プロポーズをされると愛が冷めてしまう理由について
恋がうまくいっていると、逆に冷めてしまう。それは、幸せが自分にふさわしくないからなのだろうか。
あの公園の木が好きだ。幹は太く力強く天を仰いでいるが、一つも葉をつけない枝は、途中から空に向かって真二つに割れている。その二つの枝の割れ目はそこから神が降りてくるようにも見えれば、その割れ目こそが長い歴史の中で深く痛めつけられた痕跡でもあるようにも見える。
わたしは、毎日会社へ通勤する度にその木の横を通った。朝は神秘的な世界への入り口に見えた割れ目が、夜帰るときには悪魔がささやきかけてくるようにも見えた。木はきっと長い時間をたったの一人で過ごしてきたのだろう。気が遠くなるほどの時間、木はそこにそびえ、そして長い孤独に苦しんだことだろう。
割れてしまった幹には、何度か雷も落ちたことだろう。深く激しい痛みに耐え、それでも生きなくてはならない絶望を、彼は一体どうとらえたのだろう。
木を見るたびに、わたしは胸が痛くなる。自分の遠い未来を考えると、自分自身がその幹になったような気がするからだ。人生はただ必死に一足一足踏みだして行く、毎日の積み重ねのはずなのに、わたしには同じ毎日が同じように訪れるように感じられるだけで、その先がさっぱり見えないのだ。
「気持ちは嬉しいけど、あなたとは結婚できないわ」
差し出されたエンゲージリングを、自分は受取れないと彼に伝えた。彼は悲しげにうつむいたまま、しばらく何も言わなかった。わたしにとって、彼は居心地のいい場所ではあったが、想像できない恐怖でしかない未来を彼と過ごすのには激しい抵抗を覚えたのだ。
「そう」
彼はそう答えた。そして、恋人同士として過ごしたわたし達の五年間に終止符が打たれた。
周りの女の子達は、『結婚』『家族』『出産』にステレオタイプな幸せのイメージを重ねているようだった。わたしにとって、それは幼い頃から決して素直には受け入れることのできない事だった。幸せのステレオタイプは、それに隠される残酷な現実を覆い隠してしまうからだ。しかし、どれだけ必死に抵抗しても、わたしの言葉は周囲から決して理解されなかった。まるで、そのときだけ自分だけが異国の言葉を用いているような違和感を覚えた。
わたしは別れた彼のことを決して愛していなかったわけでもなかった。ただ、わたしは、自分の過去の現実を未来へ向かって再現してしまう事に抵抗を覚えただけだったのだ。
「どうして別れちゃったのよ? あんなに彼と仲がよかったのに」
周りの友達はそう責め寄った。しかし、わたしにとって恋愛とは、相手の男が自分に言い寄ってきて、堅く閉ざした自分の心を開け放つところから、結婚の話をしはじめるところまでの一区切りだったのだ。何故そうなのか自分でもわからない。しかし、相手が結婚してほしいだの自分の子供を産んでほしいだの言い始めると急速に気持ちが男から離れてしまうのだった。
どうして自分がこんな風になってしまったのか、それは、自分の生まれ育った家庭環境に原因があるからだと思う。
幼少期の虐待っていうのは、人生に大きな悪影響をもたらす。




