はじめてナンパされた日
高校を卒業するまで、同年代の男の子から「かわいいね」なんて言われたことがなかった。名古屋の街中を歩いていてナンパされることが多くなった。
大学に入学したばかりの、十八歳のGW。帰省したわたしは名古屋駅の裏道を歩いていた。靴紐が取れかかっていたのを通りがかりの少年が指摘した。わたしは「ありがとう」と答えるとそのまま歩いて通り過ぎた。目が会うと、少年は、「今の娘、かわいい」と言って、引きかえしてきた。
「君、大学生?」
「そう」
「十八歳?」
「そう」
「俺は浪人生だけど、君と同じ歳だよ」
「そうなの」
「かわいいね」
「そう」
「これから何処に行くの?」
「栄」
「なら俺も栄に行く」
何の疑いもなく、一緒に地下鉄にゆすられながらセントラルパークに出てきた。屋台でたこ焼きを買い、ベンチに座って空を眺めた。隣に座った彼が突然わたしの肩に手を回してきた。
「なに?」
びっくりするのもつかの間、器用に彼はわたしのブラの中に手を滑り込ませてくる。
「ちょっと! やめてくれる?」
「今だけ! 今だけ俺の彼女になってくれる? いや、今だけじゃなくってこれからもずっとでもいいからさ・・・・」
と言いながら、少年はわたしの唇を強引に奪った。
「最低!」
わたしは少年を振り払うと、怒って電車に飛び乗った。電車の中でしばらくゆすられていると、再び少年が近づいてきて、
「君の後をずっとつけてたんだよ。ひどく失礼な女性だね! いいんだよ! 君がそういうつもりなら無理して付き合わなくたって」
と言ったきり、どこかに行ってしまった。
新入生を歓迎するという意味合いでサークルの合宿が行われた。合宿場をパジャマ姿で歩くと、「そんな格好で歩き回っていると後ろからぶち込むぞ」と男の先輩にからかわれた。自分の居場所を探せないまま自室にこもりがちにしていると、隣の部屋から女のあえぎ声が聞こえてきた。発情期の猫が唸るような声だった。わたしはその声が聞こえないようにあたまから布団をかぶった。翌日に何の声だったのか隣の部屋の女の先輩に聞いたら、「あの日はその部屋でわたしが他の男達と乱交していたのよ」と平然と答えた。
大学時代、わたしはひとり暮らしをしていた。自分からしてみたら、まだ女として未熟だったはずだったが、客観的に見たら立派に成熟した女性らしかった。部屋にひいてもらった電話には、毎日猥褻な電話がかかってきた。何度も何度も無言電話が罹ってくるかとおもえば、出ればすぐに電話が切れることもあった。猥褻なことを延々と言われることもあった。大人の真似事をしてみたくてはじめてみたアルバイト先にも、わたしが電話にでる事を知っている常連客が、何度も何度もハァハァ言いながら電話してきた。「やめてください」と怒りの感情をぶつけてみると、「お前、バイトの帰りに犯すからな!」と怒鳴られたりもした。
新入生歓迎の為のゼミコンの帰りに一人で席をたつと、「送っていくよ」と一度も喋ったことのない男の子が同じように席をたった。見かけない顔なので、きっと別のゼミの人なのだろうと思って聞いてみたら、予想通りハイデガーのゼミの人だった。わたしはプラトンのゼミに入っていたので、同じ哲学科でありながら顔をお互いに知らないのは当たり前だ。
右に曲がり、左に曲がりを繰り返していると、不思議と暗い夜道も安心できた。
「男の人と一緒の帰り道は安心しますね」
と話しかけたが、相手の男の子は黙ったまま歩きつづけた。
「俺の家、上がっていかない?」
「え!? でも・・・・」
「心配しなくてもいいよ。野郎のツレが他にもたくさんいるし・・・」
それなら・・・と後をついてあがってみると、冷蔵庫から出された酒類が目の前に置かれた。
「ささ・・・ここで続きをば・・・・」
勧められるまま何の疑いもなしに酒を飲んでいると、急に男の子がわたしの背後にまわった。
「な! なにすんのよっ!!」
急に胸をつかまれて服のボタンがはずされていく。
「他にも男の人がいるでしょ?? 何考えてんのよぉ」
脱がされないように上着を押えたまま、わたしはその家を後にした。
「かわいいね」と言われればうれしいけど、それ以上に怖さを感じる。全国の男の人にお願いです。女の子の意思を尊重して! くれぐれも、女の子の意思を無視して強引に男の欲望を通すことのなきよう願っています。




