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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
2章 強化計画
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できる見込みのない問題

 ユレイアに戻ってきた僕たちはすぐにギルドの応接室に通された。

 先にリーゼさんが手配してくれていたようだ。


 例に漏れずリーゼさんは先に着いていたようで、支部長とともに部屋にやってきた。


「ろくに説明もしなくて悪かったね。二人に説明する前に確認したいことがあってね」

「一体何があったんですか?」

「村の異変の原因は瘴気だよ。しかもかなり濃い……ね」

「瘴気——ですか?」


 その言葉だけは聞いたことがある。だが具体的にどういったものなのかまではわからない。

 知っているのはせいぜい人間にとっては毒なことぐらいだ。

 ちらりとペニーを見ると彼は首を横に振った。


「瘴気というのは、目に見えない有毒ガスみたいなものだ。吸い込めば内蔵がやられ、浴びれば皮膚がただれる。最終的には——死んで、何も残らない」


 僕たちの反応に何も知らないと判断したのであろう支部長が説明した。


「つまり、村の人達はもう……」

「ああ、おそらく調べに行った奴らもだろう」

「わからないことが多いから、変に不安を煽らないように存在を伏せていたのが仇になったね。あれは知らないと対処のしようもないよ」

「いや、知っていたってどうにもできないだろ。で、どうするつもりなんだ。そのまま放置していても大丈夫なものなのか?」


 支部長の問いにリーゼさんは肩をすくめた。

 わからないことが多いから答えようがないのだろう。


「アクセオ、今回の依頼、条件は調査だけということで間違いはないかい?」

「……ああ。もう達成という認識で問題ない」

「じゃあ、二人に訊ねようか。支部長はこう言っているから、今回の依頼はここまでということで問題ないが、折角の機会だ。まだ継続して、原因の排除までやることもできる。どうする?」

「おい、原因の排除って——。そこまでやるとAランク以上になるぞ」


 どうすると聞かれても、対処法もわからないものをどうやって排除するというのか。

 Aランク以上の依頼をこなせるはずもない。

 これはここで打ち切るべきではないだろうか。


「あの、訊ねるということは、なにか手立てがあるんですか?」


 ペニーが小さく手を上げて訊ねた。

 このあとどうするのか聞くまでもない内容だが、なにか手があるのなら理解できる問いだ。


「あるにはあるよ。まあ、まずは瘴気の中でも問題ない装備を用意する必要があるけどね」

「……そういえば、リーゼさんはそのまま村に行ったんですよね。どうやって瘴気の中で? 支部長が言ったような症状があるようにも見えないですが」


 冷静に考えれば、リーゼさんの身に異常はない。

 服から出ている肌には傷ひとつなく、体調不良を隠している様子もない。

 とても瘴気の中に入り込んだとは思えない。


「こいつはもはや人外だからな。瘴気にすら適応してるのさ」

「失礼だね! バカ言うんじゃないよ。私はれっきとした人間だ。まともに瘴気を吸えば私だって死ぬ」


 ゴンッと音がしそうな勢いで、リーゼさんの拳が支部長の頭に直撃した。

 いくらSランクとはいえ、支部長にこんなことをしても大丈夫なのだろうか……。


「はあ……。私が無事なのは装備品のおかげだよ。でもこれは一つしか持っていないから貸すわけにもいかない。今私が訊ねているのは、できるできないの問題じゃない。君たちの意思だよ」

「できるできないの問題じゃないって……」


 果たしてできる見込みのない問題に挑む人がいるのだろうか。


「あの、瘴気の対処法ってなんですか?」


 思い返してみれば、リーゼさんは始め、「知らないと対処のしようもない」と言っていた。

 知っていれば対処する方法があると取ることもできる。


「ん? 『吸わない、触れない、近づかない』だな」


 いや、それ対処法じゃない……。

 そんなツッコミをしそうになって慌てて飲み込んだ。


「それを知っていたところで、目に見えないんじゃ気づきようがないですよね? しかも臭いがあるわけでもなさそうだし」

「そうだね」

「あれ? でもさっき、リーゼさんは直前に気づいていましたよね? 僕たちのほうが先に歩いていたけど、なんともなかったのは瘴気の中に入り込む前に止められたからだろうし」

「となると、そこになにかある、ってことは事前に分かる方法があるのか……」

「そりゃ無理だろう。熟練冒険者でも蔓延した瘴気に気づくのは無理だ。現に様子を見に行った奴らは皆やられた」


 熟練者でもできないことを僕たちに求めているとは思えない。ならば何を考えての問いなのか。


「言っておくけど、冒険者を長年やっていても瘴気なんてそうそう出くわさないよ。これをチャンスと捉えるか、不運と捉えるか。君たちはどうだい?」


 滅多に見ることのないものの知識を得ることに意味はあまりないように思える。

 だが、今後何と遭遇するのかわからないのが冒険者という職業だ。

 可能性が低くても、可能性が〇でない限り全くの無駄にはならない——かもしれない。


 それに経験を積むにつれて他者と一緒に行動することはなくなっていく。

 誰かに教えてもらうことも減るだろう。

 ともなれば、今のこの状況は今後起こり得ないと見た方が良い。

 リーゼさんが考えていることは未だに皆目見当もつかないが、チャンスと捉えるべきかもしれない。


「——僕、排除までやるべきだと思います。でも、今の僕はそこまでやる手段を知りません。だから、やり方を教えてください」


 隣に座るペニーが頷いた気配があった。同意してもらえたことが心強い。


「自分でやらないとなると報酬はないけど良いのかい?」

「はい」


 力強く頷けば、それまで張り詰めていた空気が一気に緩んだ気がした。


「良いだろう。その心意気に免じて、ここまでの報酬を支払おう。リーゼ、あとの分は別依頼として処理する」

「えっ⁉ 良いんですか?」

「ああ。気概のあるやつは少ないからな。俺が現役だった頃は、みんなもっと色々なことに貪欲だった。それこそ命知らずって言われるぐらいにな。今じゃ現状維持の腑抜けばかりだ。成長が見込めん」


 支部長は膝を打つと立ち上がって部屋を出ていった。


「さて、じゃあ、大まかに瘴気について説明しようか。知っているのと知らないのとではいざという時に違うからね」

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