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12 形勢逆転

「喰らえ――『砕岩弾クラッシュ・バレット』!」

 クロードが振り下ろした手に呼応し、原力を纏った無数の石礫が、弾丸のような速さでイズナへと殺到した。

 イズナは鋭い眼光で、迫りくる石の雨を見据える。

 脳裏に浮かぶのは、かつて父カルスが見せてくれたスキルの情景だった。

 記憶をたぐり寄せながら、体内に芽生えたばかりの“蒼の原力”を、これまでにない密度で練り上げる。

 イズナは両手を前に掲げ、正面から迎え撃つ構えを取った。

 直後――凄まじい衝撃音が連続して響き渡る。

 ドガガガガガッ!!

 無慈悲に叩きつけられる石礫。

 激しい衝撃で地面の雪が舞い上がり、イズナの身体は真っ白な砂煙にすっぽりと覆われた。

「お兄様!」

「イズナ様……!」

「そんな……あんな攻撃を正面から受けては……!」

 アークライト家の面々が、絶望に染まった声を上げる。

 対照的に、クロードの背後に控える従者たちからは、卑しい歓声が沸き起こった。

「さすがはクロード様だ!」

「身の程知らずの小僧には、お似合いの最期だな!」

 クロード自身も満足げに口元を歪め、鼻で笑った。

「ふん、ざまあ」

 砂煙と雪が渦を巻き、誰もがイズナの敗北を確信する。

 ――だが、その白濁した視界の向こうから。

 異様な冷たさが、静かに立ち上り始めた。

 肌を刺すほどに鋭利な、空気そのものが凍りつくかのような“澄み渡った寒さ”。

 人々は思わず息を呑んだ。

「な……何だ、この冷気は……?」

 異変に気づいたクロードが目を細める。

 胸の奥に、正体の見えない不安がじわりと広がっていった。

 やがて白い霧が風に流され、人々の視界が開ける。

 そこに現れたのは――無数の棘を生やした、禍々しくも美しい「氷」だった。

 それはイズナを完全に包み込むように立ちはだかり、周囲の地面が無残にえぐられている中で、氷の内側――イズナの足元だけが、まるで別世界のように無傷のまま残されていた。

「こ、これは……カルス様が使っていた『氷盾アイスシールド』だ!

 イズナ様が、スキルを発動したぞ!」

「嘘だろ……レベル17でスキルを形にするなんて、聞いたことがない……!」

 驚きの声が次々と上がる中、イズナの内に潜むアウレも、『ほう……』っと、珍しく感心したように小さく呟いた。

 だが、イズナ自身に余裕はない。

 記憶だけを頼りに、土壇場で練り上げた氷盾。

 攻撃こそ防ぎ切ったものの、代償は大きかった。大量の原力を消費し、イズナの頬からはわずかに血の気が引いている。

 顔を上げると、クロードの表情は歪みきっていた。

 十二歳の少年が、自分のスキルを凌ぎ切った――それは、彼にとって悪夢そのものだった。

 背後の従者たちもまた、信じられないものを見る目で、イズナと主の顔を交互に見つめている。

「……っ、ふざけるな!

 たまたま出来ただけの小細工が、いつまでも通用すると思うなよ!」

 屈辱と怒りに震えながら、クロードが再び両腕を掲げる。

 先ほどよりも多くの石礫が宙に浮かび、イズナへと狙いを定めた。

「いつまで耐えられるか――試してやらぁ!」

 ドォォォッ! ドカカカカッ!

 再び、石の雨が容赦なく降り注いだ。

 イズナは歯を食いしばり、両手に力を込めて氷盾を維持する。

 だが、衝撃が伝わるたびに原力が削られていく。

 ――このまま防いでいるだけでは、いずれ限界が来る。

 それは、誰よりもイズナ自身が理解していた。

 数度にわたる『砕岩弾』の猛攻を受け、ついに氷盾に幾筋もの亀裂が走った。

「まずい、イズナ様が危ない!」

 周囲の叫びと同時に、クロードの顔がさらに醜く歪む。

 自分の原力が底を突きかけていることなど構わず、残る力のすべてを絞り出して、最後の石礫をイズナへ叩きつけた。

 パキィィィィン――!

 悲鳴のような破裂音が響き渡る。

 人々の視線の中で、氷盾はクモの巣状のひびに覆われ、次の瞬間――無数の破片となって四散した。

「ははは! どうした、次はどう防ぐ?

 これで終わりだ、貴様の負けだ!」

 勝ち誇った声を上げ、クロードはとどめの一撃を放とうと腕を振り上げる。

 しかし――その瞬間、異変が起きた。

 砕け散ったはずの氷の破片が、空中で静止したのだ。

 そして、一斉にその鋭い先端をクロードへと向ける。

「な、何だと……!?」

 クロードの背筋を、凍りつくような戦慄が駆け抜けた。

 この感覚を、彼は知っている。

 ――原力で物を操るときの、あの感覚。

 まさか、という思いが脳裏をよぎる。

(ま、まさか……あれを“制御している”のか……!?)

 目の前で宙に静止した氷片の群れ――

それは、紛れもなく自分の『砕岩弾』を真似た動きだった。

 だが、あり得ない。

 自分のスキルを“見ただけで”模倣し、さらに完全に制御するなど――

 レベル17の少年にできるはずがない。

 不可能と言っていい所業だった。

 驚愕に目を見開いたクロードとは対照的に、イズナの口元には静かな笑みが浮かんだ。

「返してやるよ。……受けてみろ」

 イズナが鋭く腕を振る。

 刹那――

 無数の氷片が、弾丸のような速度でクロードへ殺到した。

「ひ、ひぃぃっ!」

 クロードは慌てて原力を振り絞り、石を盾にしようとする。

 だが、到底間に合わない。

 蒼い光の雨が自分を貫こうと迫る。

 ――これが直撃すれば、命はあっても重傷は免れない。

 恐怖に顔を引きつらせながら、クロードはただそれを見つめることしかできなかった。

 

 間一髪のところで、人影がクロードの前に立ち塞がった。

 その人物は無造作に片手をかざし――

 次の瞬間、襲いかかる無数の氷の刃が、見えない壁に弾かれたかのように一斉に叩き落とされる。

 硬質な衝撃音が連続して鳴り響き、砕けた氷片が雪の上へぱらぱらと散らばった。

「……少しやりすぎだな、アークライト家の坊や」

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