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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
2章 強化計画
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仮説

「それはもちろん。でも、ちょっと厄介なことになっている可能性があってね」


 そう言いながらリーゼさんは読んでいた書類を振ってみせた。

 そういえば何の書類なのだろうか。


「あ? どういうことだ?」


 片眉を上げて訊ねる支部長にリーゼさんは本日何度目ともしれないため息をついた。


「まさか自分で用意した書類の中身を把握していないなんて思いもしなかったよ。……この書類は件の村の経済その他諸々の情報だよ。これでわかったことは、件の村は極端な食糧不足状態だった可能性があるということ。理由までは分からなかったけどさ。先に状況を確認した時の様子から普通の死に方はしていないんじゃないかと思う」

「おいおいおいおい。まさか——」


 動揺しうろたえる支部長にリーゼさんは頷いた。

 隣に座るペニーもつばを飲んだのがわかった。

 僕も全身から血の気が引いている。


「たぶん何らかの方法で竜を食べたんじゃないか、と考えている」


 瘴気の話以前に、竜を食べるなんて考えられない。

 どうやって、というのはこの際問題ではなく、食べたとなれば瘴気が発生する前、つまり生きたままで食べたということになる。

 そんなことあり得るのだろうか。


「もしも、この仮説があっているのなら、食べた村人たちにも聖水をかける必要があるかもしれない」


 発生源が竜の死体というのが真実であるのであれば、その一部である竜の肉もまた発生源となるかもしれない。

 完全に瘴気を払うならば、村中回って対象者全員を浄化する必要があるということか。


「住民全員が対象だったとしても、確か——五〇あれば足りる……か」


 何かを思案するような仕草で支部長が言った。彼の中でも算段がついたのかもしれない。


「しかし、聖水が足りたとして、こいつらはどうする。教えるにしても連れていくわけにはいかんだろう?」

「通信用のアーティファクト——は流石に無いか。そうだねえ……」


 リーゼさんはそんな呟きとともにポーチの中を探り始めた。

 そのポーチは以前ワイルドボアを討伐した際に見たマジックバッグだ。


 ごそごそとポーチを漁ることしばらく。その様子を僕も含めた三人が眺めている。


「ねえ、何やってるの? あんな小さなポーチの中身探すのにこんなに時間かかる?」

「あはは……マジックバッグだからね……」


 拳二つ分ほどしかない大きさのポーチに一体どれほどのアイテムが入っているのか。

 僕も流石にそれは気になる。もう笑ってごまかすしかないが、乾いた笑いしか出ない。


「おいおい、一体どれだけ持ち歩いてるんだよ」


 支部長の呟きにきっと全員が心のなかで頷いたと思う。


「あったあった。これならここでも見れると思うよ」


 小さなポーチから取り出したのは卓上スタンドミラーだ。

 このサイズでは中を見るのはせいぜい一人が限界だ。

 それをリーゼさんは慣れた手付きでそれを引き伸ばしていく。

 それはやがて大きめの窓程度の大きさにまで広がった。


「こんなものかな。一応つながるか試して——っと」


 ポーチから手鏡を取り出し何かしたと思った途端、引き伸ばされたスタンドミラーに部屋の一部が映し出された。


「問題ないね。じゃあ、目的のものを見つけたら映すようにするよ。とりあえず今夜はゆっくり休んで、明日の早朝開始にしよう」

「わかった。今夜はここの施設を使え。空き部屋が多いから一人一部屋でも問題ないだろう」


 支部長が扉を開け、部屋へと案内してくれた。


 帝都の施設とは異なり、小さな部屋が多く用意されていた。

 おそらく殆どが二人部屋ぐらいなのだろう。

 使用者がいない部屋はすべて扉が開け放たれているようで、そこから見える室内にはベッドが二つ置かれているパターンが圧倒的に多かった。

 あとは偶にベッドが一つのものがあるぐらいで、部屋の広さは統一されているようだ。

 ちなみに扉が閉まっている部屋は三部屋しか見つからなかった。


 適当に割り当てられた部屋は二人部屋だった。

 しかし、流石に一人で使うのも申し訳ないので、ペニーとの相部屋になった。


「なんというか大変な一日だったね……」

「何もやっていないのにね……」


 部屋に入るなり、二人揃ってベッドに倒れ込んだ。


 すごい疲労感だ。

 朝に街に着いて、リーゼさんと合流して、ユレイアのギルドの支部長に話を聞いて、村まで行く道中で待機して……。

 本当に大したことはしていない。ただ移動していただけだ。

 その割には、というのもおかしいぐらい疲れている。

 ペニーも笑おうとしてその気力もなくそのまま寝落ちしてしまった。

 僕のまぶたも重たい。もう抗う気力もない。

 せめて装備を外したいところだが、そんなことをする余裕もなく眠りに落ちたのだった。

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