再戦
街道脇まで戻ってきた僕たちを待ち構えるようにカルラはじっとこちらを見ていた。
既に臨戦態勢と言わんばかりに大きな翼を広げ、僕たちを威嚇している。空も暗雲が立ち込めたままだ。
そんな巨鳥に向かって僕たちは剣を構えた。
力の差を誇示するかのように巨鳥も甲高い鳴き声を上げる。
そしてそれを合図に、僕は全力で隠密スキルを使って気配を消した。
鳴き声を上げ終えた巨鳥は目の前にいるペニーに釘付けだった。
お互い間合いを測るようににらみ合っているのみで動きがない。
このまま斬りかかることも可能だが、万が一にも気づかれれば先程の二の舞いだ。
今は待つしかない。
動けばすぐに落雷が来る。そう予感させるには十分な空模様のままだ。
ペニーが一歩踏み込んで斬り込もうとした。
瞬間またあの乾いた音が鳴り響く。落雷だ。
しかも今回は間髪空けずに二回だ。まるで最終警告のように感じる。
そして再び甲高い鳴き声を上げたカルラは宙へと舞い上がった。
そのさまを見ながら僕は耐える。
今はまだ羽ばたきによる突風が僕たちの動きを制限しているからだ。
地面に足をつけていてもその圧力に吹き飛ばされそうになる。
そちらに意識しすぎるとせっかくの隠密が解けてしまいそうだ。
そういう意味でもここは耐え処だ。
僕もペニーも地面に剣を突き立ててそれにしがみつく形で耐えた。
吹き飛ばされそうになりながらも耐えることしばらく、風が収まり動けるようになると、空中ではカルラがペニーに向かって突進する動きを見せていた。
カルラの空中からの突進速度はワイルドボアのそれに劣る。
しかし、その代わりに重力が乗った一撃は人を文字通り潰すには十分な威力がある。
カルラにとって最大威力の物理攻撃と言っていいだろう。
故に今のカルラは隙だらけだ。意識はペニーに向いている。
——僕は隠密を解き、カルラに飛び乗るつもりで大きく跳躍した。
失敗すればカルラの攻撃の前に飛び出ることになる。身体強化をしたところで命懸けに変わりはないだろう。
しかし、そこは究極の保険がある。だから——恐れは、ない。
「届けえええぇぇぇええ!」
初めてのスキル複数使用で、想像以上に高く跳んだ僕の体はカルラのすぐ近くまで迫っていた。
だが勢いの落ち方からわずかに届かなさそうだ。
なんとか飛び付けないかと剣を振り、その体に突き立てようとした。
しかしその努力も虚しく、剣先がカルラの体にかすることすらなく僕の体は落下運動を始めた。
隠密を解き、叫んだことでカルラは僕の存在に気づいているはずだ。
あとは僕を捕まえようとしてくれることを祈るばかり。
カルラの突進の動きは止まる気配がない。
だが、頭の動きで僕に気付いたことだけは分かった。
そしてブワリと風が吹き、カルラの巨体が少し浮き上がった。動きも僅かに遅くなった。
そんな観察をぼんやりとしている間に、僕はカルラの足に捕らえられていた。
予定通りだ。
嘴で捕まえられなかったことに安堵しながら、次の行動に出る。
捕まった後の最大の問題は、どう抜け出すかだ。
しかしその問題は意外にも簡単に解決できるのだ。
なにせ、相手は巨体。掴んでいるその足も当然大きい。
そして捕らえられている僕の体はそれよりも圧倒的に小さい。
構造上小柄な人間をしっかり拘束することはできないのだ。
流石にギルマスほどの巨体では無理だが、平均よりも小さめな僕なら抜け出すことは容易だった。
足から抜け出し、それを伝って登る。
幸いゴツゴツとした表面のおかげで登るのも簡単だった。
そして、羽毛があるところまで来れば剣で一刺しだ。
途端に上がる悲鳴のような絶叫とともに、急降下するカルラ。
そのまま地面に激突する既のところでカルラから飛び降りる。
「大丈夫だった⁉」
慌てて駆け寄ってきたペニーに大丈夫と返せば、彼は胸をなでおろしていた。
カルラは足の痛みに驚いて落下し、その衝撃で想定以上のダメージを受けたようだ。
翼を広げ飛び立とうとしているが、その動きは先程までの余裕はなく、ジタバタともがいているように見えた。
「畳み掛けよう!」
「うん!」
飛び上がれない今なら僕たちの攻撃を当てることは可能だ。
それぞれに動き出し、カルラに打って出る。
ペニーは左翼を、僕は首を狙って攻撃する。
ペニーの剣が左翼の付け根に刺さる。
が、それは貫くも切り落とすもなく、浅く斬りつけただけだ。
舌打ちしている辺り、もっと深く入る予定だったのだろう。
そして僕も同様だ。
先程の跳躍同様、身体強化スキルの上に斬撃強化も使って斬り込んだにも関わらず、剣は表皮に傷をつけただけに留まっている。
うっすら血が滲んでいるのが見えるが致命傷になり得ない。
けたたましい悲鳴が木霊した。
カルラの叫び声だ。
その音量に思わず僕は耳をふさいでしまった。
その隙にカルラは首を大きく振って僕を吹き飛ばした。
ものすごい勢いで後ろに吹っ飛ばされて、一本木をへし折り、二本目の木でようやく止まった。
衝撃で肺から空気が全て出て呼吸がままならない。
そして痛みは背中だけでなく全身が痺れているようにじわじわと痛む。
手足の感覚も鈍く、このままでは剣を握ることはおろか立ち上がることも難しい。
「アル!」
その瞬間を見ていたのだろう。
ペニーの慌てたような声が聞こえてきた。
しかし今の僕にはそれに応えるだけの動作もできない。
だが、僕に気を取られたままではペニーも危ない。
なんとかカルラに集中するよう伝えなくては。
どこからともなくゴロゴロと音が響く。
暗雲がより一層濃くなり、所々で光っているのが見えた。
落雷が来る。
そして一拍、目の前が真っ白になるほどの光に包まれた——。




