未亡人と幼馴染とアルバイト
第四大陸の東側、第五大陸に通じる大陸間洞窟の近く。
貴族ノクターンの支配する街には様々な物が売られているが、その中でも一番の目玉は美女だ。
この街では何もかもが売れる。
武器や防具といった物は勿論、生死の権利に悪魔の死体、様々な物が市場に並ぶが、俺達男にとって一番の目玉は美女だ。
「見ろよナーパム、すっげえ美女だぞ」
座り心地の悪い馬車には幌があり、雨風を防ぐと共に視界も遮っている。
だが、馬車の幌の隙間を見つけて外を見るセイメイがいきなり小声で俺に耳打ちをした。
「マジ? どこ?」
セイメイは席を代わってくれて、俺もその隙間から外を覗く。
「左下の籠の真ん中のねーちゃん、あのすっごい値段ついてる人」
美女のねーちゃんだと!?
いやー、馬車の速度が遅くて良かったよ、さてさてど美女は……。
「うほほ、マジじゃん、めっちゃ美女じゃん!」
「はぁ〜、あの胸に飛び込みてぇ〜」
「分かる、めっちゃ分かる」
セイメイと二人、漢の世界に入っていると視界がいきなり真っ暗になった。
「ナーパム君にはまだ早いですよ」
ミファの魔術で黒い何かが目を覆うように張り付いてる!
引っ張っても取れないし、魔術で燃やそうとすれば俺の髪まで燃えちまう!
「クソっ! セイメイ助けて!」
……セイメイの声がしない。
もしかして買いに行きやがったのか!?
「んぐっ! んがーっ!」
いや隣にいる。
だが、モガモガとまるで口が塞がれているような……。
「まったく、愚息よ、自分の母であるライフちゃんのこの爆乳に顔を埋めて嬉しいのは分かるが興奮し過ぎだ」
「むー! むーっ!」
「やれやれ、息子すらメロメロにしてしまうとは……私も罪な女だな……そんなに深く胸に顔を埋めて、お父さんに似たのか? フフッ」
この低い声。
セイメイのお母さんのライフさんだ。
「今日は同行していただき、ありがとうございます」
「気にするな、ライフちゃんはあくまで念の為ついてきただけだからな、中途半端な……ライフちゃんが手を出す必要が無いと判断すれば何もしないから、あまり期待するなよ」
今日の俺達の目的は金稼ぎだ。
赤貧洗うが如しの貧乏学生である俺とミファにとって日銭稼ぎは一番大事。
俺達はいつも通りアルバイトを探していたんだが、折良く学校から紹介して貰えたのが東側の貴族ノクターンの荷物輸送とその護衛のアルバイトだった。
貴族からの仕事は金払いが良いから、幸運を噛み締めつつ参加したって訳なんだが……。
『少し嫌な報告もあがってましてね……セイメイ君のお母さん、あの勇者候補生だった人も同行するのなら許可しましょう』
妙な事に先生に条件を出され、セイメイに掛け合って母親であるライフさんを紹介してもらって、今にいたる。
先生が言うには何でもここに、前線から遠くはなれたこの地に悪魔のものと思しき被害が起こってきるらしい。
ノクターンからの報告では、悪魔ではないかもしれないが悪魔かもしれないって事だと。
どうりで金払いがいいと思ったよ、悪魔が現れる中で輸送するとか前線とやってる事は同じじゃねぇか!
ま、だから先生はライフさんという超高級ボディーガードを付ける事を条件にしたんだろうな。
俺が先生の優しさを感じている一方で、セイメイはライフさんの爆乳に顔を埋めてやわらかさを感じている。
「しかしセイメイ、そろそろ母親離れせんとな」
……あの人、本当にセイメイを産んだんだよな?
