再訓練
招集日当日。
早朝、と言うには少し遅い時間に僕はギルドの食堂でメンバーが揃うのを待っていた。
程なくしてペニーがやって来て、更に待つことしばらく、指定の時間ぴったりにリーゼさんが現れた。
「さて、今回の訓練は依頼を選ぶところから君たちに任せるよ。こちらからの指定はCランクの依頼であることだけだよ。その他は君たちで決めて良い。何なら今日出発する必要もない」
先日よりはマシになったものの、冒険者登録した頃よりもまだ騒がしい状態の中告げられたのはそんなお題だった。
次はどんな依頼を言い渡されるのかと身構えていた僕とペニーは思わず顔を見合わせた。
顔を見合わせているだけでは話は進まないので、とりあえずどんな依頼があるのか見てみようと席を立ち、掲示板前に立った僕たちは依頼をひとつひとつ吟味した。
「うーん……、良いのがないね……」
ざっとひと通り見終えたところでペニーが呟いた。
この時間ではまだ新しい依頼は貼り出されていない。
言ってしまえば昨日の残りだ。
なので今ある依頼はゼインさんの言うところの〝きつい、安い、めんどくさい〟の三拍子が揃ったものばかりだ。
しかし今回に限っては〝安い〟については目を瞑るべきだろう。
今の僕たちは指導を受ける立場だ。
指導を受けるにふさわしければ、実入りは度外視してもそれ以上のものを得られるはずだ。
そんなこんなで唸ることしばらく。
受付嬢が大量の書類を持ってやってくると、一枚一枚掲示板に貼り出し始めた。
それに伴って周りもどんどんにぎやかになっていく。
「……これは早く決めないと丁度良いのを先に持っていかれるかも……」
僕とペニーは頷きあうと、直感のような速さでお互いに依頼書を選んだ。
それが同じものだったことに笑うことになったのはすぐのことだった。
そんなこんなで僕たちは今、帝都から程よく離れている村まで来ている。
徒歩で向かえば三日はかかる道のりも、馬車を使えば一日で来れてしまうのだから便利なものだ。
今回も前回と同じく、リーゼさんだけ別行動で村に集合ということになっていたのだが、やはりリーゼさんのほうが先に着いていた。
一体どんな手段で移動しているのだろうか。
ここから先は徒歩での移動になるのだが、もう日も暮れるので宿で一泊して明日の早朝に向かうことになっている。
今回受けた依頼は、雷鳥カルラの討伐だ。
カルラは普段山奥にいる魔物なのだが、街道に出没するようになったため討伐することになった。
カルラの強さはCランクと言ってもDランク寄りなので少し弱いと言える。
とはいえ二人で討伐するともなると油断ならない相手でもある。
僕とペニーは一晩中どう対処するか話し合った。
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翌朝。雲ひとつない青空の下、僕たちは街道を歩いた。
幸い目撃場所は村から離れているので突然村が襲われる心配はないのだが、本来山奥にいるはずの魔物がこんなところまで出てきているのは気になるところだ。
理由の如何次第では後々村にも被害が出るかもしれない。
道中何体かの魔物と遭遇したが、全て倒して先に進むこと数時間。
街道脇でうずくまるようにして眠っているカルラを発見した。
その体は見上げるほどに大きく、目玉一つだけでも人の頭ほどはありそうだ。
長い首の先には鋭利そうな嘴があり、先端部分は鋸のようにギザギザしているのが遠目にわかった。
「アル、今なら気づかれずに近づけるかもしれない」
声を潜めてペニーが言った。
お互いに武器に手をかけ、今すぐにでも仕掛けられる体勢だ。
僕たちは頷き合って、カルラの両脇にジリジリと回り込んだ。
魔物までの距離はおよそ五〇歩分ぐらい。
この距離まで近づいてもカルラは起きる気配がない。
ここまで詰められれば一撃を当てることは可能だろう。
反対側に回り込んだペニーとアイコンタクトする。
そして僕は一気に踏み込んだ。
ピシャリと乾いた鋭い音ともに地鳴りのような低い音が響いた。
それに驚いて僕は慌てて足を止めた。
気づけば先程までの晴天が嘘だったかのように暗雲が立ち込めていた。
辺りは日没直後のように薄暗い。
「くそっ! こいつ、僕たちが近づいていることに気づいてた! 魔物のくせに狸寝入りなんて卑怯だ!」
ペニーが叫んだ。
そちらを見ればペニーの足元が黒く焦げていた。——落雷の痕だ。
雷鳥カルラ。
雷鳥と呼ばれる所以に雷雲を操るというものがある。
巨体による膂力もさることながら、その雷攻撃も危険なものだ。
当たればひとたまりもない。一般人なら即死、冒険者でも身体強化をした上で防御もしなければ戦闘不能になるほどの威力がある。
対してこちらは剣士二人。しかも即席パーティのようなものだ。どう出るべきか。
「アル、一旦撤退しよう」
考えを整理しようとしたところでペニーから声がかかった。
幸いカルラは飛び上がってこちらを睥睨するのみで積極的に襲ってくる気配はない。
追跡される可能性はあるが、撤退は比較的しやすい状況だろう。
ペニーは僕が頷くのを確認して近くの森の中に逃げ込み、僕もその後を追った。




