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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
1章 冒険者
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冒険者登録

 あの日から数年。

 十五歳の成人を迎えるとともに僕は村を出た。理由は、あの日の真実を確かめるためと、村の人達を信用できなくなってしまったからだ。


 村の人達全員がそうだというわけではない。

 言ってしまえば村の重鎮である長老と顔役、それから数名の村の方針を決めている人たちがそれに当てはまる。

 基本、村人たちは彼らの決定に逆らうことはできない。

 信用できない人たちの言うことを聞いて生きていくことなんて僕にはできなかった。


 僕が村を出ると話したとき、両親は反対しなかった。

 それどころか黙ってぎっしりと詰まった小袋を手渡してきた。中身は言わずもがなである。


「お前は、ご先祖様の血が色濃く出てしまったのかもしれんなあ……」


 そう言ったのは父だ。


 曰く、ずっと昔、まだ帝国ができる前にこの村を出て旧王国の騎士になった人がいたらしい。

 なんでも王都の近衛にまでなったらしく、その後帝国ができるなりすぐに皇帝直属に召し抱えられたとかなんとか。

 旧王国騎士の制服が今でも家に飾られているのはそのせいらしい。


 僕の家系はその人の直系ではないが、もしかしたら僕がこんな決断をしたのもその人の血を少なからず引いているからかもしれない、ということらしい。

 村の外に興味を示さない人が多い中で、村の外に出ていくという選択はそうそう選ばれることはないだろうから、そう思うのも仕方ないのかもしれない。


 村を離れ、まずは冒険者になることにした。

 なぜ冒険者なのかというと、真実を確かめるという目的を達成するためにある程度自由が効く職業であること、なおかつその職につく条件が少ないからだ。

 最初に向かった先は山の麓にある小さな冒険者の訓練所だった。


 冒険者になるための条件は冒険者ギルドに登録する以外特にない。

 ギルドへの登録も氏名等の個人情報を書き込んだ申請書を提出するだけなので、特に難しいことはない。

 訓練所に行くことも必須ではない。


 だが、訓練所を出たか出ていないかで、その後に大きな違いがある。


 一つは、冒険者登録後一年以内の生存率。

 訓練所を出ずに冒険者になった者のおよそ半分が一年以内に仕事中に死亡している。

 対して訓練所を出ている者なら一割にも届かない。つまり九割以上が最初の一年を乗り切っているのだ。

 そしてもう一つが――




「あ、訓練所を卒業されているんですね。書類を確認しますので少々お待ちください」


 ギルドの受付で、対応してくれたお姉さんが手渡した書類を確認し始めた。


 僕は今、帝都にあるギルドに来ている。

 わざわざ村からも、卒業した訓練所からも遠く離れた帝都でギルドに登録しようとしているのには理由がある。


 受付嬢の確認が終わるのを待ちつつ、ギルド内をぐるりと見回した。

 冒険者たちが放つ酒の臭いと喧騒。

 大きな施設なのだが、それに比例して登録している冒険者の数も多いらしい。

 ある程度スペースは分けられているものの、仕事前と後の境界が曖昧になりそうなほど人の動きは激しい。


 一通り見える範囲で確認したが、お目当てのものは今は見つけられなかった。


「お待たせしました。成績優秀者の証明書を確認しましたので、えっと……、アルノルトさんはDランクでの登録になります」


 これが訓練所を出たか出ていないかのもう一つの違いだ。

 成績優秀者に限られるものの、最初の冒険者ランクの優遇は実利がかなり大きい。


 冒険者のランクはSからEの六段階で構成されており、通常は一番下のEランクスタートとなる。

 冒険者としての実績をあげ、試験に合格することでより上位のランクに昇格することができるシステムだ。


 EランクスタートとDランクスタート。たった一段階の違いだが、その差は大きい。


 最もわかりやすいのは受けられる依頼だ。


「DランクはCランクまでの依頼を受けることが可能です」


 依頼は、受理したギルドがその内容からランクを決めている。

 そのランクもSからEの六段階。

 冒険者は自身のランクの一つ上のランクの依頼までを受けることができる。

 つまりEランクの冒険者ならEランクとDランクの依頼を受けることができ、Dランクの冒険者ならEランク、Dランク、更にCランクの依頼を受けることができるのだ。


 依頼はランクが上がるごとに報酬が一桁以上違うと言われている。

