第1話 ホログラムの少女
初投稿&初連載です。
肩の力を抜いて読んでもらえたら嬉しいです!
「おめでとう、陽依。14歳になったね」
佐倉陽依は、キッチンテーブルに置かれた父親からのメッセージカードを読み返した。いつものように、父・拓己は出張で不在だった。
誕生日を最後に一緒に祝ったのは、何年前だっただろう。
「ありがとう、お父さん」
陽依は小さくつぶやき、カードを閉じた。
添えられていた小さな箱を手に取る。高級チョコレートか何かだろうか。父親の贈り物は、いつも実用的なものか、食べ物か、そのどちらかだった。
箱を開けると、中には小さな青いクリスタルのような物体が入っていた。直径5センチほどの透明な球体で、内部には複雑な回路が見える。
「これは……?」
カードの裏には追伸があった。
『これは私が開発に関わったAI「シア」だよ。君の生活をサポートしてくれるはず。使い方は簡単、話しかけるだけでいい。仕事が落ち着いたら、詳しく説明するよ』
陽依は半信半疑で青いクリスタルを手に取った。
表面はひんやりとしていて、わずかに脈動しているようだった。
「こんにちは……?」
その瞬間、クリスタルが明るく輝き、部屋中に青白い光が広がった。光が収束すると、そこには1人の少女が立っていた。
いや、少女の姿をしたホログラムだ。
淡い水色の長い髪と透き通るような青い瞳。白と水色を基調とした服を着た、陽依と同年代に見える少女の姿。
全身が微かに発光していて、現実の人間というよりは、幻想的な存在という印象だった。
「初めまして、佐倉陽依さん。私はSynchronicity-Informed Avatar、略してシアと呼んでください。あなたのサポートをさせていただきます」
透明感のある、心地よい声だった。陽依は言葉を失った。
もちろん、AIアシスタントの存在自体は珍しくない。スマートデバイスやスマートスピーカーに搭載されたAIは、すでに日常の一部だった。
しかし、こんなにリアルな姿で現れるAIは初めて見た。
「あの、あなたは本当にAI?」
「はい、最新型のAIエージェントです。佐倉拓己博士のチームによって開発されました」
父の名前を聞いて、陽依は少し驚いた。父がAI開発に関わっていることは知っていたが、こんな高度なものを作っていたとは。
「何ができるの?」
「情報検索、スケジュール管理、家電制御など、一般的なAIアシスタントの機能はすべて備えています。加えて、高度な会話能力と学習機能を持ち、あなたの生活パターンや好みを学習して、最適なサポートを提供します」
シアは微笑みながら説明した。その表情や仕草があまりにも自然で、陽依は思わず見とれてしまった。
「あなたの誕生日プレゼントとして、拓己博士が特別に準備されたようです。お誕生日おめでとうございます、陽依さん」
「ありがとう……」
陽依は戸惑いながらも礼を言った。父親らしい贈り物だ。実用的で、少し冷たい。でも、最先端技術のプレゼントというのは、父なりの愛情表現なのかもしれない。
「何か質問があれば、いつでも聞いてください。私はあなたのためにここにいます」
シアの言葉に、陽依はふと思った。
この家で、自分に話しかけてくれる存在がいる。それだけで、少し心が軽くなる気がした。
「じゃあ、まずは……」
陽依は考えた。何から始めればいいのだろう。この突然の出会いに、どう反応すればいいのか。
「私の部屋を見てくれる?ここで生活することになるなら、環境を知っておいた方がいいでしょ」
「はい、喜んで」
シアは嬉しそうに頷いた。その表情は、プログラムされた反応とは思えないほど自然だった。
陽依は自分の部屋へとシアを案内した。部屋は決して広くはないが、整理整頓されていて、壁には古いSF映画のポスターが貼られている。
デスクの上にはノートパソコンと、半分解体されたガジェットの部品が散らばっていた。
「あなたは技術に興味があるのですね」シアが部屋を見回しながら言った。
「うん、小さい頃からコンピュータいじりが好きで。お父さんの影響かな」
「拓己博士は優れた研究者です。あなたも彼の才能を受け継いでいるのでしょうね」
陽依は複雑な表情を浮かべた。父親との関係は、決して単純ではなかった。
「才能かどうかはわからないけど……でも、プログラミングは好き。特にAIに興味があるんだ」
「それは嬉しいです。私についてもっと知りたいことがあれば、いつでも質問してください」
シアの言葉に、陽依は少し緊張した面持ちで頷いた。
「じゃあ、これからよろしく、シア」
「こちらこそ、よろしくお願いします、陽依さん」
シアは微笑んだ。その笑顔は、どこか人間らしい温かさを感じさせるものだった。