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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
3章 〝料理〟なるものを所望する!
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やっぱり怒られた

 ドォンと激しい音が聞こえた。

 すぐ近くではないことに安堵しながらも、仲間の無事を確認したい一心で首を頑張って持ち上げる。

 しかし未だにダメージは抜けておらず、さして持ち上げることができなかった。


「動けるかい?」


 どこからともなく現れたリーゼさんに訊ねられたが、声を発することもできなかった。


「回復薬は持っているかい? 持っていればまばたきを一回、持っていなければ二回だ」


 今の僕にできることを瞬時に判断しそう指示したリーゼさんに、僕はまばたきを一回した。

 するとリーゼさんは自身のマジックバッグから小瓶を一つ取り出してそれを僕に振り掛けた。


「緊急時だから特別だよ。回復したらこの場から離れな」


 わかった、とまばたきを一回すると、リーゼさんはどこかへ行ってしまった。


 回復薬は基本飲むものだが、被ることでも効果を発揮する。

 飲んだ場合に比べ効果が出るまでに時間が掛かるが、今の僕のように飲むこともできない状態でも効くのはありがたい。


 再びドォンと激しい音がした。

 なにが起こったのか気になるが、まだ動ける状態ではない。


「ペニー、このまま自力で対処する意思はあるかい?」


 遠くから声が聞こえる。


 ——ああ、そうか。もう僕たちでは無理だと判断されたんだ。


 そう理解した途端、目が熱くなり、なにかが頬を伝った。


 ——情けない。まだ冒険者になって間もない新人だけど、期待されてこうやって訓練してもらえているのに、魔物一匹を倒すこともできないなんて。やっぱり、向いていないのかな——。


