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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
5章 限界
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閑話:サリュの休日

 私はサリュ。花も恥らう一八歳──というのは冗談で、もうじき二一歳を迎えます。


 長い廊下を歩いていると、庭で剣の稽古をしているお兄様を見かけました。

 毎日汗まみれになりながら稽古していますが、騎士でも冒険者でもないのになんのために剣を振るっているのでしょうか。

 私にはわかりません。


 冒険者ギルドで働き始めてから五年経ちました。

 はじめの頃は毎日のように怒られていましたが、今ではそんなことも減りました。

 私だってやればできるのです。


 そういえば、以前、家を出るのに数十分かかると雑談で先輩方に話したら「どんな豪邸に住んでいるのよ」と笑われました。

 本当のことなのに信じてもらえなかったようです。

 なので先輩方に「普通はどれぐらいかかるんですか?」と訊ねたら数分と言われました。

 どれぐらいの速さで移動しているのでしょうか。

 もしかしたら先輩方は馬よりも早く走れるのかもしれません。

 足の速さだけなら、多分先輩方は冒険者としても活躍できるのではないでしょうか。


 私が冒険者ギルドで働くことになったきっかけは叔父様です。

 いつもお父様に怒られてばかりの私のために提案してくださったのです。


 本来なら家の仕事を手伝わなければならないのですが、私では役に立たないどころか仕事が増えると仕事を任せてもらえませんでした。

 ですが家の決まりでは働かない者は食事をもらえません。

 なので、内側ではなく外に仕事を求めてはどうか、と言ってくださったのです。


「おや、サリュ。ちょうどいいところに来たね」


 叔父様のことを考えていたら、叔父様に声をかけられました。


 叔父様はお父様の弟ですが、お父様とは似ても似つかないほどにかっこよく、そしてとても若いです。

 家にやって来る人たちは叔父様をお兄様の兄と勘違いしてしまうこともあるようですが、私のお兄様は一人しかいません。

 ですが、そう思ってしまうのも無理はありません。

 それほどまでに叔父様はたいへん若く見えるのです。

 きっと帝都を歩けば道行く人全員が叔父様を目で追うことでしょう。


「何か御用ですか?」

「そうだね。ちょっとサリュに聞きたいことがあるんだよ」


 叔父様はそう言って仕事部屋の扉を開いて私を中に入れてくれました。


 仕事部屋はいつ来ても分厚い本がたくさん並べられています。

 机の上はきれいに整頓されていますが書類が山積みです。

 お父様の部屋はもっと散らかっています。兄弟とは思えないほどの差です。


「サリュ、仕事はどうだい?」

「はい、毎日楽しいです!」

「そうか。それは良かった。職場の皆さんには迷惑をかけていないかい?」

「うーん……、怒られることは減りましたよ?」

「なるほど」


 叔父様は少し考える素振りをしましたが、すぐにいつもの笑みで私を見ました。


「実はね、最近この部屋に入り込んだ人がいるみたいなんだよ。幸い何かが無くなったということはなかったんだけど、冒険者絡みの資料が荒らされていてね。何か知らないかな?」


 叔父様は冒険者ギルドや冒険者を管理しています。

 冒険者ギルドでは保管できないような大事な資料も持っています。

 例えばSランク冒険者の調書とか。


 実はその犯人は私です。

 先日叔父様が留守のうちにドレークさんたちに啖呵を切った資料を探すために入り込みました。

 ですが、結局肝心の資料は見つけられませんでした。

 鍵がかかっているような場所もなく、隠されているわけでもありませんでした。

 部屋を出る前にちゃんと元通りにしたはずなのですが、叔父様に気付かれてしまったようです。


「いいえ。無くなったわけではなくてよかったです」

「そうだね。そう言えば、少し前にギルドで『皇城預かりの資料を調べるあてがある』と話していたそうだね。()()()()、何か申し開きはあるかな?」


 そう言う叔父様の笑顔はキラキラしています。

 ですが、叔父様が私を〝サリエラ〟と呼ぶときはあまりいいことはありません。

 ギルドでの会話を知られているのは想定外です。


「…………」

「……サリエラ、君にはこれを渡しておこうかな」


 黙る私に叔父様は書類の束を渡してくれました、その量は午前の受付を終えたときの依頼書の束と同じぐらいです。

 当然ですが、とても重いです。


「これは、サリエラがギルドに勤めるようになってから今までに来た苦情の数々だよ。君が何かトラブルを起こすたびにこうやってその詳細が届けられていたんだ」


 書類で手が塞がっているのでめくることができませんが、一番上の紙には確かに私がかつてやってしまったミスが書かれています。

 でもこれぐらい誰でもやることではないでしょうか。

 叔父様の手を煩わせてまで報告することではないと思います。


「こんな些細なことで叔父様に苦情を言うなんて心が狭いと思います」

「…………」


 今度は叔父様が黙ってしまいました。

 大きく息を吐き出して呆れたような目をしています。


「少しは反省してくれると思っていたけど、考えが甘かったようだ。サリエラ、地下室でこの書類全てに目を通しなさい。その後やることは自分で考えて私のところに来なさい」


 地下室は別名お仕置き部屋と言われている外鍵をかけられる薄暗い部屋です。

 子供の頃、よくお父様に入れられていました。

 良い思い出はありません。あんな部屋で書類を読むなんて無理です。


 叔父様は良い人です。いいえ、良い人でした。

 今は悪魔です。

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