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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
3章 〝料理〟なるものを所望する!
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できること

 森の中に入ると、カルラの羽ばたく音は聞こえなくなった。

 後を追われずに済んだようだ。


 しばらくして少し離れた場所で様子を見ていたリーゼさんも合流した。


「僕たちが事前に考えていた作戦では、カルラが飛び上がるまでが勝負だったけど、落雷に怯んだ隙に飛び上がられて失敗に終わった。多分、しばらくは警戒されると思う。それでどうするかだけど、選択肢は二つだと思う。一つ目はこのまま村まで撤退して時間を置く。もう一つは他の手段を考えて再挑戦だけど……」


 ペニーの提案に僕は頷いた。

 現状取れる手段はそれぐらいしか思いつかない。


「うん、僕も同じことを考えてた。飛ばれちゃうと僕たちの剣じゃ届かないし、飛び道具か魔法が使えれば良いんだけど……。ペニーは何かある?」

「……手持ちのアイテムでは……良いものはないかな。魔法についてはからっきし」

「僕も似たようなもの——かな。一応煙幕ならあるけど、効くかどうかは多分運だね……。僕も魔法は全然」


 どうしたものか、と二人揃って唸り声を上げる。

 煙幕を使った場合の展開を想像してみるも、こちらも視界不良で状況が悪くなるだけだったのでやめた。

 他にできることといえば——。


「あの、魔法での補助だけでもお願いすることはできますか?」


 リーゼさんに振り返って聞いてみれば、肩をすくめられた。


「やってもいいけど、それじゃあ君たちのためにはならないと思うけど。それに今回は依頼を選ぶところから君たちに任せたんだ。できる見込みがあって選んだんじゃないのかい?」


 全く以って正論だ。

 確かに、選んだあの時はできると思っていた。

 今思えば、何故そう思ったのか謎だ。


「……そうだねえ、なら少しアドバイスをしようか。剣士はなにも地上で戦わなければならないわけじゃない、とでも言おうか。一度持っているスキルを見直してごらん」


 黙りこくる僕たちを見かねたのか、リーゼさんはそう付け加えた。


 言われた通り現在習得しているスキルを確認してみる。

 今使えるのは気配察知、危機察知、斬撃強化、身体強化、硬化、跳躍、隠密で全てだ。

 飛翔したカルラに対して跳躍では心許ない。

 跳躍はあくまでジャンプ力を底上げするもので、飛ぶ鳥を落とせるようなものではないのだ。


「せめて風刃が使えるようになっていればなあ……」


 風刃は斬撃系のスキルだ。剣を振ることで起こる風を刃にして飛ばすものだ。

 剣士の中でも数少ない遠距離の攻撃スキルとして知られている。

 しかし習得難度は高く、剣の技術も高くなければならないので、新人の内に覚えるのは無理だろう。


「確かに覚えていたら便利かもしれないけど……、あの羽ばたきでかき消されるかもしれないよ?」


 僕の言葉にペニーはそれもそうだね、と肩を落とした。

 風刃は魔力を乗せることで強化することができるが、飛距離を伸ばすほど威力が低下する欠点がある。

 おそらくカルラに届かせてダメージを与えるほどの威力を出すにはかなりの魔力を使う必要があると思われる。


「ねえ、ペニー。飛び上がったカルラに跳躍で飛びつけると思う?」

「ムリムリ、全然距離が足りないよ」


 即答だった。まあそうだよね、と僕も肩を落とした。


「うーん……。せめて跳躍で届く距離まで降りてきてくれれば……。……あっ」


 僕のこぼした声にペニーが顔を上げてこちらを見た。

 何事か、という顔をしている。


「ねえ、跳躍だと大して高く跳べないけど、身体強化したらどうかな?」


 跳躍スキルは使用者の身体能力に依存する。

 つまり、身体能力を底上げする身体強化スキルを使った上で跳んでみれば、それなりの高さになるのではないだろうか、というのが僕の考えだ。


「ギリギリ届くかもしれないけど……失敗したら格好の的だよ?」

「うん、そう。落下中の僕の動きは予測しやすいと思う。だから、きっとカルラは僕を捕まえに来ると思うんだ」


 ペニーの目がみるみる見開かれていく。

 そしてガバッと音がしそうなほどの勢いで立ち上がった。


「危険だ! もし嘴で捕らえられたらひとたまりもないよ!」

「たぶんそれはないと思うんだ。きっと、カルラは真下にある獲物は嘴ではなく足でつかもうとするはず。そのほうが動きが少ないからね」


 考えてみれば、あの巨体で飛び続けるにはかなりのエネルギーが必要なはずだ。

 飛ぶだけなら大したことはなくても、頭を動かすには姿勢の維持もあり、かなり労力がかかるだろう。

 ならば、少し高度を落として足を動かしたほうが楽なはずなのだ。


「そうかもしれないけど……」

「万が一、カルラが嘴で捕まえようとしたら……その時は助けてくれますよね?」


 未だ黙ったままのリーゼさんに訊ねれば、呆れた表情で「そうだね」と返してくれた。

 一応命の保障はしてくれることは確認できたので、方針はほぼ決まったようなものだ。


「……わかったよ。僕は、アルの準備が整うまでの囮ってことでいいかな?」


 半ば呆れているようなため息の後、ペニーはそう締めくくった。


 念のため装備の状態を確認して整えると、僕たちは再度カルラに挑むべく森を出た。

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