髪色は同じだが……同い年ぐらいにしか見えない、産んでるとはとても思えない。
「離れろッ!」
顔中汗まみれになったセイメイが、肩で息をしながらあの飛び込みたい谷間……もとい、シアワセハッピーサンド……じゃなくて、母親の拘束から抜け出していた。
「ッ……ハァ……ハァ……魔術師に物理的に、窒息死させられるかと思った……すっげえ力で頭抑え込まれて逃げられなかったし……」
「フフッ、安心しろ、お前がライフちゃんから離れたくない気持ちは伝わっている、言い訳にしては苦しいが母親ラブなお前のプライドを傷つけるような事はしない、その言い訳で我慢してやる」
このセイメイと仲のいい彼女はライフさん。
勇者候補生の中でも最後の四人に残った超超超エリートで、あの魔王と戦いつつ生き残った数少ない魔術師。
だがそんな実績を持ちながらも、ライフさんからは強い魔術師から溢れる圧は感じない。
銀色の髪と瞳はセイメイにそっくりだが、身長はセイメイよりも高い。
180は……超えてるよな、俺より15センチは高い。
俺が挑めば2秒ともたないだろうし、ミファと比較しても圧倒的な差がある大魔術師。
家族への愛も忘れず、後輩である俺達の面倒まで見てくれる。
強く、優しく、それでいて爆乳の三拍子揃った非の打ち所がない人だ。
「もういいですよ、ナーパム君」
黒色の目に張り付いていた物がようやく消え、ライフさんの爆乳が目に映る。
成る程、こうして見るとやはりデカい、セイメイがあの中に顔を入れていたと聞くと少し腹が立つ。
何故怒るんだ、ご褒美だろ。
「む? 君、ナーパムだったか?」
「は、はい」
胸が喋った!
「君も男だ、このスーパーウルトラミラクルキュートライフちゃんの虜になるのは仕方ないが、流石にここを見過ぎだ」
腕で胸を強調するライフさん。
ミファとセイメイの目線が痛い。
視線を胸から顔に戻すように注意され、俺は名残惜しいと思う自分を抑え込み、ライフさんの顔を見る。
……この人は本当にすごい。
顔はかっこいい、クールなお姉さんって感じなのに、一人称は自分の名前にちゃん付け、さらに着ている服は俺達と同じ学校の制服なんだが、胸の部分についていたボタンは既に弾け飛び、全体的になんというか、ムチムチしている。
「おいナーパム! 母さんにだまされるなよ、見た目こんなんだけど中身は痛いババアだからな!」
……ハッ!
いけない、この感情は友達の母親に向けていい物じゃない。
抑えろ、思春期男子の心に宿る獣よ……静まれ!
「やれやれ、どいつもこいつも胸ばかり見るから困る、なぁ、ミファちゃん、女は辛いな」
「えっと……そ、そうですね」
ミファの胸の大きさとライフさんの胸の大きさを比べると、もう完全にミファの敗北だろうな。
この人の何分の一の大きさしか……。
ミファを見る。
小さい。
ライフさんを見る。
デカい。
ミファを見る。
あっ……目が合った。
「ナーパム君、今何考えました?」
「……いや、別に何も」
「じー」
やめろそんなにこっちを見るな!
「ハァ、まったくこの体には困った物だな、男なら誰でも虜にする。ああ、ライフちゃんの美貌とスタイルが憎い!」
「母さん本当に自重してくれ、母親が学生服でコスプレしていて同級生を誘惑してるとか、息子の俺がそれを見てどう思うかをかんがえてくれ」
「……嫉妬だな?」
「違う!」
しかし、あの先生の言葉には引っかかる。
恐ろしい敵……か。
悪魔じゃないとなると敵は……山賊とかかな?
「山賊かなぁ」
「どうしました、ナーパム君」
ミファが俺の横に座り直した。
クソ、そこに座られたらライフさんのデカいのが見えないじゃないか。
「先生が言ってた悪魔のような恐ろしい敵の話だよ、悪魔じゃないなら人だろうなって」
「何が出てきても大丈夫ですよ、ナーパムはそこで私を見ていて下さい、他には何もしなくていいですからね」
そう言うけどさ……敵がはっきりしないのって怖いだろ。
「セイメイ、このライフちゃんを守ってみせろよ? そうすれば今晩一緒に風呂に入ってやってもいい」
「だーかーらー! 俺をマザコンにするなってのーッ!」