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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
4章 悲劇の地
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手合わせ

 数日後、早朝の鍛錬の最中に訓練場にリーゼさんがやって来た。

 こんな時間帯に帝都にいるのは珍しい。休日だろうか?


 僕は構わず鍛錬を続ける。その様子をじっと見ている人がいるのはなんとも落ち着かない。


「…………。一度手合わせしてみようか」


 鍛錬を終えて一息ついたところで、そう声をかけられた。

 訓練場にいるのは僕とリーゼさんの二人きり。

 貸切状態の訓練場の中央で向かい合い、合図もないまま素手による模擬戦が始まった。


 ──結果、僕は負けた。


 途中まではリーゼさんに一切反撃させることなく打ち込めていたのだが、たった一手ですべてがひっくり返り、そのまま呆気なく負けたのだった。


「んー……。まあ合格かな。明日から付いて来るのを許すよ」


 僕の首を足で押さえつけたままそう言われても説得力がない。

 この状態で合格って……。


 エルム殿下からの頼みを受けた翌日、僕はリーゼさんに拒否された。

 理由なくただ「断る」とだけだ。

 その様子からして殿下から話が来ていないのだろうと、殿下からの命だと言えば、大きなため息とともに、ものすごく嫌そうな顔をされた。

 そして、提示した試練をすべて果たしたら許すと言われ、今日に至る。


 出された試練はどれも難しいものだった。

 まず初めに念話スキルの習得。

 念話は声を出すことなく任意の相手と会話できるスキルで、非常に役立つものの習得難度も非常に高い。

 聞いたところによると、現在の現役冒険者で会得している者はいないそうだ。

 そんなスキルを会得するのに一年かかった。


 そして持久力。

 キーメル侯爵領ユレイアまで徒歩で休むことなく行って来いと言われ、帝都から放り出された。

 片道五日の道のりを一人歩き続け、ようやくたどり着いたと思えば、今度は休むことなく帝都まで走っていけと言われ、その時は死ぬのではないかと思ったのを今でもよく覚えている。


 依頼で出かける時は現地まで走っていく習慣ができたのはこの時からだ。


 その後も主に体力面に関する試練が出され、結果できあがったのが、毎朝の鍛錬だ。

 新たな試練が出されるごとに追加した項目は、今では一通りやるのに二時間はかかるほどの量になった。


 だから、体力面には自信があった。

 手数で押せば押し切れると思った。

 しかし結果は惨敗。

 結局一発も当てられることなくひっくり返されるとは思いもしなかった。


「──なんというか、もっと嬉しいものだと思っていたんですが、こう、踏まれたままで言われると感動も何もないですね……」

「あ、ごめん……」


 うっかりという様子で、リーゼさんはすぐにどいてくれた。

 上体を起こして喉をさすれば、まだ踏まれていたときの感触が残っている。

 ヒールで踏まれていればもっと酷いことになっていただろう。いや、生きていただろうか……。


「明日から、ということは行き先は決まっているんですか?」

「まあ……そうだね……。あんまり気は進まないけど、旧レイノール辺境伯領に行くよ」


 旧レイノール辺境伯領。

 かつて、旧王国時代にレイノール辺境伯が統治していた領地だ。

 そこが未だに〝旧レイノール辺境伯領〟と呼ばれているのは、その地を現在統治している者がいないからなのだが、今後も統治者は現れることはないだろう。

 ──なぜなら、そこは全域が遺跡として認定されているのだから。


「旧レイノール辺境伯領──ですか? あそこって遺跡認定されてて許可がないと入れないんじゃ……」


 遺跡は何かと危険が多い。

 単に遺物目当ての盗賊が多いだけならまだいい。

 そこに魔物が住み着いていたり、幻覚作用があったり、一番厄介なのが何が起こるかわからない場合だ。

 そういった危険度でランク分けした上で、許可された者しか入れないよう管理されているのが現状だ。

 それに、そこはかなり危険なのでできれば行きたくないのだが。


「遺跡管理の責任者は?」


 突然の問いに僕は思わず「は?」と間抜けな声を出してしまった。責任者と言ったら──。


「──皇族、ですか?」

「そうだね。より正確にはエルムのくそったれだ。力技で入れる」


 力技って……。いやその前に、皇族をくそったれなんて言ったら不敬罪でその場で処刑されますって。

 大丈夫なのかな……。


「いやいや、力技って……。無理やり入れたとして、中は大丈夫なんですか? それに後からお咎めがあるかもしれないですし、危ないですよ」

「……まあ、そこはなんとかなるさ」


 すっと目をそらしたリーゼさんは、そのまま訓練場を出ていった。


「そういうわけだから、今日中に準備しておきなよ」


 という言葉を残して。

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