「もちろんです! まだやれます!」


 遠くから聞こえるペニーの言葉にはっとした。リーゼさんに施されたから諦めてしまっていたが、本来は回復薬を取り出せれば自力でなんとかできていたのだ。

 別に持ち合わせがなくて詰んでいたわけではない。

 だからあの時、回復薬を持っているか確認したのか。


 徐々に体の感覚が戻って来ている。手足を動かせる程度までは回復できたようだ。

 後は立ち上がれるようになるまで待つだけだ。

 その間にもできることはまだある。




 体の回復を確認して戦線に戻った。

 それまで一人で戦っていたペニーは驚き、様子をうかがっていたリーゼさんには下がれと怒られたが、まだ引き下がるには早い。

 言われた通りに動かない僕を下がらせようとリーゼさんが動いた気配がした。

 だが僕は構わずに声を上げた。


「ペニー、カルラの気を引いて!」

「え? でも……」

「大丈夫! 次はちゃんと決めるよ」


 心配そうにこちらを見ていたペニーもなにかを感じ取ったのかそれ以上訊ねずに、カルラに向かって挑発を始めた。


 挑発に乗ってカルラがペニーに狙いを定めた。

 僕はカルラの視界から外れているはずだ。

 僕は近くの大木に登って、ペニーに釘付けになっているカルラに向かって大きく跳躍し、その首めがけて落下した。


 回復するまでの間、先程の失敗の原因について考えた。

 その原因は(ひとえ)に僕のパワー不足だ。


 どんなに優れたスキルを持っていても、基礎能力が低ければあまり意味をなさない。

 なぜならスキルは掛け算だからだ。

 スキルがどんなに大きな数字であっても、基礎能力が一であればスキルの数字以上の値になることはありえない。

 ましてや基礎能力が〇であれば、せっかくのスキルも無意味だ。

 だから皆、己の肉体を鍛える。


 先程は確かに身体強化をして、更に斬撃強化も使った。

 だが、片手剣を両手で使っているような僕の基礎能力が低いのは明白だ。

 つまり、基礎能力を補う何かがあれば解決する。

 そして考えた結果導き出されたのは、自由落下の運動エネルギーと重力をその一撃に乗せること。

 しかし小柄な僕では重力を大して乗せることはできない。


 ——だから、僕はカルラの真上で剣を投げた。


 貫通系のスキルを持っていないので刺さるかは分からないが、落下のエネルギーが乗っている分、先程よりはマシな結果になるはずだ。


 そして、投げた剣は幸いカルラの首に突き刺さった。

 僕はそれに向かってまっすぐ落ち、全ての力が一点に集中するように、足でそれをしっかりと踏みしめるように押し込んだ。


 足からメリメリと生々しい感触が伝わってくる。

 差し込んだそこからは血飛沫が吹き上がり僕の足元を汚す。

 近くからはカルラの悲鳴じみた叫びが響くが、先程までの威圧感はない。——終わりだ。


 柄の部分まで刺さってしまっている剣を引き抜き、その一点を起点に首を断ち切る。


「やああぁぁぁああ‼」


 裂帛の気合とはこういうことだろうか。

 無心で首を切り落とすために剣を振り下ろす。

 重たいなんてものではない。まるで押し返そうとしているかのように先に進まない。

 気を緩めれば剣を持っていかれそうだ。それでもめげずに全力で剣先に力を込める。


 そしてついに、首の半分を断った。

 カルラの身体が力なく地に倒れる。


 立ち込めていた暗雲は消え去り、来たときと同じ雲ひとつない青空が広がっていた。


「全く、下がれと言ったのに……」


 様子を見ていたリーゼさんがやって来てそんなお小言を言いつつ、何故か僕の頭を撫でた。

 その手はとても優しい。


「わ……」

「アル! やったね!」


 ペニーもやって来て、全身で喜びを表すように僕に飛びついた。

 たった二人のパーティなのにもみくちゃだ。


「さて、喜ぶのはその辺にして、討伐証明のためのパーツを取ったらどうだい?」


 柏手一つとともにリーゼさんに言われてハッとした僕たちは慌てて倒したカルラを見た。

 この巨体をギルドまで運ぶのは不可能だ。

 言われた通り体の一部を持ち帰ることにした。


 採取を終えたところで、リーゼさんは僕たちにその場に座るように指示した。


「さあ、この後はギルドに戻るだけだから、ここで総括を伝えるよ」


 僕たちは思わずゴクリとつばを飲んだ。

 穏やかな微笑みを浮かべてはいるが、これは絶対怒られるやつだ……。


「まずは、アルノルト。私は回復したら離れろと言ったはずだよ。何で戻ってきた」


 叫んだわけではないのにかなり怒っていることが伝わってきた。


「それは……諦めたくなかったから。ううん、本当はあの時諦めたんだ。でもペニーの言葉を聞いてまだ諦めちゃいけないって思って」

「無謀だとは思わなかったのかい?」


 その問いに僕は首を横に振った。

 まだ諦めるには早いと思ってからはそんな思いはなかったのだから。


「はぁ……。わかった。倒すための工夫は評価するが、勝負に命を賭けるんじゃない。——それから、ペニー。仲間がやられたからって、敵から目を逸らすんじゃないよ。その一瞬が命取りになる。あとは引き時の見極めは重要だね。最初は良かったが、その後からが良くない。明らかにこいつは異常じゃないか」


 言われて思った。確かに魔物にしては妙に賢い、というか知能があるようだった。

 首を振って吹き飛ばされたときだけではない。

 最初の寝たふりだってそうだ。通常の魔物ならそんなことはしない。


「異常……ですか?」

「そうだよ。カルラは知っての通りCランクの魔物だけど、Dランク寄りのそれほど強い魔物ではないんだ。そんなやつが頭を使って戦うなんて聞いたことがない。それに威力や頑丈さも異常と言ってもいい。通常種なら君たちの腕でも翼を斬り落とすぐらいできたはずだよ」


 知らなかった。だから依頼を選ぶ時点で止めなかったんだ、と腑に落ちもした。


「だいたいね、君たちは受付での説明をちゃんと聞いていなかっただろう?」


 ん? と僕たちは首を傾げた。

 ギルドで依頼受注の手続きは通常通り済ませた。そして通常通り説明を受けたがこれといって変なことは——


「——あ、そういえば妙に説明が長いなって思った気がする」


 リーゼさんがペニーの頭上に拳骨を落とした。

 ゴンッと音がした。すごく痛そうだ。


「いったぁ……」

「そうだよ。この案件は補足付きの依頼なんだよ。アルノルトも経験があるだろう?」


 そう言われて思い当たる節はある。

 あのワイルドボア討伐だ。

 確か、討伐後にギルドに戻ったときに謝罪とともに説明を受けたはずだ。


「ワイルドボアの件ですか?」

「そう。知っていると思うけど、ギルドの依頼書は形式が決まっている。だけど、今回みたいに特殊な事があっても、依頼書の形式に載せられないんだよ。そういったものは別紙で追加説明があるんだ。それらにも合わせて同意の署名をしているはずなんだけどね」


 呆れたようにリーゼさんはため息をついた。

 確かに署名までしているのに忘れているのは呆れられて当然だ。

 そこは僕も同罪だ。


「まあ、何はともあれこうやって討伐できたんだ。ご苦労だったね」

「「はい!」」


 ねぎらいの言葉をもらえたことが嬉しくてついつい表情が緩んでしまった。

 そして、調子に乗って疑問に思っていたことを訊ねたのだが、それを酷く後悔することになる。


「あの、僕が動けなくなったときに回復薬の確認がありましたけど、あの時持っていないって答えたらどうなっていたんですか?」

「ん? 近くの神殿まで強制送還してたよ?」


 ——…………。

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