 Eランクの依頼は雑用のようなものが多く、報酬もいくつかこなしてギリギリその日暮らしが精一杯な程度。

 Dランクでなんとか魔物の討伐が混ざり始めるが、街の警護程度のもので、報酬も安宿暮らしができる程度だ。

 Cランクになってようやく本格的な魔物討伐が主体となり、報酬はまともな生活が送れる程度にまで上がる。

 Bランク以上になれば、生活にゆとりが出始めるとか。Sランクなど、一件達成するだけで一年は遊んで暮らせるとまで噂されている。


 しかし、それに比例するように募集される数は減るし、難易度は急上昇する。それだけは確かだ。


「はい。これがアルノルトさんの身分証になります」


 受付嬢に渡されたのは、こぶりなストラップだ。

 紐の先端には緑色のDの文字が彫られた木板がついている。裏面には丁寧に僕の名前が刻まれていた。


「依頼受注・報告時や重要施設に入る際に必要になりますので、無くさないように気をつけてくださいね。あと、万が一のときの身元判別にも使用しますので、常に携行することをおすすめします」


 つまり、認識票のようなものらしい。

 身分証という耳触りの良い言葉の裏には、その人が死ぬことも想定されているのだろう。


「わかりました」


 とりあえず常に持ち歩くものにつけておくことにしよう。


「依頼の掲示板はあちらで、受注したいものがあれば依頼書を掲示板から取って、身分証と一緒にこちらの受付へお持ちください」


 受付嬢は右側を手で示した。

 その先には人混みで見辛いが大きな掲示板が複数設置されている。


「依頼の期限は依頼書に記載されています。その期限を過ぎての達成報告は無効となりますので、期限にはくれぐれも気をつけてくださいね。Dランクまでの依頼であれば、移動時間はそれほどかからないので大丈夫だと思いますが、アルノルトさんはCランクまで受けられますので、目的地までの移動時間も計算に含めて受けるか受けないかを決めることをおすすめします」


 それから、と受付嬢の説明は続く。要点をまとめるとこうだ。


 一、依頼の受注・達成時には必ず身分証を提示すること

 二、依頼遂行中の事故等にギルドは一切責任を負わない

 三、遂行中に何かしら異変があれば必ずギルドに報告すること

 四、目的地が遠方の場合、最寄りのギルド支部に達成報告をしても良いが報酬は減額される

 五、冒険者同士の衝突にはギルドは一切関与しないが、状況によっては懲罰の対象となる


 こんなところだろうか。ほぼ免責である。


「あの、懲罰って具体的にどんなことなんですか?」

「そうですね……。今までそんなことはなかったのですが、重たい場合は登録取消とか禁錮とかでしょうか」


 冒険者の登録取消は、その瞬間に身元保証を失うことと同義だ。

 一度登録取消を受けてしまえば、再度登録することはできず、身元保証がないために何処かに再就職することも難しい。なかなかに重い処分だ。


「なるほど……。気をつけます」

「はい。冒険者は血の気が多い方が多いので気をつけてくださいね。その他、何か聞きたいことはありますか?」


 僕は逡巡した。

 聞きたいことがないわけではない。

 むしろところ構わず訊ねたいぐらいだ。

 だが、果たして目の前の女性は答えてくれるだろうか……。


「えっと……、あるにはあるんですが……」


 言い淀む僕に受付嬢は目を輝かせていた。

 どんな問いでも答えてみせると意気込んでいるようにも見える。


「はい! 何でも聞いて下さい!」


 その勢いに負けてついに訊いてみることにした。


「えっと……、その……、人を探していまして――。リーゼさん、ってどちらにいるかご存知ですか? 帝都のギルドに属しているとは聞いていたのですが、見当たらなくて……」


 その名前を出した瞬間に受付嬢は「あー……」とかなり残念そうに肩を落とした。

 更には聞き耳を立てるかのように、今まで騒がしかったギルド内が静まり返っている。


「えっと……リーゼさんは……、最後に依頼の報告に来たのが二ヶ月前なので――、多分あと半年、少なくても四ヶ月後まで来ないと、思い、ます……」


 どんどん歯切れが悪くなっていく受付嬢。

 今まで完璧を自負しているように自信に溢れた立ち居振る舞いが、一瞬にして頼りないものに変わってしまった。


 そして周りに――いや、ギルド内にいる冒険者たちの殆どが鼻で笑うか、ヒソヒソと何かを言い始めていた。

 その内容を聞く限り、この受付嬢に対してのものではなさそうだ。


「ごめんなさい。こればかりは正確な回答ができないです。何分神出鬼没な方なので……」

「はっ! 良いよなSランク様はよぉ。一件依頼を達成するだけで半年も遊んでられるんだからよぉ!」

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