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恐怖を砕く意志


ミファ……頼む、無事でいてくれ。

絶対に助けてやるからな。

魔力は十分ある、奴ら見つけたら……全員灰にしてる。

 

「よし、では息子よ、ライフちゃんに言われた通りに動くんだぞ」

 

セイメイが頷いたのを見ると、ライフさんはまた指を鳴らした。

瞬間、視界が歪み、知らない湖の近くにテレポートした。

 

「あの小屋が見えるか? 魔力の流れ的にあの中にミファちゃんがいる」

 

あの中にミファが囚われてる。

許せない、アイツら、あの赤い鎧の奴らが許せない。


「なら急いで行きましょう! 中にテレポートで飛ぶとか出来ませんか?」

 

ライフさんは首を横に振る。

それと同時に、襲ってきた敵について語りだした。


「テレポートは本来脱出や移動用の魔術だ、攻めるのには適さない、それにテレポートは出現時に少し隙が出来るから使うにしても小屋の中に入るのは絶対にダメだ」

 

テレポートに隙が出来るという俺が知らない理由で意見を却下された。

学校ではそんな事言われなかったし、教科書には攻めにも守りにも日常生活まで全てを便利にする魔術師なら必須の魔術だと書いてあっただけだが、ライフさんレベルの魔術師が言うのなら、それが正しいのだろう。


「それよりあいつら、あの赤い鎧の剣士達、あれはVaoo・Dite教団の剣士だ、分かるだろ?」

 

Vano・Dite。

ばのでぃーて。

ヴァノディーテ。

……ヤバい、歴史に出てきたような教団か?

ライフさんは普通に知ってるだろみたいな感じで行ってるけど、まったく分からない。

こんな事ならもっと勉強を……はっ!

 

『歴史を学ぶのは過去の敗北から学ぶ為ですよ』

 

ミファの言ってた事は間違ってなかったって、今身をもって理解しつつ、怒られるのを覚悟して正直に答えよう。


「いえ……その、知りません」

 

「何、知らないだと?」

 

睨まれてる!

やっぱり歴史を知っていたら、特別魔術科の生徒なら知っていて当然のヤバい団体なんだ、そうに違いない。


「あの……俺勉強不足で」


「勉強? アレについて勉強できる訳がないだろ……とにかくついてこい」

 

ライフさんに促され、遠回りで小屋に近づいていく。

窓は無い。

ドアは一つだけ。

この距離じゃ俺の魔術で中に何人いるか把握出来ないし、魔術を逆に探知される可能性があるから……何も出来ない。

 

「ふむ、姫様は特別魔術科の生徒にも話してなさそうだが、そうなると私からどこまで話していいのか……いやそうなると軍にも……」

 

姫様が話していない?

姫様って……第四大陸を支配する王家のあの姫様か?

でも何であの人が出てくるんだ。

入学式で見たきり、あの人を見た事も、声を聞いた記憶も無いのに。

 

「教えて下さい、ミファを攫った奴らは何者なんですか?」

 

少しの間の後、ライフさんは口を開いた。

 

「あれはそうだな……人々を洗脳する教団だと思っていい」

 

「洗脳……ですか?」

 

「ああ、かくいう私の同期も一人洗脳にやられてな、今は第六大陸に……動くな」

 

ライフさんに言われる間もなく、俺は動きを止めていた。

原因はあの小屋から出てきた長い白髪の少女だ。

ここからでも、五百メートル以上離れているこの場所からでもはっきりと分かる。

視線が彼女に向いてしまう、目を背けたくてもそれが出来ない。


化物だ。

これまで見た悪魔のどれよりも強力な魔力の流れがあり、体内にとどまる事なく周囲を魔力で歪めている。

彼女と戦ってはいけない。

彼女は、おそらくライフさんと同格の存在だ。

 

どす黒い魔力が周囲を埋め尽くすが、彼女自身は赤い鎧の剣士と何かを笑顔で話している。

幼く、優しそうな見た目と魔力の違いがありすぎて不気味だ。

 

「……聖女ミウクがここに居るとは」

 

心臓の鼓動が聞こえる。

身体が戦うのではなく逃げる事を選んでいるようで、このまま近づかれたら生きる事からも逃げようとしてしまうかもしれない。

額から流れ出る汗が目に入り、反射的に瞬きをした。

瞬きの瞬間で、魔力の圧が消えた。

見ると、あの少女、聖女ミウクとやらもいなくなっている。

 

「……ハァ、ハァ」

 

呼吸する事すら忘れていた。

何だあの人、一人で魔王を倒せるんじゃないか?

