素質
「……お言葉ですが、殿下。Aランクであればギルドから来る──いただく話しじゃ──話ではないでしょうか」
確かにそうだ。
ランク認定には皇族も関わっているが、Aランクまではギルドが仕切っているはずだ。
わざわざ皇城に呼び出してまで伝えることではないはず。
少々マナーに囚われすぎていた、と反省した。
「うん、確かにそうだね。しかし今、Aランクの役割は重くなってきている。私の口から伝えなくてはならないこともある。見せたほうが早いこともあるしね。──さて、アルノルトに来てもらったのは、君を集中強化対象にしようと思ってね」
「──集中強化……ですか?」
「そう。君にはより上を目指してもらいたくてね。どうだろう、受けてくれるかな?」
上、つまり高ランクを目指せ、か……。
おそらくBとかではなく、Aかそれ以上を求められているのだろう。
到底僕には無理な要求な気がするが……。
そもそも、僕はDランクの新人冒険者だ。なぜ僕にそんな話が降って湧いてくるのか……。
「どうかと言われましても……。なぜ僕──私なのでしょうか?」
「それは──もちろん君に見込みがあるからだよ」
答えるまでに妙な間があったことに引っかかりを覚えた。
こちらに見せている微笑みもどこか作り物めいているように見えなくもない。
しかし、それは貴族のマナーによるものかもしれないと、意識の外へ追い払った。
それにあながち嘘を言っているようにも思えない。殿下がそう判断する材料がないわけではないからだ。殿下は強化訓練の会場にいたのだから。
とはいえ、会場にいて僕を見ていたとしても、見込みがあると判断されるような要素があっただろうか……。
やはり、その点については納得はできない。
「僕には──私には殿下がおっしゃるような素質があるようには思えません」
殿下はすっと目を細め、再び微笑みを浮かべた。
「自己評価が低い、とは言わないが、そうやって冷静に自分を評価できるところだね。……アルノルト、冒険者にとって大切なことはなんだと思う?」
「……確実に依頼を達成すること、でしょうか?」
「そうだね。そのためには、必ず生きて戻らなければならない。いくら魔物を討伐できたとしても相打ちでは意味がない。それではギルドはずっと帰りを待ち続けなくてはならなくなるからね。冒険者に必要なのは、確実に目標を達成するために正確に状況を判断し、計画を立てる思慮深さだと私は考えている。もちろん、判断する状況には自分自身の力量も含まれる。君には十分その素質があると思うよ」
たった数分で一体どれだけのことを見ているのだろう。
リーゼさんとの模擬戦で見せられたのはせいぜい運良く偶然できたパリィぐらいだ。
言われたような評価を受けるだけの戦いができたようには思えないが、ここまで言われて否定するのも失礼だろう。
「あ、ありがとうございます……。でも、集中強化とは具体的に何を……?」
「──そうだね、【風矢と炎斧】に入ってもらう──というのはこれからのことを考えると訓練にならないね。忙しくなってそれどころではなくなるだろうから。そうなると選択肢は一つしかなくなるね。リーゼについて回ってもらおうかな」
まるで今思いついたように殿下は口を開いた。──もしかして、僕が呼ばれた理由って実は無いんじゃ……。
「不満かい?」
あまりの適当加減に二の句をつげずにいると、優しい口調で問われた。まるで子供に接するようだ。
殿下は明らかにドレークさんやゼインさんより若く見える。ゼインさんたちよりも僕の方が歳が近いかもしれない。
なのに親のような雰囲気を感じるのはなぜだろう。
「い、いえ……」
「では、受けてくれるということでいいのかな?」
「…………。少し考える時間をいただけないでしょうか」
苦し紛れの時間稼ぎだ。
正直僕に忙しいリーゼさんに手をかけてもらうほどの価値はないと思う。
だからうまく断るための言い訳を探したいのだ。
「わかった。この後案内する場所から戻ってくるまで待とう。それ以上は待てないよ」
あっさり認めてくれたのだが、猶予は少ないだろう。
それまでに何か良い案が見つかれば良いのだが……。
その後、ドレークさんたちにAランクになるにあたっての説明がされ、前言通り場所を変えることになった。




