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拉致されたミファ


 荷物を運ぶ馬車に乗り込んでから数時間が経った。

周囲から人の街は消え、俺達は今森の中の獣道を移動している。

馬車の動く音と、風で揺れる木々の音しか聞こえず、さっきまでのにぎわった場所から人気のない場所に移動した。

 

「この暗さは……悪魔が出そうだな、ナーパム」

 

木々に日の光を遮られ、空は木の葉に覆われている。

悪魔が現れる為の条件は暗い所かつ人の居ない所だ。

しかしここは前線から離れているし、移動してくるにしてはかなりの距離がある。

 

それでも、雰囲気は確かに……。

 

「ああ、居てもおかしくない」

 

セイメイが銀色の瞳を外に向けている。

索敵魔術を使っているのだろう、少しだけ瞳が光っている。

 

「……今のところはいねぇな」

 

「セイメイ、交代で索敵しよう」

 

「分かった、ミファさんは万が一に備えて防御魔術の準備を頼む」

 

「わかりました」

 

ミファが珍しく杖を持っている。

……そうか、今回は俺達だけじゃなくて荷物もある。

守るべき物が多いから使わないと守れないんだ。

 

「母さんは」

 

「ライフちゃんはおねむモードだ、息子よ、襲うなよ?」

 

「この環境で寝るな!」

 

ライフさんはどこから取り出したのか、ピンクのハート柄の布団を取り出して馬車の中で横になった。

……身長もやっぱりデカいよな、この人。

 

「この場所に現れる悪魔も人もザコばかりだ、そんな奴らにこのライフちゃんのラブキュアマジックパワーを使うなんて事はしたくない」

 

「母さん! ここは一応警戒を」

 

「私は寝る、夜這いはやめろよ? いくら好きでも親子なんだ……想いに答えられなくてすまない」

 

「……ハァ」

 

セイメイがため息を漏らすと、ライフさんは本当に眠ってしまった。

 

「まあまあ、元々非常事態に対応する為に同行してくれたのですから、ここは私達でどうにかしましょう」

 

「わかってるよ、ミファさん」

 

常に魔術で警戒しながら進むのは非常に疲れる。

魔力を常に変換し、流し続けるのだから消費も半端ない。


「しかしこんな危険かもしれない依頼ならハンターにすればいいのに」

 

「ハンターに依頼すると高いからな、学校にアルバイトって形で募集かける方が圧倒的に安いんだろ、仕方ない……交代してくれるか」

 

「ああ、お前はライフさんの隣で寝てていいぞ」

 

「俺はマザコンじゃないって言ってるよな?」

 

セイメイがそう答えた瞬間、馬車が止まった。

次に馬の断末魔のような、濁った鳴き声がして、ドサリと何かが倒れる音が……多分馬が倒れた音がした。

 

敵だ。

でも俺の魔術に反応は無かったぞ。

 

「ナーパム! 敵の反応は!」

 

「無い! どうなってやがる!」

 

「馬まで守れるようにしていませんでした、とにかく、ここは慎重に」

 

「悠長な事言ってられっか! ナーパム、行くぞ!」

 

セイメイが馬車から飛び出した。

地面に着地すると同時に赤い鎧を着た二人組が現れ、とてつもない速さで彼の首めがけて剣を振る。

どこから来た?

瞬間移動、テレポートで来たにしては魔力の流れはまるで感じなかった。

 

「ガードウォール!」

 

頭の中が疑問でグチャグチャになっていると、ミファが薄い青色で作られる防御魔術で剣を止めた。

俺は反応出来なかったが、彼女がいてくれたお陰で友達は死なずに済んだ。

 

「……ッ! ナイス、ミファさん! くらいやがれ!」


二人組のうち、一人には躱されたがもう一人にセイメイの放つ雷撃が直撃した。

よし、これであと一人……へ?

 

赤い鎧は立っている。

まるで何もされていないように、剣を握り直している。

あの人間……だとは思うが、並大抵の悪魔よりも強い。

 

「新世代と聞いていたが、この程度とは嘆かわしい」

 

「世界を救う魔術師が、その程度とは嘆かわしい!」

 

声からして二人共男だ。

人間なら魔術に対する耐性を何かしらの方法で上げている。


「人間かよ……仕方ない!」


セイメイは雷の魔術を細かく分け、小さなナイフのような形にして浮かせている。

あのサイズなら、鎧の隙間に差し込んで直接ダメージが与えられるはずだ。

 

「……ナーパム、貴方はライフさんを起こして下さい、いいですか、絶対に外には出ないで下さい」

 

「待て、ミファ!」

 

セイメイが構えると、ミファも馬車を飛び出して紫色の炎を身にまとった。

と、とりあえず俺はライフさんを起こさないと!