 

「ゆっくり息をしろ、ライフちゃんの匂いを取り込むようにゆっくりな」

 

「あ、あの人は……さっき聖女とか言ってましたけど」

 

ライフさんは俺と話しているが、俺を見ていない。

周囲を警戒し、いつでも戦えるようにしているのだろう、色々な魔術の気配がする。

しかしそのどれもが俺でも分かるレベルで簡略化された魔術の術式で組まれていて、ライフさんと俺の距離、触れるまであと一歩の所まで近づいても魔力が殆ど盛れていない。

これなら、探知もされない。

 

「詳しい事は話せない、だが言わなくても分かるだろ? アレはナーパムの勝てる相手じゃない」

 

あんなのがいる小さな小屋にミファは閉じ込められている。

大丈夫……ミファは強いんだ……だから、大丈夫。

大丈夫であってくれ。


「アレが居たとなれば話は別だ、急ぐぞ」

 

「はい!」

 

「テレポートは出来るな?」

 

「それは……一緒に飛ばしてもらえませんか?」

 

俺の提案に対し、ライフさんは首を横に振る。

 

「今はなるべく高位の魔術は使いたく無い、ミウクに探知されたらライフちゃんは大丈夫だが、ナーパムは死んでしまう。流石に近くまでテレポートしてナーパムを守りつつ戦闘になったら……ライフちゃんは勝てる気がしないからな」


当然じゃないか。

今の俺はただのお荷物。

ライフさんの手助けなんて出来やしないのに、俺だけ助けてくれなんて言うのはおかしい。

 

テレポート失敗で壁に込んだ記憶が蘇る。

……怖い、あんな痛い思いはもうしたくない。

 

「テレポートぐらい、ミファの為ならできます!」

 

でも、それ以上に、ミファを早く助けたい。


「では行くぞ、ライフちゃんは移動してからすぐ周囲小屋全体的を保護しつつミウクが戻ってこないかを警戒するから……ミファちゃんはお前が助けろ」

 

ライフさんが何も言わずに、小屋近くの上空にテレポートした。

そして、魔力を放ち出した。

あの少女と違う、優しく温かい魔力だ。


落ち着け。

座標認識、出現先空間の異常物、動体も確認よし。

 

「テレポート!」

 

俺は、テレポートを成功させた。

久しぶりに使ったが、うまくいった!


少しの喜びと同時に、魔術を展開していく。

小屋ごと吹き飛ばし、燃やし尽くすのは簡単な話だが、中に入ってミファを助けるとなると普段のように爆発させたり火炎を生み出す高威力広範囲の魔術はダメだ。


「フレイムシールド、ダガーオブフレイム、ロックオン……よし」

 

小型の炎で作られたナイフを四つ創り出すダガーオブフレイム。

素早く標準を定め、投げたタガーがその通りに飛ぶようにする為のロックオン。

それでもミファに当たりそうになった時の為、フレイムシールドを彼女の前に素早く移動させて炎系のダメージを吸い取る。

よし、これでいい。

 

テレポート先の小屋の裏から正面に回る。


このドアを開けてから、まずミファの前にフレイムシールドを移動させ、ミファ以外をロックオンで狙い、ダガーオブフレイムで倒す。

イメージはできた。

あとは、この扉を開くだけ。


「ミファを返せ!」

 

ドアを開けると……そこには。

椅子に座るミファと二人の兜を脱いだ女騎士の死体が転がっていた。

気の所為だろうか、死体は今すぐ死んだ感じではなく、少し崩れているような気もする。

だがそれらの首は綺麗に切断されていて、小屋の中央に座るミファが倒したのだと理解すると、そんな些細な事はどうでも良くなっていった。


「ミファ!」

 

「ナーパム!」

 

魔術を解除し、彼女に駆け寄る。

良かった、無事で良かった。

ミファが死んでいたら……俺は……。


「ミファ……ミファ……よかった……」

 

ミファ抱きしめる。

温かい、ミファの匂いがする。

俺の……大切な幼馴染が無事だった。

 

「こんな怖い所に来ちゃダメですよ、ナーパムにはまだ早いです、めっ!」

 

