本心
村を維持するためという政治的理由で他所からやって来た一人を犠牲にする。
きっと、長老たち村の統治者にとっては至極当然の考えなのだろう。
助けるならより多くを。その考えは分からなくはない。
でも僕は、全員を助ける道を諦めたくない。
「……それでも、もっと他の方法を考えるべきだったと思う。本人が良いと言ったからって責任をすべてなすりつけても、それは上辺の解決でしかない。犠牲者がいる時点で失策じゃないの?」
だいぶ濁ってきている長老の目が僕をじっと見上げた。
もしかしたら殆ど見えていないのではないかと思えるそれで、まるで答えを探すようにただただ見つめる。
「──そう、かもしれんのう。じゃが、先に話した通り、あの時のワシらには他に思いつかなんだ。それはこの村に引きこもって俗世と外を見下していたせいやもしれん。長く続けることは驕りに繋がる。いやはや掟の通りじゃのう……」
咳込みながら話す長老は酷く苦しそうだ。
話の途中で何度か顔役が介助しようとしたが、それを長老は手で制し、最後まで話した。
「長老……もう休みましょう。アルノルトももう良いだろうか。来てもらって悪いが……」
顔役がそう言うのも当然だろう。
長老の咳は今も続いており、途中に挟まる呼吸音にも変な音が混じっている。
「……いえ……、聞きたいことは聞けたので……。ありがとうございました」
「すまんな。……そうだ、霊草が必要なんだったな。後で家まで持っていこう」
顔役と長老に頭を下げて、父とともに外に出た。
思わず感情的になってしまったことに後悔と羞恥が今頃になって襲い来る。
そして最後の長老の様子に後ろ髪を引かれる思いで生家に向かった。
その日の晩、顔役が家までやって来て、約束通り霊草を渡してくれた。
「……アルノルト。長老はさっきはああ言ってはいたが、本当はあの時提案したリーゼ殿に首を振ったんだ。恩を仇で返すことなど出来ないとな。だが代案を出せなかった。だから、村のみんなにはあの説明をする他なかったんだ」
居間に上がるための段差に腰掛けた顔役はそう言った。
顔役も話すべきか迷ったのだろう。
話し始めたときから地面しか見ていない。
「いえ、僕は長老たちを責めに来たんじゃないんです。さっきは……感情的になってしまってすみませんでした」
「──そうだぞ、アル。あれは父さんもマジで怖かったぞ」
互いに黙ったままの僕と顔役の間に父がふざけた口調で割って入った。
そんな父の肩を母が叩く。「あいたっ」と明るい声が短く響いた。
「お父さん、ふざけるなら他所でしてください。せっかくアルが帰ってきてくれているんですよ」
「俺はこの重ーい空気をどうにかしようとだな……あいたっ。……わかった、わかったから引っ張るのはやめてくれ……。あ、そこは──痛ぁ‼」
母に引きずられるようにして父は隣の部屋に消えていった。
途中でタンスに父がぶつかっていたがお構いなしだ。
母強しである。
「……………………」
そんな光景を僕と顔役は呆然と見るしか出来なかった。
「──ところで、リーゼ殿は息災か?」
ぽつんと取り残されたままどうするべきか考えあぐねていれば、顔役が口を開いた。
意外な問いに僕は思わず驚いた。
「え? 元気、だと思いますけど……」
そう言えば、村についてから一回も念話での共有をしていなかった。
後で謝らねば、そんなことを思いながら答えた。
最後の報告時もいつもと変わらない調子だったので、嘘にはならないはずだ。
「そうか……。霊草はあの方の依頼で取りに来たのか? ──いや、あの方なら自分で取りに来るな」
訊ねておきながら、その視線はどこか遠くを見ているようだった。
何を聞きたいのか分からず、僕は口を閉ざしたままだ。
「霊草を何に使うのかは知らんが、そのまま使うようなことはするなと必ず伝えろよ。お前もどうなるかぐらいは聞いているだろう?」
霊草は煎じて抽出することで、最良の効果を発揮する。
それこそどんな怪我や病気もたちどころに治すほどだ。
そんな究極の薬の原料をそのまま使用すればどうなるか。試したものは少なくないらしい。
その結果はおしなべて凄惨だったと言い伝えられている。
なので、霊草を取り扱うものには必ずそのまま使用してはならないと伝える決まりになっている。
ただ、残念なことに霊草から作られる霊薬を作れるのはある一族のみで、隣国の森の奥深くに居を移して以来音沙汰が無いらしい。
ようは霊薬の精製技術は現在の帝国には存在しないため、それを伝えることも不可能ということだ。
「ああ。ちゃんと伝えるよ」
僕の回答を聞く前に立ち上がっていた顔役は、返事を聞くなり静かに帰っていった。
届けられた霊草はマジックバッグにしまった。
聞きたかった〝レスヴェラルの血筋〟についても、飛竜が村に来た日のことも聞くことが出来た。
一通りの目的は達成できたはずだ。
明日の朝、村を発とう。そう決めて夜を過ごした。




