俺、あの空き家行こうと思う」


 和真から発せられた一言。それは、空き家に対し恐怖心を抱いていた心陽が最も恐れていた言葉だった。

 

 間違っても関わるまいと思っていた空き家への突撃は何としても避けたかった。

 

 絶対的な根拠はないが確信はあったのだ。あそこでは本物の怪奇現象が起きている、もし関わってしまえば何が起きるか分からない。

 

 呪われたり出られなくなるかも知れない。最悪命を落とす可能性だってある。

 そんな場所に近づこうだなんてあってはならないと心陽の本能が訴えかけていた。


「そんなのダメだ!絶対に!うまく言えないけど、あの家は絶対にヤバい!危ないって!」


 心陽は必死になって和真を止めようとする。

 怒号にも近い大声が食堂中に響いたもので周りはざわついて2人は注目を集めてしまっている。

 和真も慌てて周りと心陽を静めて場所を変えた。


「おいおいどうしたんだよいきなり怒鳴ってよ?まぁ確かにあの家ヤバそうだけどさ、お前がいうのは霊感的なやつなんだろ?でも今までそういって何も無かったじゃねぇか。それにお前昨日のニュース見たか?今度は小学生男児だってよ。警察も聞き込みばかりで全然動かねぇしそろそろ俺……放っておけねぇよ」


 見て見ぬ振りができないという和真。行方不明事件が本当にあの家で起きているという根拠はないがあのおぞましい気配は間違いなく何か恐ろしいものが存在していると確信させる。

 心陽はどうしても止めたかった……が和真の意志は固いようでたとえ必死に引き止めても一人で行ってしまいそうな勢いだ。

 それでも……和真は大切な友達だ。如何なる理由があろうとも危険に晒す訳にはいかない。


「和真…俺は正直にあの空き家に行くのは反対だよ。あの空き家は本当に危険な気がする。俺、和真が危ない目に遭ってほしくないよ……もし死んでしまったりなんかしたら……」


 心陽は俯き不安な気持ちを漏らす。その声と体は酷く震えていた。

 和真はその様子を見て申し訳ない気持ちになりながらも両手で心陽の頭を掴み顔を上げさせた。


「悪いな心陽、それでも俺は行く。助かるかもしれねぇ命、誰もやらねぇなら誰かがやるしかねぇんだ」


 和真は力強くそう話す。そして笑顔でニカッと笑い心陽の頭を撫でた。


「俺さ、霊感とかよくわかんねぇからさ? 案外何も分かんねぇままサッと行方不明者見つけて出てきちまうかもな? ま、中に誘拐犯とか殺人犯がいたら全力で逃げるだけだしな! そんときゃお巡りさんの出番ってわけよ! どうだ? 深入りはしねぇ、約束する。だから心配すんな!」


 そんな和真の姿はこの世界の誰よりもたくましく見えた。勇敢という言葉をそのまま具現化したような青年の姿はもしも漫画なら物語の主人公と呼ぶに相応しいなと思うほどに。


「わかった……だったら俺も行くよ。和真が行方不明者の一人になったりなんかしたら笑えないからね。そんな事にはさせない」


 和真は覚悟を決めた心陽に「そうこなくっちゃな」と肩を叩いた。

「 誰も傷付けさせない」そう心に誓い和真と共に空き家への突入を決め、放課後に各々準備を整えてから空き家へ向かう事にした。


 作戦決行は17:00、絶対に生きて帰る


作者からご挨拶

作者のマチフクとーると申します。

この度は特異現象調査記録〜ParanormalArchive〜をご一読頂きありがとうございます。


本作品はクトゥルフ神話リスペクトのシナリオテーマとして「非科学的恐怖との接触」をテーマとして制作しております。

複数シナリオから構成される主人公は勿論、登場人物も変わる数々の物語は全て一つの世界で繋がっているという事に注目して読んで頂ければ物語が進むにつれて過去シナリオの登場人物が再登場!? なんてことも楽しみの一つとしてあればなと考えております。


物語の進行上どうしてもスローペースな話の流れになってしまいますが少しでも面白い作品を書けるよう作者も精進して参りますので興味がありましたら是非とも根気強く読んで頂ければ幸いです。


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