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竜の眠る場所  作者: 知花 紗采
1章 冒険者
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謝罪と報酬

 なんとも締まらない雰囲気を纏ったまま、僕たちは帝都の冒険者ギルドに戻ってきた。


 受付で達成報告をするのが通常の流れなのだが、今回は達成の証拠はすべて回収されてしまっているので、どうすれば良いのかと訊ねる形で受付に向かった。

 その結果、応対した受付嬢がいつもの笑顔で応接室まで案内してくれて今に至る。


「本当にすまなかった!」


 冒険者ギルドとは思えないほど高級そうなソファに座らせられ、目の前の大柄の男が頭を下げている。

 ドレークさん曰く、この大男が冒険者ギルドのギルドマスターであるガリオンさんらしい。


「いや、いきなり謝られても何の話なのかわからんのだが」


 そう、開口一番にあれである。僕たち三人は理解が追いつかずただただ呆然とするのみだ。


 それもそうだよな、とギルマスは再び口を開いた。


「今回の依頼は補足付きの依頼であったことがわかった。再評価の結果、依頼ランクはA以上と認定した」

「はぁ⁉」


 Aランク以上ということは、かなりの高難度の依頼ということだ。

 なぜそんな依頼がCランクとして扱われていたのだろうか。


「補足の話は聞いてないぞ! それに何でランクを低く設定したんだよ!」

「俺だってさっき初めて知ったんだよ!」


 バンっとテーブルを叩きながらギルマスは立ち上がった。

 ギルマスとしても不本意だったようだ。しかしそれ以上怒らずにそのままストンとソファに座り直した。


「……はぁ、すまん熱くなった……。……本来補足付きの依頼は俺のところまで書類が回ってようやく依頼として受け付ける仕組みなんだが、手違いで通常処理で受け付けたらしい。さらに、受注処理のときにも見落として重要事項の説明をしなかった。つまりミスにミスが重なって今回の事案が発生したということになる。本当にすまん」


 ギルマスは話し終えると、目の前のテーブルに大きめの袋を置いた。

 袋ははち切れんばかりに膨らんでいる。

 その袋に僕はぎょっと目を見張った。


「これは今回の依頼の報酬だ。依頼書は銀貨五〇枚になっていたが、再評価で金貨一〇〇枚に変更になっている。さらにギルドの不手際による迷惑料として金貨二〇枚を追加した。確認してくれ」


 金貨一枚は銀貨一〇〇枚分に相当する。

 ランクが二つ上がって報酬は二〇〇倍。とてつもない上がり方だ。

 Aランクでこの報酬だ。

 Sランクなら一件達成で一年遊んで暮らせるなどという噂が立つのもうなずける。


「確認するまでもねえよ。ここでちょろまかすようなやつじゃねえってことはわかってるつもりだ」

「助かる」

「で、だ。その依頼受理でやらかしたのは誰だ?」


 ドレークさんがそう口にした途端、部屋の空気が変わった。

 しんと静まり返っているもののどこかひりついたものを感じる。今すぐ部屋を出たい……。


「……………………。……サリュだ……」


 部屋が完全に無音になった気がした。いや、時間が止まったというべきか。

 答えたギルマスと訊ねたドレークさんだけでなく、ゼインさんまでもが「え?」という表情で固まっている。


 その状態が暫く続き、そしてなにかブチッと切れるような音がした気がした。


「……あんのクソッタレが~っ‼ だからさっさとクビにしろって何度も言ったんだよ‼」


 ドレークさんがこめかみに青筋を立ててキレた。

 向かい合うギルマスはまるで聖者のような微笑を浮かべた後、降魔の相に変わった。


「それができたら俺だって苦労しねえわ! こっちが一体どれほどの苦情を聞く羽目になったのか知ってんのか⁉ ああ⁉」


 どうやらギルマスも相当溜まっているようだ。

 それも一人の職員によって。

 強面の男二人が顔を突きつけあって唸り声を上げている。


「まあまあ……。気持ちはわかるけどこの辺で……」


 ゼインさんがこの場をおさめようと間に入ったが逆効果だった。

 怒れる男二人はゼインさんをひと睨みして、再び顔を突きつけあった。

 そして取っ組み合いが始まってしまった。


「あはは……これはしばらく終わりそうにないねえ……」


 そう呟くゼインさんの表情はすべてを悟った者のそれだった。


 そんな混沌とした場を新人の僕がどうにかできるわけもなく、ただオロオロと見るしかなかった。




 強面二人による取っ組み合いは二人の体力切れで幕を引いた。二人とも肩で息をしながらソファに座った。


「金貨一二〇枚にあいつの分も含まれてんのか?」


 座って少し冷静さを取り戻したのか、ドレークさんは最初の口調に戻っていた。


「……いや、リーゼは俺からの特別依頼ってことで別枠だ。しかし、あの場にリーゼがいて運が良かったな。今じゃ【不死鳥】もいないからこの依頼を受けられるやつが他にはいない」


 【不死鳥】――正式名【不死鳥の息吹】というAランクパーティだ。

 主要なパーティメンバーの殆どがAランク冒険者という国内トップのパーティとして有名なのだが、先日の依頼中にメインメンバー全員が負傷して無期限で活動休止しているらしい。

 ちなみに、国内のAランク冒険者は全員【不死鳥】のメンバーだ。


 つまり、Aランク認定されたこの依頼を受けられるのは現状Bランク冒険者、Bランクパーティ、そして唯一のSランクであるリーゼさんのみとなる。

 しかし、SやAランクほどではないもののBランクもそれほど数は多くない。

 帝都に限定すればドレークさんたちを除くと候補に上がるのはあと二つか三つのパーティのみで、いずれも最近Bランクに上がったばかりのはずだ。

 他にいないというのは、Aランクの依頼を受けるには彼らにはまだ早いということなのかもしれない。


「そればかりはな……。あの場にBランクを送り込まれたところで焼け石に水だったろうよ」


 ドレークさんの見解には僕も同意だ。

 おそらくあのワイルドボア相手にドレークさんが複数人いたところで状況は変わらなかっただろう。

 たとえ武器を変えたとしても。

 たまたまリーゼさんが来てくれたから今僕たちはこうやって話ができているのだと思うと、本当に運が良かったのだと身に沁みてよく分かる。


「あの……、どうしてリーゼさんに依頼できたんですか? あと半年ぐらいはここには来ないと聞いていたんですが……」


 冒険者登録をした際に聞いた話ではそうだったはずだ。

 なので、話を聞くのは当面先になると思っていたのだが、実際にはすぐに会うことになった。

 何か特別なことでもあったのだろうか。


「お前が噂の新人だな? ――ちょいとばかしあいつに頼みたいことがあって呼び出していたんだ。そこで今回の話が出てきたってわけだ。本当に偶然なんだよ」


 噂、というのが少々気になるが、理由はわかった。

 というかギルマスって個人を呼び出せるんだ……。


 ギルマスは僕が納得したのを見て取ったのか、他になければ、と終わりを告げた。


 ドレークさんとゼインさんに続いて部屋を出るところで不意にギルマスが僕を呼び止めた。


「なあアルノルト。お前、Cランクになる気はあるか?」


 冒険者のランクアップにはそれなりの実績が必要なはずだ。

 僕はまだそれを訊ねられるほどの実績はあげられていないのは間違いない。

 それに今回はある意味事故であった上、僕自身が何かをしたり成したわけでもない。


 言われた意味が分からず首を傾げていると、ギルマスは「その気になったら言ってくれ」と言って扉を閉じたのだった。

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