ノルベール
この店に来た経緯を説明すると、店員は少々お待ちを、と言って奥へと消えていった。
取り残された僕は、とりあえず目の前にある品の選定を進めた。
そしてある程度絞り込んだところで、店員がものすごい勢いで大きな陳列棚を運んでやってきた。
その勢いにうっかり一歩下がってしまったが、店員はお構いなしだ。
「お待たせいたしました。こちら、通常は武具屋で扱っている品でございます」
「えっ、そんなものまで扱っているんですか⁉」
まさかの展開に僕は思わず口走ってしまった。しかし店員はそんなことを気にもとめなかった。
「ああ、申し遅れました。ワタクシ、ノルベールと申します。クルタ商会の商会長を務めております。これでも商業ギルドでも名の通った商会ですので、武具屋にもある程度顔が利くんですよ」
まさか目の前の人物が店員でも店長でもなく、商会のトップだったとは。
予想だにしない事実に僕は目を白黒させた。
本人は顔が利くと言っているが、おそらく近くの武具屋まで無理を言って品を取ってきたに違いない。
陳列棚に並べられているのは、どれも頑丈そうな当て物がついている。
先程進められた品とは比べ物にならないほど性能が良さそうだ。
「何か気になるものはございますか?」
並べられているものを手に取ることなく眺めてみる。
ノルベールさんが仕入れてきてくれた品は、最初に見せてくれた品よりも明らかに高そうだ。
おそらく銅貨では買えない。
安くて銀貨数枚程度、飾るように置かれているものは金貨数枚はするのではないだろうか。
確認がてら平置きされている品の一つを手にとってみる。
金属が使われている割には見た目よりも軽い。
これなら動きを阻害しないかもしれない。
これでお値段は銀貨十二枚。
少々値が張るが、冒険者としてやっていくなら良い買い物になるかもしれない。
「こちらの商品は胸当てに玉鋼とミスリルを使用しています。この価格帯では最上級の耐久性があると言えるでしょう」
ミスリルは鉱石の中でも丈夫さと軽さを兼ね備えた有名で希少な素材だ。
ただその分高価になるのだが、その問題を玉鋼で解決させたのだろう。
匠の技がなせる代物というべきか。そもそも玉鋼自体が自然物ではない分、手間がかかる代物なのだ。
「こちらはどうですか?」
僕はもう一つ手にとって訊ねてみた。
肩も金属で覆われている物だ。値段は銀貨十五枚。
「こちらも、ミスリルと玉鋼を使用した商品でございます。ミスリルの含有率を下げて保護している範囲を広げていますので、先程の商品より耐久性は下がりますが、防御主体で戦われる方にはおすすめの品になります」
自身の店で扱う品ではないにも関わらずスラスラと答えるノルベールさんに、僕は思わず舌を巻いた。
その淀みのない話し方は付け焼き刃で覚えたものではないように思う。
僕は先程手に取った品と陳列棚を持ってこられる前に選んでいた品を見比べた。
値段を考えれば、店に元々あった品のほうが優位だが、性能を考えれば新しく用意された品のほうが圧倒的に優位だ。
本来新人冒険者が選ぶとすれば元々あった方なのだが、今の僕には分不相応な報酬がある。
少々値が張る買い物でも問題ない。
「……あの、どうして僕にこんな良い品を?」
ふと湧き上がった疑問を僕はノルベールさんに投げかけてみた。
答えてもらえないであろうことは織り込み済みだ。
「——商人の勘、と申し上げたいところですが、理由は簡単でございます。お客様の見た目と持ち物がヒントでございます。通常、新人冒険者であれば、お客様ほど装備品が傷むことはございません。それほど傷んでいるということは、それなりのランクであり、熱心に仕事を熟してていらっしゃる証拠。それなりに実入りはあるであろうということと、今後に期待してという算盤勘定から、といったところでございますね」
意外にもあっさりと本音を返されて面食らった。
聞いたのは僕だが、なにかまずいことを聞いてしまったような気がした。
しかし、それでも答えてくれたからには僕もそれには向き合わなくては。
「でも、最初に新人冒険者だと言い当ててましたよね?」
「ええ。それも見た目で判断が可能でございます。何分多くの都市に店舗を出していることもございまして、ある程度経験を積まれた冒険者は大抵当店で取り扱っている商品をお持ちでございます。高ランクの方ともなりますとまた違う見方となりますが、新人か中堅かは概ねそれで判断可能かと」
なるほど、と思わず感嘆してしまった。
商人とはこれほどまでに観察力に優れているとは驚きだ。
ここまでされてしまえば、流石に安い品で終わらせるのも気が引ける。
僕はミスリルと玉鋼でできた胸当てを買うことにした。
それを手にとってノルベールさんに渡せば、非常に上機嫌な様子で会計をしてくれた。
店の入口まで送ってくれた彼は、僕に向かって一礼した。
「今後とも当店をご贔屓に。フォーマルなものが必要となりましたらぜひご用命を」
最後はまるで耳打ちするかのように言った彼は、最後まで笑顔だった。
……それにしても、さっきの危機察知スキルの反応は一体何だったんだろう?




