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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
4章 悲劇の地
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探索

 街の中も樹海の中とはいえども、それまでとは打って変わって陽光がしっかりと差し込んでいる。

 視界も広く、三街区先ぐらいまで見渡せる。

 明るいおかげか、吹き抜ける風も心地良い。


 僕は行くあてもなく、地図を見ながら街中を歩き回った。

 放牧地から厩舎、加工施設と酪農や畜産の施設が集中した地区を抜け、もはや使い物にならない田畑を横目に住宅地に入る。


 どこも樹木だらけだが、かつてはどんな景色だったのかは想像できる程度には形を留めている。

 このあたりは樹海化の影響が少ないようだ。

 それに、鬱蒼としていた樹海よりも草木の艶が良い。

 廃墟ではあるが、景観としてはなかなか良いのではないだろうか。


 さて、適当に歩き回ったところでアーティファクトは見つからない。

 そもそもアーティファクトはどのようにして出来上がるのか解明されていない。

 なので遺跡であれば見つかるのかと言えば答えは「必ずしもそうではない」なのだが、遺跡でなければ見つからないというのも真実だ。

 つまり、見つけたければ隈なく探すしかなく、見つかるかどうかは運次第なのが現在の常識だ。


 しかしこの旧レイノール辺境伯領という遺跡は、他では類を見ないほどの広さを誇る。

 到底一人で探索できる範囲は限られる上、遺跡の殆どが樹海という迷宮だ。

 今いる地区で、なおかつ三時間という制限時間内で、僕一人の力で見つけられる可能性は低いだろう。


「困ったな……。せめてマジックバッグを見つけられたら色々楽になるのに……」


 そう。冒険者の根源的で最大の問題は荷物だ。

 不測の事態に備えようとすれば自然と物が増えるのだが、持てる量には限りがある。

 更に予定外の戦闘が発生すれば重たい荷物を持ったまま戦うこともなくはない。

 それがどれほど足かせになるのか想像に難くない。


 そういった問題はマジックバッグが解決してくれる。

 マジックバッグはその大きさの割に収納できる量は途方もなく多く、中身の重さの影響は受けない。

 今のように液体を大量に持っていても重たくないのだ。


 重たい荷物は鍛錬という意味では大変有用なのだが、実践ではただ邪魔になるだけだ。

 鍛錬と実践、どちらに比重を置くべきかは考えるまでもないだろう。


 当たりをきょろきょろと見回しながら住宅地を周り、時には庭にも入り込んでみたりしたものの、それらしきものは見当たらない。

 その辺に転がっているものは、どれも朽ちた古のただの道具たちだ。

 殆どが遠目でも違うとわかるほどの状況だ。


 時間は少しずつ過ぎていく。

 一向に見つかりそうもない状況に思わずため息が出た。


 ふと道の正面を見ると、道の先のだいぶ離れた場所に茶髪のおさげの子の姿が見えた。

 こんなところに人が? と思ったが、考えてみればこの地は食べ物には困らない。

 悲劇の後も残った人たちの末裔かもしれない、と声をかけることにした。


「あの!」


 僕の呼びかけに応じる声はない。

 代わりにおさげの子は僕に向かって手招きをした。

 声が聞こえなかったのかもしれない。そう思って、僕はその子の元へ走った。


 走って近づいたにも関わらず、子供の姿は消え、気づけば更に先に立っていた。

 子供はやはり僕に向かって手招きをして、更に別の場所を指さした。

 僕はその子がいた場所まで走り、指さした方を見る。

 そしてその先にはやはり先程の子が僕に向かって手招きをしている。


 遊ばれている? と思ったものの、なぜかそんな印象は受けない。

 別に変なところに入り込ませようとしているわけでもなく、同じ場所をぐるぐると回されているわけでもない。

 むしろこの道順でなければ行けない場所に誘っているようだ。

 相手は子供。無視するのも憚られるので、追いかけ続けることにした。


 子供を追いかけ続けることしばらく、ようやく追いついたと思った場所には小さな鞄が落ちていた。

 道中でよく見かける朽ちたものではなく、つい最近まで大切に保管されていたかのようにきれいな状態だ。

 手にとって蓋を開ければ、底が見えない。

 試しに手を入れてみれば、僕の手よりも明らかに小さいそれの中に、僕の手はすっぽり入り、腕まで入れても底に触れることがなかった。

 つまりこれは念願のマジックバッグだ。


「あの、これを僕に教えてくれたの?」


 いつの間にか近くに立っていた子供はこくりと頷いた。


 よくよく見れば、その子の姿は少し霞がかって見える。

 霧の中ではないのにおかしな見え方だ。


 訝しむ僕をよそに、子供は更に違う場所を指差す。

 ──あの方向は、古代竜の爪痕がある方のはずだ。


 古代竜の爪痕とは、帝国と隣国の境界にある深く大きな谷だ。

 かつて存在したと伝えられている巨大な竜がつけた爪痕の名残と言われている。

 その谷底には誰もたどり着けておらず、その谷は帝国と諸外国を分断するかのように広がっている。

 そんな方向に何があるというのか。


 考えるのも束の間、子供はまたもやいつの間にか離れた場所に立って手招きをしていた。

 どうやら示した方へ案内してくれるようだ。


 そのまま僕は導かれるまま街の中を移動した。

 いつしか周りの景色は荒れ果てた町並みではなく、樹海のそれに変わっていた。

 その変化に気づいた頃にはどれほど樹海の中を歩いたのかわからなくなっていた。

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