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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
2章 強化計画
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密談

 夜更けも良いところの時間帯、ガリオンは執務室に置かれた少し大きめの魔導具に手を付けた。


 通常、さすがのギルマスでもこんな時間帯まで仕事をしていることは少ない。

 中には依頼を終えて戻ってくる冒険者もいるので夜勤の受付嬢が一人二人いるぐらいで、冒険者ギルドとしての機能はほとんど止まっていると言える。


 ではなぜ、そんな時間に魔導具を使おうとしているのか。

 単に仕事が残っていたから。そんな簡単な理由ではないことは、ガリオンの面持ちを見れば明白だった。


 ガリオンが使おうとしている魔導具は黒い金属の筐体に円筒状のパーツが繋がっている通信具だ。

 帝国建国時から行われていた念話スキルの研究から生まれた副産物的道具でもある。


 この通信具を使用すれば、任意の同じ通信具の使用者と会話することができる。

 無論、相手方が拒否することもできるので、ある程度使用者間でのルールもある。

 故にこんな夜更けなのだ。


 ガリオンは通信具に魔力を流し、つなげる先を指定した。

 それは程なくして繋がり、相手の応答が返ってきた。


『こんな夜更けに悪いね』


 その一言だけで、通信具の先で相手がいつものような爽やかな笑顔をしていることが窺われた。

 ガリオンはそれに背筋がすっと冷えた気がした。——が、そんなことは口が裂けても言えない。


「いえ、殿下もこんな時間までお忙しいようで……」

『念のため、だよ。万が一盗み聞きする輩がいても、こんな時間なら目立つからね』


 この通信具は念話スキルの基本構造が元となっており、仕組み上は秘匿性が非常に高い魔導具だ。


 しかし、そんな通信具にも欠点はある。

 第一に会話を成立させるために通信具から声が発せられるという点、第二に誰でも使えてしまうという点がある。

 後者は管理を厳重にすることで解決した上で、さらにこんな夜更けが選ばれたのだが——


「それで、ご用件は……」


 なぜこれほどまでに盗聴を警戒するのか。


 通信具を使用したのはガリオンだが、そのガリオンはその趣旨までは把握していなかった。

 なので飛び出た問いだった。


『ああ、その前に参加者を追加しなくてはね』


 しばらくして別の通信具とも繋がったことを確認したガリオンは、おおよその用件を理解した。


『そちらは揃っているかな?』

『はい。キーメル侯爵もご同席いただいています』


 追加されたのは冒険者ギルドのユレイア支部支部長とキーメル侯爵だった。

 支部長は緊張しているのか、慣れない敬語を使い続けることに苦戦しているのか、口調がどこかぎこちなかった。


『さて、時間も惜しいところだから、さっさと本題に入ろう。エラルド、件の村の状況はどうだった?』


 エラルドとはキーメル侯爵の名だ。

 基本的に皇弟は相手が誰であっても敬称ではなく名で呼ぶ。

 そこには姓を持たない者への配慮もあることを誰もが知っていた。


『はい。まだ調査は完了していませんが、瘴気の被害は凄まじく、逃げ延びた者はいないようです。残念ですが……』

『では、アクセオ、君はこの件をどう見る?』

『……人為的、と見る他ないかと。証拠はありませんが……』


 どこか言葉を選んだような支部長の答え方にガリオンは心の底で同情した。

 なにせ、支部長から見れば、ガリオンを含め全員が目上なのだ。

 下手な言い方をして不興を買うのは避けたかったのだろう。


『……やはり、か。——ガリオン、この件、同一犯だと思うかな?』


 同一犯。

 その言葉にガリオンはひやりとした。

 【不死鳥】の一件の詳細は未だ不明だが、皇弟は何者かによるものだと考えている。

 その者が何の罪もない村を滅ぼしたともなれば、それを事実上野放しにしているギルドの責任は重い。


「……そこはなんとも。ですが、瘴気について知っている者が少ない現状では、その線が濃厚であると考えます」


 ガリオンの答えに全員が沈黙した。

 通信具越しに気まずい空気が伝わってくる。

 誰かからため息のような長い吐息が聞こえた。


『……そういえば、件の村には容疑者が向かったはずだけど、様子はどうだった?』


 皇弟は誰とは言わずに問いかけた。

 それだけで他に伝わったようで、何人も誰の話なのか訊ねなかった。

 事前に伝えられていたようだ。


『特に変な動きはありませんでしたが……』


 答えたのは支部長だ。

 少し考えるような口調で、自信がなさそうだ。

 そしてわずかに間をおいて思い出したように呟いた。


『——そういえば、瘴気については何も知らない素振りでしたが……』

『つまり、彼は白だと?』

『そこまでは……! ですが、私が見た限りでは不審な点はありませんでした』


 咄嗟のことだったのだろう。声を張り上げてしまって、咳払いを挟んで私見を付け加えた。


「殿下、今はまだ結論付けるには早いでしょう。しばらく様子を見るしかないかと」

『…………。そうするしかないね。しばらく注視してくれ』


 皇弟の指示に全員が沈黙で回答した後、そのまま通信は終了した。


 ガリオンは椅子に深く座り直し、背もたれにその大きな体を預けて大きなため息をついた。


 【不死鳥】の一件は、皇弟の仮説が正しいとすれば、実のところ犯人におおよその目星はついている。

 しかし確固たる証拠がないのも事実で、そのまま捕らえることはできない。

 それにつながる何かがあれば、ということでの先程の通信なのだろう。

 ——結果は空振りだったのだが。


 【不死鳥】だけならまだしも、何の変哲もない村まで襲った目的がわからない。

 母数が少ないとはいえ、目的に一貫性のようなものも感じられない。

 そもそも別人なのでは、という考えも浮かび上がる。

 犯人は一体何をしたいのか。


 考えれば考えるほど疑問が浮かび上がる現状に、ガリオンはもう一度大きなため息をついて帰路についた。

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