 

「起きて下さい! ライフさん!」

 

「むにゃむにゃ……ふふっ……馬鹿め……動きが鈍いぞ……セクション……」

 

「寝言言ってないで起きて下さい!」

 

外から二人が戦う音がする。

振り返ると、敵の数が倍の四人に増えてやがった。


「面倒だな、ハイテレポート!」

 

「「アクティブ!」」

 

二人が戦っているのと逆方向。

馬の死体近くにも四人剣士がいた。

移動の魔術、テレポートの最上位であるハイテレポートアクティブを四人がかりとはいえ……あんな簡単に発動するなんて……。

 

「ダメ! ナーパム!」

 

歪み空間。

最後に見えたのは、俺に手を伸ばし、涙を流すミファだった。

テレポートで飛ばされたのはミファ達じゃない。

俺とライフさん、それに荷物全てが飛ばされたんだ。

 

ミファとセイメイはあの集団の中で戦っている。

さっきまで森の中に居たが、ここは山肌の見えた植物の無い場所……つまり、かなりの距離飛ばされたって事だ。

俺達を探す余裕なんて無いだろうし、まずは……。

 

「どうすりゃいいんだ」

 

落ち着け、やる事を冷静に考えろ。

まず、ここから脱出する。

荷物は……最悪捨てるしかないな。

それであの二人を助ける。


敵の数は知らない内に増えていた。

最後に見えた時は八人だったが、もっと居てもおかしくは無い。

 

ミファが、危ない。

 

「動くな」

 

補助用の杖を握ると、俺の首筋に冷たい何かがあてられる。

見なくても分かる、これは剣だ。

 

「……物資ならやる」


対人戦は殆どやった事がない。

魔術は悪魔を倒す為の物、だから学校では対悪魔の動きをメインに教えられるし、俺も対人戦は重要視していなかった。

それでも、人であれば多少なりとも魔力の流れは存在するのに、コイツの魔力の流れを俺は認識できていない。

 

魔力の気配は無い。

魔力を外側に出さない技術を習得した剣士か?

そんなの聞いた事ねぇぞ。

 

「物資も命も貰う、じゃあな」

 

敵の数は未知数。

だが、まずはコイツから倒す!

 

「ブースト!」

 

首を少しだけ斬られたが、少し前方に飛ぶ魔術を使って死を回避した。


「ならこっちの女を殺すだけだ!」

 

「させるか! フリントロック!」


フリントロックは指定した場所を着火しやすくする魔術だ。

鎧の上からじゃダメだ、ならこの魔術で鎧の中を指定して炎を出現させれば……あの剣士は倒せる!

 

「ファイア!」

 

着火の為の炎魔術を使うが、魔術が発動しない。

だけどこの感覚は何だ、まるで押し戻されているような……。

いやそんな事より、あそこにはライフさんが寝ている!

 

「ライフさん!」

 

グチャッと嫌な音が響く。

普段、普通に生活していれば絶対に聞く事の無いような、音だけでも怯えてしまいそうな、そんな音だ。

 

「あ……が……」

 

「やれやれ、少し美少女が眠っていただけでこれとは……大丈夫か、ナーパム?」

 

ライフさんが起きた。

彼女の両手は剣士の頭をヘルムの上から押しつぶている。

魔術の発動までのスピードが余りに速すぎて、潰されているのが何故なのか理解するまでに少しだけ時間がかかった。

 

「それと……お前の魔術でこのぷるツヤ肌を火傷で醜くする訳にはいかなかったから魔術を阻害させてもらった、消費した魔力は戻らぬが、まぁこの可愛さに免じて許してくれ」

 

「……あはは、無事で良かったです」

 

「さてと、この状況は何だ? 寝込みを襲うのにこんな場所まで飛ばしたのか?」

 

「そんな事してませんよ! 実はですね」

 

「ちょっとした冗談だ、まず落ち着け、とりあえず元の場所に戻るぞ」

 

ライフさんが指を鳴らすと、さっきまで居た森に戻ってきた。

詠唱無し、さらに座標の特定の速さ……これが、勇者候補生だった人の魔術か。


「ついてこい」

 

五人の剣士の死体が転がっている。

その中で、膝をついている見慣れた奴がいた。


「ハァ……ハァ……クソが!」


セイメイだ。

……まて、ミファは何処だ?


「セイメイ!」

 

「……ナーパムに母さん!」

 

俺とライフさんを見て、彼は俯いた。


「ミファは何処行ったんだ?」

 

「……すまん」

 

すまん?

え?

おい、嘘だろ?

でもここにミファの死体らしき物は無い。


「何処行ったんだよ! 俺のミファは、何処に!」

 

「連れ去られたんだ! 俺もミファさんも必死で抵抗したけれど、敵の数は倍々に増えて、あの人は俺を見逃す事を条件に……クソ!」

 

連れ去られた。

ミファが、居ない?

そんなのダメだ。

助けなきゃ、早く助けなきゃ!

 

「息子よ、テレポートを連続で使って荷物を安全な所に隠し、お前はノクターンに報告しろ」

 

「なあ母さん、ミファさんを助けてくれ! あの人は俺を守る為に……自分を……」

 

「分かっている、だからさっさとその情けない顔を止めて、戦う意思を持て」

 

ライフさんが俺の肩に手を置く。

……不思議と頭の中がクリアになっていく。

落ち着いて、冷静になっていくのが分かる。

 

「お前の彼女だろ、力を貸してやるがお前が助けろ」

 

「はい!」

 

 

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