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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
3章 〝料理〟なるものを所望する!
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避難誘導

 街の中心部、東西と南北に伸びる大通りの交点であるそこは、大きな広場のようになっている。

 周囲には屋台がいくつも立ち並び、中央には巨大な噴水がある。

 催事にも使えるようにするためか広場内は明確な道が作られておらず、大通りから広場に馬車のような大きなものは進入できないようにする仕組みすらある。


 そんな広場の噴水前にやって来たカイヴァルさん——セレディアのギルド支部長らしい——は数人の部下に作業台を用意させながら、集まった冒険者に向かって声を上げた。


「良いか、よく聞け! 避難誘導は迅速に行わなくてはならない。全員で一緒に回っていたんじゃ、全域を見回った頃には決着がついているだろう。それでは万が一に対応できない。安全確認ができるまでリーゼも本気を出せん。故に! 我々はこの広場を拠点として二、三人一組になって全域を一斉に確認する! もしも逃げ遅れた人を見つけたら、街の北部にある領主邸まで避難させろ。ここまででなにか質問はあるか⁉」

「なぜ二、三人一組なんだ?」

「想定外が起きたときの伝令用だ。事故、災害、その他自分たちで対処できないことがあれば一人この拠点に寄越して状況を伝えろ。他は⁉」


 支部長はその後いくつかの質問に答えた後、担当区域を振り分け行動開始を指示した。


 支部長の言う通り、安全確認は急務だ。

 もしも逃げ遅れた人がいるところへ高波が来たら、あの巨大ななにかがやって来たら、逃げ切れずに巻き込まれてしまうかもしれない。

 もしかしたら何らかの理由で身動きが取れない人もいるかもしれない。

 それらも想定して、僕はあてがわれた地区へ向かって走った。


 僕の担当区域は南端の宿屋街の一部だ。

 大小様々な宿が立ち並び、一軒一軒見て回るのも骨が折れそうなほど入り組んでいる。

 一緒に回るのはもちろんペニーだ。


「ねえ、今なにか光ったよね?」


 確かに巨大ななにかがいる方向で淡い光のようなものが見えた。

 おそらく魔法によるものだろう。討伐が始まったのかもしれない。


「うん。攻撃が始まったのかも。あれがどう動くかわからないから急がないと」


 僕たちが向かう先は巨大ななにかがいる地区にほど近い。

 行動が予測できない以上急がなくては。


「……きっと大丈夫だよね?」


 心配そうに訊ねるペニーに僕は答えられなかった。

 海上で暴れる敵相手に果たして打つ手はあるのだろうか。

 不安ばかりが募っていくことに焦りを覚えていた。


 担当区域に入り、僕たちは交互に大声を上げた。

 何らかの理由で残っている人に誘導に来たことを伝えるためだ。

 緊急事態で気が立っていて、不審者として襲われたら目も当てられないのだから。


 そして念のため一言断りを入れて一軒一軒扉を開けて確認していく。

 宿屋街とはいえ、民家が一軒も無い訳ではないのだ。

 宿屋だと思ったら民家だった、なんて事故を起こさないための予防線でもある。

 まあ、この状況でそれを咎めるような人はいないのかもしれないが。


 一軒扉を開け、呼びかけた後気配察知で内部に人がいないかを確認する。

 誰もが大声を上げられるわけでもないし、もしかしたら中で倒れているかもしれない。

 そういった人たちを取りこぼさないために念入りに、かつ迅速に作業を進める。


 六軒目の建物が大規模な高級宿だった。

 流石にこの規模では僕の気配察知で全体を調べることはできない。

 せいぜい建物の縦半分を三階分が限界だ。

 やむを得ないので中に入り、他と同じように声をかけながら階段を駆け登る。


 数段飛ばしで五階まで登ったところで息が上がっていることに気づいた。

 途中で馬車での移動が挟まったとはいえ、カルラ討伐直後にこれだ。

 無理をしている——程ではないが、流石に疲れを隠せない所まで来ているようだ。

 それに神殿送りにされるような怪我を負った後でもある。


 建物の縦半分を見終え、もう半分を上階から見て回り、途中でペニーと合流した。

 どうやらこの建物にも逃げ遅れた人はいなかったようだ。


 宿から出て次に行こうとしたところで爆発音のようなものが聞こえてきた。

 本格的に攻撃が始まったようだ。

 先程から魔物の雄叫びも大きくなっている。僕たちのリミットが近づいているようだ。

 疲れている、と休憩している場合ではない。

 ポーチから回復薬を取り出し、それを一気に飲み干した。


「大丈夫⁉」


 その様子を見たらしいペニーが駆け寄って僕の体を支えようとした。


「大丈夫。ちょっと体力が切れただけだから……」

「カルラと戦ってすぐにこれだもんね。さっき、隣の地区を担当していた人たちが合流してくれたんだ。きついなら拠点に戻っても——」

「大丈夫だから。それにペニーも同じでしょ? 任されたことはやり切るよ」


 半ば心配そうに、半ば不服そうにペニーは僕を見た。

 回復薬での体力回復は本来の用途外だが、別に間違った使い方ではない。

 そこまで心配をする必要はないよ、と姿勢を正して次の建物に向かった。


 その後の見回りも特に問題なく進んでいった。

 ペニーが伝えた通り、隣の地区を担当していた人たちが手の回っていない区域を回ってくれたおかげで、複雑に入り組んだこの地区もほぼ見終わっている。

 残すところ後一軒だけだ。


 他と同じように声をかけ、扉を開けて気配察知を使う。

 今日だけで気配察知を連続して何度も使ったことによって僅かに探知できる範囲が広がったようだ。

 この建物は一度で調べきることができた。


「…………! 一人取り残されている人がいる!」


 その反応は建物の二階部分、階段を上がってすぐの場所だ。

 場所を伝えると合流した冒険者の一人が駆け出した。

 そしてしばらくして一人の女の子を連れて戻ってきた。

 どうやら、倒れてきた家具で身動きが取れなくなっていたそうだ。


 連れてきた冒険者の提案で、僕とペニーで領主邸まで女の子を連れて行くことになった。

 おそらく僕たちの状態を見かねて提案してくれたのだろう。

 正直なところ僕たちは立っているのもやっとの状態だ。今も膝が笑っている。

 送り届けたら拠点に戻ることを伝えて、女の子を連れて領主邸に向かった。

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