表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
2章 強化計画
13/36

残念なお前たちに朗報だ

 一夜明け、招集日当日。指定の時間にやって来たのは、ギルド本部の訓練場だ。


 訓練場はその名の通り、冒険者たちの訓練の場として開放されているが、その大きさから昇格試験や、今日のような大規模集会でも利用される。

 そんな施設の歴史は長く、なんでも旧王国時代から続くらしい。

 確かにところどころ傷んでいる場所はあるが、倒壊しそうな雰囲気はなく、むしろよく手入れされている方だと思う。


 会場に集った冒険者はざっと数える気にすらならないほど多い。

 おそらく帝都支部所属の者以外も集まっているのではないだろうか。

 見かけたことのない顔も多くある。

 その状況に新しい防具をつけてこなくてよかった、と心の底から思った。

 新品の装備に難癖つけられるのは御免被りたい。


 人の流れに従って進めば、入口近くで受付嬢たちが事細かに場所を案内していた。

 どうやら並ぶ位置まで決まっているようで、説明された方も困惑している雰囲気が伝わってきた。


「アルノルトさんは右から一二列目の前から五番目です」


 僕の身分証を回収し、応対した受付嬢は疲れた顔ひとつせず簡潔に伝えた。

 一二列目とはいえ、かなり縁の方だ。足元に書かれている数字を見ながら、教えられた場所を探す。


 指定の場所まで来た時点で、会場は殆ど埋まっていた。

 お陰で探すのもそれほど大変ではなかった。

 ぐるっと軽く周りを見れば、僕の二つ前に冒険者登録した日に絡んできた痩せぎすの男がいた。

 一体どういう順番になっているのだろうか。


 それから程なくして、会場のざわつきが最高潮に達したところで壇上にギルマスが現れた。

 初めて会った二週間前とは違って有無を言わさない威厳を纏っている。


「全員集まっているな? 今ここにいないやつは依頼を期日までにこなせなかった阿呆ということになるが、まあ、それはいい。そんな奴らがここにいたところで目的は果たせんからな」


 ギルマスの言い方にそれぞれが思うことがあるのか、野次のようなものが所々から聞こえたのだが、ギルマスは聞こえていないかのように話を続けた。


「さて、諸君らに集まってもらったのは、重大な連絡があるからだが……、まずは通達だ。既に知っている者もいると思うが、先日、【不死鳥の息吹】が正式に引退、解散した。つまり現在の冒険者でAランクが不在という由々しき事態が起きているということになる。そして、これが本日の本題だが」


 ギルマスは言葉を切り、全体を見渡すように視線を動かした。

 一人ひとりと目を合わせるようにじっくりと。


「現在の冒険者の質の低下が大きな問題となっている。ささやかなものであれば依頼の遅延、重大なものであれば、冒険者の死亡。こういった事案がここ数年で急増している。そしてここに来てのAランク不在だ。ギルドとしても手を打つほかないと判断した」


 何人か心当たりがあるのか、僕の周辺で数人が途中ビクリと肩を揺らした気配がした。


「まず手始めに、ランク認定の基準を見直すことにした。これは新たにランク認定をする段階だけではなく、現状のランクも含む。現状のランクについては既に見直しが終わっている。今の並びがその結果だ」


 その言葉とともに受付嬢が前から順に身分証を手渡しして回ってきた。僕はDランクのままだった。


「一応説明しておくと、お前たちから見て右から一一列目までがEランク、一二列目から三五列目がDランク、三六列目から五五列目がCランク、五六列目から左側がBランクだ。あとは言わんでもわかるだろう。それから列の並びにも意味があるぞ。前から順に査定が低いからな。つまり低いランクに近い列で前の方のやつは降格ギリギリで、高いランクに近い列で後ろの方のやつは昇格の見込みがあるということだ」


 当然会場は騒然となった。

 高ランクに近い方はともかく、低ランクに近い列からは絶望のような呻きや抗議の声が上がった。

 僕の周りも似たようなものだ。

 特に二つ前の男の抗議の声は激しい。


「お前らの反応は想定内だ。だがな、今文句を言っているやつは、自分の日頃の行いを思い返してみろ。ランクを上がるだけのことをしたか? 見直しでランクが変わったやつも同じだ」


 ギルマスの言葉など聞こえていないかのようにざわつきは収まらない。

 その様子にギルマスが密かに嘆息したように見えた。


「さて、まだ話は終わらんぞ。【不死鳥】の代わりも務められん残念なお前たちに朗報だ。本日よりギルド主催で技能強化訓練を行う」


 僕は思わずはっと顔を上げた。

 同じような動きをした人の気配がいくつかあったが、会場のざわつきは増す一方だ。


「よく聞け! この訓練は任意参加だが誰でも参加できる。パーティ単位での参加か個人での参加かは選択しなければならないし、途中での変更も不可だが、訓練の結果次第ではランク認定を変更する場合がある。つまりこれは臨時の認定試験だと思ってもらっても構わない。開始は本日の正午から。受付は開始一時間前からこの会場前入り口で始める。なにか質問は?」


 ギルマスが声を張ったことによって、先程とは打って変わって静まり返った会場で手が一つ上がった。


「つまり、訓練の結果が良ければ、Sランクも狙えると?」


 訊ねたのはあの痩せぎすの男だ。


「Sランクはギルドだけで認定できるランクではないから話は別だ。だが、Aランクまでなら可能性はあると考えて良い。ただし相当の成果が必要だぞ」


 ギルマスの回答に痩せぎすの男は鼻で笑った。

 Sランクを狙えないことに不満を示したかったようだ。


「ああ、そうだ。言い忘れていたが、Sランクは今まで通り国による査定がある。勘違いしている者も多いだろうからここで正しておくが、Sランク認定は一度受ければ継続するわけではなく定期的に査定が入って、成果が振るわなければすぐに降格するぞ。Sランクになれば遊んで暮らせるなんて思わないことだ」


 ランクの噂はどうやらギルマスの耳にも入っていたようだ。

 今の話から、Sランクを維持するのはランクを上げるよりも厳しいように思う。

 Aランクまでなら依頼を熟して、試験を受けるだけなのだから。

 それを理解しているのかしていないのか、「その程度なのか」「大したことないな」などと口にするものもいたが、それは低ランクエリアが顕著だ。

 高ランクになるほどその意味を理解したように見える。


「ギルマス、訓練の具体的な説明を頼む」


 そう訴えたのはドレークさんだった。

 彼らがBランクの半ばより左側にいるのが見えた。


「ああ、そうだったな。訓練の期間は状況次第だが、予定では三段階の構成になっている。一段階目では基礎訓練だ。武器の扱いもなっていないようじゃ話にならないからな。二段階目で実践を兼ねた試験を行う。ここでは勝敗は関係なく、基礎を正しく扱えているかを見る。そして三段階目は実際に依頼を熟してもらう。ちなみに不適格と判断された時点で訓練は終了だ。一段階目から二段階目の訓練で使用する装備品はギルドで用意した。三段階目は自前の装備で受けてもらって構わない。一段階目と二段階目は本日中に終了する見込みだ」

「途中で訓練を終了することになった場合の扱いはどうなる。継続中の訓練を見学か?」

「いや、通常の活動に戻ってもらって構わないが、そのあたりの判断は各々に任せる」

「わかった」


 それ以上の問答はないと判断したのか、ギルマスはざっと周りを見回した後に壇上から降りた。

 そして、受付嬢が「終了です」と伝えた瞬間に会場はざわめきに包まれ、人の流れが生まれた。

 僕はその流れに逆らうことなく、流されるまま会場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