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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
1章 冒険者
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初日

 ギルドの宿泊施設で夜を明かして翌日。窓に向かって、僕は大きく伸びをした。


 窓から見える景色は都会そのものだ。

 真正面は石造りのアパート。

 その両隣や、そのまた隣も似たような見た目の建物で、おそらくこの施設から見える景色はどこから見てもほぼ同じなのではないかと思う。


 ギルドの宿泊施設は、昨日訪れた建物の二階にある。

 もしかしたら三階以上もそうなのかもしれないが、部屋数はそれほど多くないようで知らない人との相部屋だった。


 僕が泊まった部屋には僕を含めて四人いたのだが、朝起きた時点で他の三人はすでにここを発った後だった。

 つまり、今は僕が独占している状態だ。

 ガランとした室内に一抹の寂しさを覚えた。


 ぼんやりした頭のまま身支度を整えて部屋を出る。


 部屋にはベッドと小さな収納しかなく、その他のものはすべて共同だ。

 流石に風呂などは男女で分かれていたが、その他必要な設備はすべて施設の一箇所に集まっている。


 とりあえず顔だけ洗い、一階に降りればすでにそこは活況を呈していた。

 掲示板や受付だけでなく食堂さえも満員の状態だ。完全に出遅れである。


 もはやそこに近づくことすら困難そうな掲示板は後回しにして、食堂で空いている席を探すが、やはりどこも使用中だ。

 長椅子であれば少し空いているスペースもあるが、使用中の席に突然その間に割り込む度胸も席を詰めてもらう度胸も僕にはない。


 立ち止まって、どうしたものかと考え込む。

 ここは外に食べに行くか? と思ったが、手持ちがないことを思い出して首をふる。

 その時、ある人が目に止まった。僕は無礼を承知でその人達に近づいた。


「あの、昨日はありがとうございました」


 僕が声をかければ、食事中だった彼らは何事かという雰囲気でこちらを見た。


「おう。ちゃんと休めたか?」

「はい。おかげさまで。しっかり休みすぎて出遅れちゃいましたけど」

「ははは。休めたようで何よりだよ。あ、出遅れたってことはまだだよね? ここ座る?」


 僕を見て二人はどうということはなさそうな顔で話す。僕は空けてもらった席に遠慮がちに座った。


「この時間はいつも混むんだ。大体これぐらいの時間に新しい依頼が貼り出されるってのもあるが、馬車が動き出すのも今ぐらいだ。それをみんな見計らってこうなってるってわけだ」

「そうなんですか……知りませんでした」

「まあ、そういったことは説明されないからね。これも新人への洗礼みたいなものだよ。別に意図してやっているわけじゃないけどね」


 昨日よりは滑らかに話すゼインさんは、続けて僕に何か買ってくるよう提案してくれた。

 食堂のカウンターの場所まで教えてくれるあたりかなり気が利く人のようだ。

 僕はお礼を言って急いでカウンターへ向かい、一番安いメニューを頼んだ。

 パンと牛乳のセットで銅貨二枚。これで完全に一文無しだ。


 急いで席に戻ってきたときにはドレークさんたちは食べ終わっていた。

 席を確保しておくために待っていてくれたようだ。


「おかえり。僕達はここでもう少しゆっくりしていくけど、気にせず食べていって」

「ありがとうございます」


 僕は再度空けてもらった席に座り、パンに手を付けた。

 柔らかく焼き上げられたパンは手で簡単にちぎれる。村で食べていたパンとは大違いだ。


「あ、そうだ。自己紹介まだだったよね。僕はゼイン。ランクはB。それで、こっちがドレーク。ドレークもBランクだよ」

「アルノルトです。一応Dランクです」

「Dってことは訓練所出てるんだ? 訓練所ってどんな事するの?」

「そんなこと聞いてどうするんだよ。もう一度新人をやりたいってか?」

「そう言うなよ~。だって気になるじゃん。しかも推薦付きなんて」


 そんなに珍しいのだろうか。

 そんなことを思いながらも、昨日とは打って変わって――いや別人のように目を輝かせているゼインさんにちょっと驚いていた。


 やいのやいのと言い合う先輩たちを背景に僕は質素な朝食を平らげた。

 なんとも落ち着かない朝であった。


「――で、アルノルト。お前、今日はどうするつもりだ?」


 食べ終わるのを見計らっていたのか、ゼインさんとのやり取りを切り上げてドレークさんが訊ねた。

 予定を訊ねられたところで僕の具体的な予定は未だに未定だ。


「まだ決まってはいないですが、余っているDランクの依頼をいくつかやろうかと」


 僕の回答に顔を見合わせるドレークさんとゼインさん。なにか変なことを言っただろうか?


「えっと、Dランクって言ったよね? なら僕らと一緒にCランクの依頼を受けてみる?」

「え?」


 確か二人はBランクと言っていたはずだ。

 ならば、Bランク以上の依頼を受けるのが普通だろう。

 Cランクの報酬などたかが知れているのだから。

 だから、僕はなぜそんな提案をされたのかわからなかった。


「お前、ソロだろ? で、初めての依頼ともなればそこらの溝浚いが安全圏だろう。だが、そういった依頼は総じて実入りが少ない。ついでに言うとその手の依頼は、色々諦めてるEランクの奴らが真っ先に持っていく。で、だ。残っているのは魔物討伐ぐらいだが、条件の良いやつは真っ先に消える。そこそこ良いやつもだな。そうやって残った依頼ってのは――」

「きつい、安い、めんどくさいってのが定石だね。いわゆる割に合わない依頼ってやつ」

「つまり、状況的にお前はより上位の依頼を受けざるを得ないというわけだ。だが、訓練所を出ているとはいえ、冒険者なりたてのビギナーでソロには難易度が高い。それにまず受付で止められる。そうなるぐらいなら、俺たちとやれば良いんじゃないかってな」


 確かに、残り物の依頼が割に合わないものであれば、一文無しの僕にとっては大問題だ。

 いくら宿代がかからないとはいえ、食事や装備のためにある程度は余裕が必要だ。

 裏にどんな理由があろうとも、僕に断る選択肢はない。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 ペコリと頭を下げた僕に、二人は口元を緩めていた。それが少し嬉しそうに見えた。

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