第二段階
案内された会場は小さな闘技場のような場所だった。
客席に当たる場所では第一段階の訓練を行った教官陣とギルド関係者が座っている。
そして僕の真正面には長い棒を持ったリーゼさんがいた。
「第二段階は模擬戦を行います。結果の判断ではこの試合の結果は考慮されません。持てる力を駆使して臨んでください」
相手はあのリーゼさん。
普通に勝てるわけがない。一体何なんだこの訓練は。
試合の結果は考慮しないとはいえ、そもそも試合にすらならないではないか。
——立ち回りを見るつもりなのだろうか……。
「それでは始めてください」
お互いに武器を構えたところで合図が出された。
真正面で構えているリーゼさんは流石というべきか、全く隙がない。
モリガン老にしごかれていたときは、あの人ほど完璧な構えはないだろうと思っていたが、それすら序の口だったと思えるほどだ。
頭の中でいくつかの行動パターンを試してみた。
まずは正面から切り込んでみる。
棒の間合いに入った瞬間に剣を払われて、棒を突きつけられてフィニッシュだ。
多分五秒もかからない。
棒を構えている方とは逆から切り込んでみる。
棒の後ろを突き出されて剣を振り下ろす前に腹に当てられて吹き飛ばされた。
これも五秒程度か。
二パターン目と思わせて背後まで回り込んで、振り向き際に胴打ちを狙ってみた。
振った剣は棒で防がれ、剣が吹き飛んだ。
長く保って一〇秒程度だろうか。
そもそも、打ち合いになった時点でパワーで僕が押し負ける。
ともなれば、こちらの攻撃を防がれた時点で僕の負けは確定だ。
立ち回りをみることが目的なら、できるだけ長くこの場にとどまれる手を考えるべきだ。
三パターン目をフェイント多めで引き伸ばしてみるか? なにか違う気がする。
そこまで考えて、真正面の相手に意識を戻す。
リーゼさんに動きは見られない。
こちらの出方を見るつもりなのだろうか。
僕はわずかに片足を一歩下げて力を込めた。
ザラリとした感覚が足先に伝わってくる。
うっすらとした砂地の下はかなり硬いようだ。
……僕の考えもようやく固まった。
足を踏み出し、一気に真正面に向かって突っ込む。
正面突破と見せかけて背後を取るつもりであることを悟らせないよう細心の注意を払い、背後から切り込める位置で反転できるよう勢いを調整する。
剣を構えて突っ込んできた僕を正面からの攻撃と取ったのか、リーゼさんの棒がわずかに動いたのが見えた。
その動きで生まれた空間を滑るようにくぐり抜けて、僕は背後に回り込むことに成功した。
あとは振り向かれる前に剣を振り抜けるかどうかだ。
僕は剣を袈裟懸けに振った。
距離は予定通り。剣を当てることが可能だ。
あとは力いっぱい振り抜くだけだ。
カンッ——と乾いた音が響いた。
——後ろに目でもついているの⁉
剣は振り返ることなく正確に突き出された棒で弾かれていた。
弾かれた衝撃で剣が手を離れそうになる。
そして僕の体までもが後ろに向かって浮いていく感覚があった。
どちらもそうはなるまいと、僕は全力でその場にとどまろうと踏ん張る。
かろうじて地面から足が離れるのは防げた。
剣もわずかに持つ場所がずれるだけで済んだ。
しかし、真正面にはこちらに体を向け攻撃する体勢に入っている姿があった。
このままではまともに攻撃を受けてしまう。武器を持ち直す猶予はない。
——一口に剣士と言っても、そのスタイルは一種類ではない。
片手剣だけで戦う者もいれば片手剣と盾を持つ者もいる。
はたまたは両手剣一本で突き進む者だっている。
僕の場合、両手剣は体格に合わず選択肢に上がらなかった。
片手剣と盾という選択肢もあったが、片手ではどうしてもパワーが足りず、モリガン老の勧めで片手剣を両手で持つスタイルに落ち着いたという経緯がある。
——つまり、僕は攻撃を受けるときは片手剣という細い得物で受けるしかないのだ。
カンッ——と再び乾いた音が響く。
ギリギリのところで、棒の直撃を剣で防ぐ事ができた。
そして運が良かったというべきか、タイミングが良かったため、リーゼさんが大きく後ろによろめいていた。
いわゆるパリィというものだ。どこからともなく「おぉ」という声が聞こえてきた。
パリィは本来防御と押し返す動き両方が合わさり、更に攻撃が当たる瞬間に実行することで初めて成立する。
熟練の戦士であれば狙ってすることができるが、僕のような未熟者では狙って成立させることはギャンブルより確率が低い。
かわりに、たとえ自分よりも遥かに強い存在でも大きな隙を作ることができるという恩恵の大きさは計り知れない。
故に使いこなそうと鍛錬する者もいるのだが、モリガン老はアテにしてはいけないと繰り返し言っていた。
戦闘経験が浅い者が扱うにはギャンブル性が高すぎるそうだ。
今の僕は本当に偶然できたに過ぎない。
もう一度やれと言われても、間違いなくできない。そんな確信があった。
今この状況は二度と来ることのない好機なのだ。
リーゼさんは既によろめきから立ち直ろうとしていた。
考えている時間はない。
僕は大きく踏み込んで剣を振りかぶった——。




