表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い蝶  作者: フィオネ
3/3

第1章 日常~エピソード1~

「よっしゃー!!やっと部活の時間だ~!」元気よく言いながら急いで体操着に着替える。

そこへ、誰かが近づいてくる気配を感じた。

振り返ると、安藤美香が立っていた。

「ごめん、麗奈。今週掃除当番なの。先行ってて。」少しだけ申し訳なさそうに言う。

「あ、うん。わかった。終わったら早く来てね!」

「ありがとう!」そしてエプロンをそそくさと装着すると、急いで教室から出て行った。

安藤美香は、陸上部で初めて仲良くなった女の子だ。

彼女は極度の運動音痴なため、それを克服するために陸上部に入ったという。

しかし案の定一番足が遅かったので、中1の3学期あたりからマネージャーをつとめている。

彼女の笑顔には、どうやら癒しの効果があり、よく落ち込んだ時は何度もその笑顔に救われてきた。

今となっては一番仲が良い友達、すなわち親友と言ってもいいぐらいだ。

陸上部の活動場所―サブグラウンド(メイングラウンドとの2種類があり、メインの方は野球部が使っている。)に着いた時、いたのは時矢武人だけだった。

時矢は勇気とよくいるやつで、陸上部員だ。

「いつも早いわよね、あんた。」静けさをふっ切るように口を開いた。

「あぁ、走ってきてるんだ。…前にも言ったはずなんだがな。」

「えっ、あれっそうだっけ?」

「高橋って記憶力がないのか?」

「そっそんな事ない!ただあたしにとって印象がなかっただけよ!」

「…ふーん。」

時矢武人は同じく陸上部員だ。

本当にこの人はくそ真面目で、この人がふざけた所なんて見たことがない。

見た所勇気を今の目標にしているらしく、いずれ彼を抜いてやるというように、日々走れる所は走ったりする努力家でもある。

彼は学年トップに入る頭脳を持っているが、これも才能ではなく、努力してという感じなのである。

麗奈にとっては、ちょっと付き合いにくいタイプではあるが、勇気とは仲がいい。

(あーあ、会話が終わっちゃった。誰か来てくれないかなぁ。)と思いながら二人で、いろいろ部活の準備をしていると、4人の後輩、赤城さん、星野さん、川崎さん、宮坂さん、がバタバタ走ってやってきた。

