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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
2章 強化計画
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第三段階開始!

 訓練の第二段階から数週間。

 僕のもとに伝書鳩はまだ来ていない。

 どういう順番なのかは分からないが二〇名弱を一人が順に見ていくのだから仕方ないか、とは思うものの、せめて日程だけでも先に知りたいというのも本心だ。


 そんな思いを抱えたまま、今日も仕事を終えてギルド本部の宿泊施設に戻ってきた。

 ベッドに倒れ込んで目を閉じる。今日もすごく疲れた。


 訓練初日を終えて、冒険者ギルドは混乱状態にある。

 例えば、訓練中に連行された者たちの仲間や知り合いたちによるギルドへの非難。

 その声は日に日に大きくなっており、現場で働く人達に与える影響も比例して大きくなっている。

 お陰でただ依頼を受けるだけでも長時間待たなければならず、ただでさえ混雑している屋内は混沌を極めている。

 いつか暴動が起きるんじゃないか、そう思わせる様相だ。


 連行といえば、先日連れて行かれた人たちの罪状が国より発表されたのは、訓練の翌日のことだった。

 どうやら全員、権力や武力を盾に何かしらの犯罪を犯していたらしい。

 ある者は恐喝を、ある者は犯罪教唆を、ある者は人身売買を、といった形でなかなか発覚しづらい事件が今回まとめて摘発されたようだった。

 ギルドで騒いでいる人たちはそれを知っているのか、いないのか……。

 まあ、仲間の冤罪を訴えている人もいるのかもしれないが——訴える先が違うのではないだろうか……。


 兎にも角にも現在のギルドは機能不全に陥っていると言っても過言ではない。

 それでも通常通り働いている職員さんたちには脱帽だ。


「だめだ眠い……」


 うつらうつらと閉じそうになるまぶた。

 今日中にやらなければならないことを考える余裕もなく、僕は目を閉じた。


 ——のだが、コツンコツンという小さな音に、重たい体を無理やり起こした。

 窓の外に待ちわびたものが控えていたのだ。




 帝都入り口。

 門番の任務中である騎士に挨拶して、外側で待機だ。


「あ、アルノルト。久しぶり~」


 待つこと数分、僕に声をかけたのはペニーだった。

 彼に会ったのは訓練の日以来なので、本当に久しぶりだ。

 僕も久しぶりと返せば、お互いの近況を交えて軽い雑談が始まった。


 ペニーもどうやら僕と同じようで、依頼を受けて働こうにも時間がかかり、普段と異なる環境に妙に疲労するそうだ。

 そして、今この場にいるのは、彼も今日の訓練の参加者だからだという。

 依頼を熟しながらということを考えれば近しいランクの冒険者を組ませるのも当然か。


「あ、もしかして装備を新調した?」


 少し視線を下げたペニーが訊ねた。

 訓練開始の翌日から以前買った防具を使い始めたので、ペニーがこの格好を見るのは初めてなのだ。


「うん。ちょっと奮発しちゃったけどね」

「良いなあ……。僕も少しは貯めなきゃなあ」


 ペニーのほうが先輩とはいえ僕と同じDランク。

 装備のために貯蓄をするならかなり頑張らなければならない。

 それがわかっているからこその羨望の眼差しが僕に向けられる。


「もう揃っているようだね。感心感心」


 雑談を初めてそれほど経たずにリーゼさんがやって来た。


「こんなところに集合にして悪かったね。知っての通りギルドの中じゃまともに話せないからここにした訳だけど——準備は問題ないかい?」


 僕もペニーも先程までの雰囲気を消して、引き締めた表情で頷いた。


「よろしい。まずは依頼の内容から説明するよ。今回二人にやってもらうのは村の調査。少し前から連絡が途絶えた村があるらしいから、そこを調べる。依頼主はその村を管轄している冒険者ギルド支部——」


 一通り説明を終えたリーゼさんは、僕たちが理解できたかどうか確認をした後、その後の行動は僕たちに任せると言ってそれから黙ってしまった。


「えっと、どうしようか?」

「まずは依頼主のギルドまで行くのはどうかな? 村について何か知っておいたほうが良いかもしれないし」


 僕は大人しくペニーの提案に乗ることにした。


「わかった。それなら馬車、かな? 歩いていくには遠すぎるし。あ、でも馬場に行くなら中に戻ったほうが良いのかな」


 馬車は決まった場所にしか止まらない。乗るならそこまで行くのが常識だ。

 そしてその場所で一番近いのは冒険者ギルド前。

 帝都の外となると、かなりの距離を歩かなければいけない。戻ったほうが得策だろう。

 ペニーも同意見らしく頷いて返してくれた。


「決まったようだね。じゃあ、私はここで別行動するよ。明日、街の前に集合ということで良いかい?」


 リーゼさんの発言に僕は首を傾げた。ペニーも同じ反応だ。


「あ、いや、……だめなんだよ。動物が、私……」


 消え入りそうな声でつぶやくその姿は、普段の様子からは想像もできない。

 それにしても魔物相手では右に出る者がいない人が動物が苦手なんて……。


「え、じゃあどうするんですか? 徒歩ともなると五日はかかりますよ?」

「そこはどうとでもできるよ。それよりも道中に問題が起こったときの連絡手段が問題だね」


 なんということもない調子で話すリーゼさんは僕に小さな手鏡のようなものを渡した。

 持ち上げてみて見たら僕の顔が映った。ただの手鏡にしか見えない。


「一応これでもアーティファクトだよ。鏡に向かって私の名前を呼べば、どこにいても私と会話できる。この訓練中だけ貸すよ。言っておくけど、壊すんじゃないよ? 普通に買ったら金貨二〇〇〇枚はするから」


 その金額に思わず手鏡を落としそうになった。

 手からズルリと落ちそうになったそれを慌てて掴みなおす。

 危うく金貨二〇〇〇枚を請求されるところだった……。


「あれ、でもこれって姿だけじゃないんですか? どうやって声を伝えるんだろう?」

「だからアーティファクトなんだよ。どういう仕組なのかはわからない。けど声もちゃんと伝わるから心配する必要はないよ」


 ペニーも気になるようで、僕が持つそれを覗き込みながら訊ねていた。


「まあ、こういうものなんだと思えば良いよ。それよりもこんなところでのんびりしていて良いのかい? 馬車の時間があるだろう?」


 いつまでもまじまじとそれを眺めていた僕たちにリーゼさんは苦笑交じりに言った。

 僕たちはそれに顔を見合わせて、慌てて帝都の中に走って戻るのだった。

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