俺の腕の中で、彼女は頬を膨らませて怒っている。

だが、あの顔は本気で怒っている訳じゃないって俺は知っている。


「お前が攫われたって聞いて、怖くて……でも、お前が居なくなるって思ったらもっと怖くて」

 

ミファは優しく頭を撫でてくれる。

少ししか離れて居なかったのに、こんなにも彼女の手を嬉しく思うのかと自分でも驚いている。

 

「助けに来てくれた、そうですね?」

 

「ああ!」

 

「そうですか、ならいっぱい褒めないといけませんね」

 

「無事で良かった……本当に良かった!」

 

「えらいですよ、勇気を出して助けに来てくれてえらい、苦手なテレポートを使えてえらい、私の事を考えてえらい、いい子です、いい子いい子」

 

ミファに撫でられていると、ライフさんが空から降りてきた。

彼女はミファが無事だった事に驚きつつ、流石は金のブローチだと褒めている。

だがそんな雑談をしながらも、周囲の警戒を怠らない。

 

「大丈夫だ、ミウクは来ていない。これより全員をダルクマートの街まで送り届ける」

 

「ありがとうございます」

 

「しかしナーパムよ、ミファちゃんを抱きしめるとは中々大胆だな」

 

「あっ! いやこれは無意識に……」

 

言われてから気付いた。

俺はミファに抱きついている。

冷静になってみると……めちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「へぇ~、無意識に私の事抱きしめてたんですね〜」

 

ニヤニヤとするミファ。

抱きついた腕を離すと、今度は抱きつかれて離れられない。

クソ! 無事なのは嬉しいけど……顔から火が出そうなぐらい恥ずかしい。

 

「だが彼女を拉致されたんだ、無理は無い、許してやれ」

 

「……か、彼女……ですか?」

 

「ん? ミファちゃんとナーパムは彼氏彼女の仲なのだろう?」

 

ミファの顔が赤くなったり困ったりと変わっていく。

見ていて面白いけれど……。

 

「えっと……その……ま、まだ……じゃなくって……えーっとですね」

 

何故そんな話になる。

ミファとは幼馴染なだけで彼女では無い。


「違うのか? さっきミファちゃんはお前の彼女なんだからお前が助けろと言ったらナーパムは」

「とりあえずここを出ませんか! 死体が倒れてる所に居るのは気分が悪くなりそうです! あ! 今とても気持ち悪いです!」

 

言った。

確かにそう言ったけど!

あの時は気が気じゃなくて……。

ミファが……彼女……。


「へぇ~、ナーパムがそんな事言ってたんですね〜」

 

ニヤニヤと俺をからかおうとしているミファ。

ダメだ、顔から火が出る。

灼熱の魔術師ってそういう意味じゃないってのに!

 

「ああ、あの時の目はまるで獣だったぞ」

 

「ライフさん適当な事言わないで下さい!」

 

意識するな。

俺とミファは同じ家に住んでいるんだぞ。

アイツは幼馴染、そう、ただの幼馴染だ。

変に意識を向けて嫌われたくないだろ、落ち着けよ俺。

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

「ナーパム、帰ったらさっきの話聞かせて下さいね」

 

俺がミファに対してそんな事発言していないと言おうとした時、ライフさんはミファの手を掴んだ。

 

「ライフさん?」


「……ミファちゃん、帰ってから少しだけライフちゃんに付き合ってもらうぞ」

 

「あの……何か?」

 

「無事そうだが一応な、一応検査をするんだよ、ミファちゃんの安全の為だ」

 

ミファの手を掴むライフさんの瞳は、今日一番怖かった。

 

 家に帰ってきた後、ミファから暫く離れられなかったが、ライフさんが検査の為だと言って俺から彼女を取り上げた。

 

「ミファ!」

 

「落ち着け、このライフちゃんが一緒なんだからな、安全は保証する」

 

「大丈夫ですよナーパム、なるべく早く帰ってきますからね」

 

俺も着いて行きたかったが、身体検査等があり男を入れる訳にはいかないとか言われて……俺は今、家に一人ぼっちだ。

 

『なぁ、お前は小屋の中に居たのに何故ナーパムがテレポートを……』

 

見送った時、ライフさんがテレポートの事をミファに話していた。

きっと、精度が良かったとか褒めてくれているんだろうな。



 

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