「先輩、こんにちは!」4人がそろえて言った。

「こんにちは。じゃあ、早速ハードルの準備お願いね。」

「はい!」

次には、麗奈が尊敬している先輩の一人、瀬戸先輩がやってきた。

尊敬しているからか、麗奈にはとても優雅に見えた。

「こんにちは、瀬戸先輩。」麗奈が挨拶をした。その声で、他の部員も気づいて挨拶をした。

「こんにちは、今日もちゃんとやってるな。」瀬戸先輩が少し感心して言った。

瀬戸先輩はクールで穏やかな副部長だ。

「もうすぐ準備も整いそうだし、手が空いてる人は体操して練習を始めよう。」

「はい!!」今度はいっせいに皆返事をした。

そして、ついにあのお方がやってきた。

ゆっくり近づいてくる。

麗奈は軽く赤面した。

「こっこっこんにちは、夕凪先輩!」

「…あぁ。」

すーと通り過ぎてしまった。

夕凪先輩は挨拶してもいつも素っ気ない返事がくるだけとわかっているし、しなくても後で何も言ってこないことはわかっているのに、麗奈は挨拶しないと気が済まなかった。

彼は陸上部の部長をつとめていて、部内でも一番足が速い事で有名だ。

その上ザ・クールというような感じで、瀬戸先輩とは違い穏やかの「お」の字もない。

麗奈は、そんな彼のことも尊敬しており、また、密かに好きになっていた。

初めて会った時はそうでもなかったが、だんだん彼の走っている姿を見て、いいなぁ、素敵だなぁと思うようになったのだ。

また、足音が聞こえてきた。今度は2人だ。

掃除を終えてきた安藤美香と、青山勇気だった。

「先輩、こんにちは。」美香が丁寧に挨拶した。手にはマネージャーノートが握られていた。

「こんにちは!先輩!」一方の勇気は元気よく挨拶した。

青山勇気は麗奈の幼なじみだ。

幼稚園、小学校、そして中学校と、同じ所に通っている。

遭助おじさんによれば、生まれた病院も同じらしい。

それを初めて知った時、コイツとはどんだけ縁があるんだ!?と麗奈は思った。

ちなみに家もそう遠くない。

よく彼は麗奈をからかったりする事がある。

でも決して仲が悪い訳ではない。

また、同じクラスで美香と出席番号がすごく近いため、掃除当番の班が一緒である。

そのため、掃除がある週は一緒に来る。

美香は麗奈をみつけ、駆け寄ってきた。

「麗奈!やっと掃除終わったよ!今日も頑張ってね!応援してるから。」

「ありがと!美香。よぉ~し、今日も走りまくるぞぉ~!!」

「おいおい、お前も一応女なんだからさ、もうちょっとおしとやかにできないのかよ。」

勇気が少々あきれっぽく言う。

「ちょっと~!一応って何よ、一応って!失礼な!」

「まっ、安藤を見習えよな。」と言って、立ち去った。

「勇気のやつぅ~!よぉ~し、今日の部活でぶっ潰す!!」

「まっまぁ、頑張って、アハハ」と美香は苦笑いするしかなかった。

その後、ドタドタと誰かが走ってきた。

麗奈はそれを見るなりニヤリとした。

「ハァ、ハァ、あ~ギリギリ間に合ったぁ~。」縦巻先輩だった。

「こんにちは、ロール先輩♪」麗奈はニッコリ笑って近づいた。

「な~にが『こんにちは、ロール先輩♪』よ!!やっぱりあたしのことナメてんでしょ~!来る途中あんたがニヤケてるの、あたしこの目でちゃんと見たんだからね!あと、だれがロール先輩って呼ぶのを許したのかしら!許可した覚えないんだけど!ちょっと高橋麗奈きいてんの…ってアレ?!」

縦巻…いや、ロール先輩は周りを見回した。

いつのまにかみんながいなくなっている。

「ってあ~!!もうあっちで準備運動始めてるし!」

待ってよ~というような感じでみんなの元へドタドタと走っていった。

ロール先輩は中3だが、マネージャーを除いて足の速さがビリという悲しい所がある。

勉強も理科を除けばあまり得意ではない。

そんな彼女の唯一自慢できることといえば、すざまじく視力が良いことだ。

彼女の視力は両目共に2.5。

校内で一番視力がいい。

ちなみに、ロール先輩というあだ名は麗奈が最初におもいついて呼んでいる。

時々他の部員にも呼ばれているが、その都度叱ってくる。

でもそれがまた面白いから麗奈はそう呼びたくなってしまうのだ。

ちなみに本名は縦巻百合花。

準備運動が終わり、今日の最初のメニュー「サブグラウンド10周」をこれからやろうとしていた時、美香が言った。

「あれ?そういえばまた鈴川さんがいな…」美香が言い終わらないうちに、

「すっすみませんっ!おっ遅れましたぁ~!!」というちょっとかわいらしい声が遠くからきこえてきた。

「ハァ、ハァ…」荒い息づかいで下をみている。

「いつも遅いぞ、鈴川。」夕凪先輩が静かに、でもどこか鋭い一言を鈴川さんにぶつけた。

「はっはい!本当にすみませんっ!」ビクッとして立ち止まった。

「…ペナルティーとして腹筋、背筋、腕立て全て30回!」

「はいっ!わかりましたっ!」と言って早速始めようとする。

美香が足を押さえてあげた。

「どうしてまた遅れたの?」

「あっあの………、今日は……、トイレがいつも…以上に…長く…なって…しまい…まして…。」腹筋しながらなので、ところどころきれながらも、それを伝えた。

「大丈夫?お腹の具合が悪いの?」

「そういう…わけ…ではない…ですけど…。」

「そっそうなんだ。でもマネージャーは本当は常に遅れちゃいけないのよ。1ヶ月に5回くらいそうじゃない。だからペナルティーを受けるようになっちゃうのよ。マネージャーだからマシな方だけど、そうでなかったら、もっとツラいのをやんなきゃいけなくなるわよ。だから気をつけて。」

「はい…気をつけ…ます。」ちょうどそこで腹筋が終わった所だった。

鈴川理沙は中1で、美香と同じくマネージャーになった子だ。

1ヶ月に5回くらい部活に遅れてしまうのでペナルティーを受けている。

遅れる理由は2パターンあって、1つは委員会の仕事で遅れた、掃除をしていて遅れたなどのまともな理由な時とトイレが長くなって遅れた、着替えるのに時間がかかって遅れたなどのくだらない理由の時がある。

多いのは後者の方である。

しかし、追試で遅れたり、補習にひっかかって出られなかったりすることはないため、勉強はそこそこできるらしい。

鈴川さんが来たことで、陸上部員はこれで全員そろった。

「今日は、確か500m走のタイムを競うんだっけな。」勇気が思いだして言った。

「えっ、本当!?よっしゃ~、やってやるわよ~!!」麗奈はハリキって言った。

「お前そんな熱血キャラだったけ?」

「そうよ!女でも熱血はあるのよ!男の方がもしかしたらないのかもねぇ~。」と少しからかってみる。

「はぁ!?お前男をナメてやがるな!みてろよ!今日こそは男の意地ってもんを見せてやるからな!!」

「ふっ、それは楽しみね。」といって、2人とも互いに目と目の間に電気が走っている。

そして、今も麗奈達は走っている。

「サブグラウンド10周」のちょっと5周あたりか。

時にはつらく、時には厳しいが、麗奈はこの陸上部が大好きだ。

他の運動部と比べると人数が少ないが、皆仲が良くて楽しい部活。

麗奈はそう思っていた。

実際にそれは当たっていた。

…はず。

はずなのに、まさかこんなことが起きてしまうなんて、この時の麗奈には想像がつくはずもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