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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
1章 冒険者
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冒険者ギルドのお仕事

 冒険者ギルド本部兼帝都支部。

 そこは帝都にあるだけのことはあり、所属する職員もさることながら利用する冒険者も多い。

 強いて言うなら、職員一人あたりの仕事量は他の支部と比べて圧倒的――とまではいかないものの、かなり多いという特徴がある。

 結果、採用される職員は総じて能力が高く、仕事のペースも速い。


「はぁ~。午前中の受付は終わりっ。さっさと書類をまとめないと午後の受付時間になっちゃう」


 ギルドの受付嬢も職員に含まれる。

 当然、彼女たちも仕事が速いのだが、やはりさばける物量にも限度がある。

 定められた休憩時間に仕事を持ち込まないように結構必死にならないといけないのだ。


「えっと、こっちの山が達成済みの依頼で……こっちが受理した依頼……。とりあえず受理した依頼を先に経理に回しておいたほうが早いかな」


 カウンターに山積みとなっている書類の一山を一人の受付嬢が持ち上げた。


 きれいに整えられているとはいえ、一枚一枚が留められているわけではない。

 持ち上げた途端に、山から数枚はらりと書類が舞い落ちた。


「あっ。もう……」


 持ち上げた書類をカウンターに戻し、受付嬢は落ちた書類を拾い上げ中身を確認する。

 落ちた際に順番が入れ替わってしまったのだ。


 基本的に依頼の書類は一枚で構成されるため順番を気にする必要はないのだが、所定の書式では書くことができない資料が別紙になっているケースも有るため、一応確認するのがルールとなっているのだ。


「あ、やっぱり二枚綴りがあった。えっと……C一八九九二七……C一八九九二七の一枚目はっと……あったあった。――って、あれ。これ二枚目の方にサインがないじゃない。もう、担当は誰?」


 受付嬢は探し当てた書類を見て憤慨した。

 依頼の受付処理の際に、依頼を受けた冒険者もしくはパーティのサインが必要なのだが、どうやら一枚目のみにサインがされていたようだ。


 受付処理をした担当者まで書類を持っていく受付嬢。

 お昼が近いこともあり、心なしか踏み込む足に力が入る。


「ねえ、この依頼、二枚目の説明はしたの?」


 相手によく見えるようにひらりと掲げた受付嬢は、口調は穏やかなものの、顔には怒りがにじみ出ていた。

 声をかけられた方は思わず半歩下がってしまった。


「え、何? ……あ、これドレークさんたちが受けたやつですね。――って、え⁉ これ二枚綴りだったの⁉」

「つまり説明していない、と?」

「えぇと……うん……。でも、受けたのドレークさんたちだし、Cランクの依頼だからきっと大丈夫」


 取り繕えないと判断したのか、担当者は諦め半分にうなずいたのだが、受けたのがBランク冒険者であることを思い出してすぐに開き直った。

 その様子に書類を持ってきた受付嬢は青筋を立てたのだが――


「――ちょっと待って。あ、どうしよう。これちょっとまずいかも――」


 見落としていた書類に目を通した担当者の顔が一気に青ざめた。

 それにつられて持ってきた受付嬢もその内容に顔を引きつらせたのだった。




 ▓   ▓   ▓




 ギルドマスター室。そこはギルド本部にしか用意されていない特別な部屋だ。


 主にはギルドマスターの執務室で、出入りするのは部屋の主であるギルドマスターと、その補佐ぐらいだ。

 あとはせいぜいギルドマスターに呼び出された重要人物ぐらいだろうか。


 そんな冒険者ギルドのギルドマスター室には現在二人いる。


 一人は当然、ギルドマスターであるガリオン。

 もう一人は滅多にギルドに現れることのない赤髪の女だ。

 彼女はもちろんギルドの職員ではない。


 ガリオンは自らの巨躯に合わせて揃え直した執務机に座りながら、向かいの滅多に使われることのないソファに座る女を見ながら話をしていた。


「――というわけで、協力をお願いしたい」

「断る」


 取り付く島もない様子の女を、ガリオンは実は苦手としていた。

 その理由は様々だが、最も大きな理由は力関係だろう。

 立場上はガリオンのほうが上なのだが、それ以外――冒険者としても、ガリオンは彼女の背に到底追いつけないと思っているのだ。


 しかし、この話はガリオンの意思ではない。

 ガリオンでは到底抵抗することのできないところから降ってきた話なのだ。

 断られようとも引く訳にはいかない、と口を開いたところでガリオンは再び閉口することになった。


 ばんっ、と派手な音を立てて扉が開かれたのだ。


 来客中であることは周知済みで、緊急時以外は入室を禁じたはずだ、とガリオンは扉を開けた人物を睨んだ。


「お話し中に申し訳ございません。急ぎご報告することが――」


 入ってきたのは二人の受付嬢だった。一人は息を切らしながらも冷静を努めていたが、もう一人は真っ青だ。


「なんだ」

「実は、先程受領した依頼の中に補足資料があるものが混ざっていまして」

「伝え忘れたぐらいなら、今報告する必要はないだろう」


 その後続くであろう言葉を予測してガリオンはそれを遮った。

 いらぬ問答をしている時間はないのだ、と言いたげに受付嬢を睨む。


「いえ、それが、変異種の可能性があるというものでして」


 変異種――通常の魔物とは何かしら異なる場合につく項目だ。

 異なるものは見た目であったり、強さであったりと様々だが、総じて通常の魔物より認定ランクを引き上げる傾向がある。


 ガリオンは表情を変えて、受付嬢に続きを促した。

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