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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
3章 〝料理〟なるものを所望する!
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殿下

 道中数え切れないほどのため息を吐きながら、皇城の城門前までやってきた。

 ドレークさんたちとはここで落ち合うことになっている。


 建物の二階分はあるのではないかと思うほどの高さを誇る城門を見上げれば、ズキズキとした頭痛に襲われた。


 頭痛もため息も理由は明確。昨日教わったマナーの多さが原因だ。


 昨日教わっただけでも一〇〇は優に超えているのではないかと思えるほどの量だった。

 それでもまだ一部というのだから、貴族とは如何にルールが好きなのかがよく分かる。

 多少ギルドのルールがあるとはいえ、ほとんどが自由な冒険者とは真逆である。

 それらすべてを守ろうものなら、それはもう僕ではない気がする。


 程なくしてやって来たドレークさんたちとともに門番に手紙を渡せば、詰め所の隣りにある待合所で待つように言われた。


 待合所の中はいくつかベンチが置かれているのみで、他にこれといったものはない。

 本当に待つためだけに用意された場所のようだ。


 どれだけ待つのかわからない、とベンチに座ろうとしてふとノルベールさんの言葉を思い出した。


 ──座っても良いと言われてもすぐに座ってはなりません。


 慌てて下ろしかけた腰を上げた。早速マナーを破るところだった、と汗を拭う。

 ドレークさんもゼインさんも黙ったままだ。彼らもマナーを意識してのことだと思う。──たしか、言葉を選びなさいとか、むやみに言葉を発してはいけないとかあったはず。


 早々に粗相しそうな自分に手が汗ばんできた頃、ようやく迎えがやって来た。


 やって来たのは、一人の騎士。

 格好から近衛騎士であることが窺えた。

 ピンと伸びた背筋から付け焼き刃ではなく、体に染み付いた自然なものであるように見える。


 近衛騎士は朗らかな表情で城内を紹介しつつ奥へと僕たちを誘う。

 城門から主塔までは事前の申請があれば馬車で入れること、主塔には謁見の間や大広間があること、行政は西塔で行われていることなどなど、淀みない口調で話されるそれはもう何度も話されていることのようだ。


 そうして連れてこられたのは、主塔を通り抜け、その奥にある居住塔だった。


 塔と言うにはいささか無理のある、邸のような作りのそこは、その名の通り住むために作られた建物だ。

 もちろん住んでいるのは皇族である。

 当然警備は厳重で、塔同士を繋ぐ歩廊には二人の近衛騎士が立っていた。

 案内の近衛騎士が敬礼をすると、見張りの近衛騎士が扉を開けて通してくれた。

 更に中にも二人近衛騎士がいた。そして廊下を巡回している近衛騎士も何度か見かけるほどの厳重さだ。


 一つの施設とは思えないほど長い道のりを経てようやくたどり着いた先は、一階の日当たりの良い一室だった。

 開け放たれた大きな窓からは外の庭園がよく見える。


「ご苦労さま。下がって良いよ」


 部屋の主は、案内の近衛騎士を下がらせて、執務机に着いたまま僕たちを見て微笑んだ。

 その人は濃紺色の髪の青年だった。見覚えがある人物だ。

 ──そう、つい先日メルストロジアさんのところで見たばかりだ。


「よく来てくれたね。私はエルム・レスヴェラル。冒険者や騎士団、国内の治安を管轄している者だよ」


 エルムと名乗った青年はニッコリとこちらを見ながら、僕たちの名前を確認した。

 ──のだが、ドレークさんだけ違う名前だったので本人が訂正を入れた。かなり戦々恐々とした口調だったが。

 それに二人からは妙に驚いているような雰囲気が伝わってくる。


「おや、ギルドの登録上は〝ジェイ〟になっているけど……、なるほど、名を変えたのは君の故郷の風習によるものかな? 変えたなら変更届を出さなければいけないよ」


 青年は特に咎める様子もなく、優しい口調で言い聞かすようだった。


「は、はい……」


 別に緊張した空気であるわけではないのに、嫌な汗が出る。それは二人も同じのようだ。


「それにしても君たち──、その格好はなんだい?」


 そんな僕たちを気に留めることなく青年は吹き出すように笑った。

 可笑しさに耐えかねたのか体を折り曲げる始末だ。


「あ、あの……殿下……」


 いたたまれず声を上げたのはゼインさんだ。

 身なりはあっているはずなので、なぜ笑われているのかわからないのは三人同様のようだ。


「すまない。君たちがあまりにも似合ってなさすぎてつい……。ちゃんと、服装も態度も普段通りで構わないと書いておいたんだけどね……フフ……」


 そう言いながらも笑いを堪えられないようで、ところどころに笑いが含まれていた。

 ──ところでそんなことは手紙には書かれていなかったのは僕だけだろうか。

 そう思って隣を見れば二人も唖然としていた。

 しかし、それを指摘できる度胸のある者はこの場にはいない。


「──さて気を取り直して……。君たちをここに呼んだのは他でもない。君たちの今後について伝えるためだよ。まずはゼイン、ドレーク、おめでとう。君たちは明日からAランクパーティだ」


 先程までの笑いは鳴りを潜め、厳かな雰囲気で言われた内容の意味が分からず、僕だけではなくドレークさんたちまでもが疑問符を浮かべたまま固まった。

 対して青年──エルム殿下も僕たちの反応に疑問を呈しているような素振りを見せたが、表情は変わっていない。


 ──不快なことを言われても絶対に態度に出さないこと。


 今頃になってノルベールさんの教えが思考をかすめた。遅すぎである。

 そしてもう一つ思い出したことがある。


 ──褒められても社交辞令と思って適当に謝辞を言って流しなさい。絶対に真に受けないこと。


 状況的に、ノルベールさんの教えを信じるのであればAランクになるということを信じてはいけないのだろう。

 しかし、相手の立場上嘘を言う理由はない。どうすれば良いのだろう。

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